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気づき



『どうしてこんなことをしたの!?』


崩れ落ちた少女は悲しそうに叫ぶ。大きな瞳からは今にも涙がこぼれてしまいそうだ。


『……こうするしか、なかったんだ』


青年は表情を変えずに言う。ただ真っ直ぐと少女を見ていた。その表情は、機械じみていて、人としての感情は見えなかった。壊れてしまっているのだ。もう…


『…ごめん……』


消えてしまいそうなほどかすかな声で呟いた。最後にそう言った瞬間だけ、悲しそうな苦しそうな表情が見えた。瞳が一瞬赤く煌めき、余韻を残して跡形もなく消えた。


辺りには少女の泣く声が鳴り響いた──…



**





どうして、今思い出したんだろう。ゲームのワンシーン。推しが出てくる場面。そして、それは最推しの見せ場の一つ。このシーンを再生する為だけに、何度も何度もプレイした。

誰がどの台詞を言うかを完璧に再現できる程度には繰り返しプレイしたし、本当に一瞬の場面だが、それぞれのキャラがどんな表情をしているかのかも知っている。


そのはずなのに、見る度に号泣していた。


だってそのシーンは、彼が初めて人間的な表情を、顔に出した瞬間だったから。



「ミステリアス、なんだよなぁ…」


そう、私の推しは謎が多い。ハマってから彼のことについて調べまくった私でも、知っていることといえば、「レオン」と呼ばれていたこと。深いけれど透き通った緑色の髪と瞳を持っていて、攻略対象者に引けを取らず、綺麗な男性だということ、くらい。


本当にそんなことしかわからない。ずぶずぶにハマって、情報源を調べ尽くしたのに。登場するイベントを何度見ても、公式のキャラクター紹介を見ても、ファンブックを見ても、攻略サイトを見ても、どこにも情報が載っていない。

それこそ意図して隠しているのではないかと思うほどに。あれだけ惚れる要素を散りばめておいて、何も分からないとわかった時の落胆は大きかった。


そんな情報がないことも"ミステリアス"だと言えるが、それと同時にゲームでストーリーやイベントで登場する際に、声だけだったり、仮面をつけていたりして



"顔が映らない"のだ。



攻略対象者に引けを取らないほどの顔の持ち主なのにも関わらず。宝の持ち腐れすぎる。


どうして顔が映らないのに美しさがわかるかって?


数回だけ、本当に片手で数えられる程度、素顔が写ったことがあったからだ。すごく、綺麗な青年だった。そもそも彼は登場する機会が多く、ストーリー的にもかなり鍵的な存在だった。それなのにも関わらず、"その数回しか"素顔が出なかった。


それに、顔が映ったと言っても一瞬で、普通のプレイヤーなら素通りしてしまうほどの僅かな時間。


けれど、私には忘れられない瞬間だった。


その僅かな時間に映った、無表情の中でも画面越しに伝わってくる深い悲しみが、期待することも何もかも諦めてしまった瞳が。真っ直ぐと、私を見ていた。私を、映していた。


そう思った瞬間、私の中の何かが、強く揺さぶられたように感じた。


今考えればきっと一目惚れのようなものだったかもしれないし、同情心や仲間意識だったのかもしれない。でも、その瞬間からもう私は、彼から目を逸らせなくなった。もちろん、顔が良かったのもあると思うけれど、それだけではない、彼が持つ"何か"にどうしようもなく惹き付けられた。



他にも数回だけだが、かなり重要なシーンで登場していたため、彼に落ちた人が複数いた。攻略者ほどではないにしろ、攻略者以外のランキングでは上位3位に入るほどの人気を博していた。そのおかげで、造られる素晴らしい二次制作が私の原動力となっていた。

顔が写っていない場面でも、こんな表情をしているんじゃないかと絵師様が想像したイケメン(最推し)が具現化しているものなどがあった。それはもう、語彙力が消滅するほど素晴らしい出来で!もう、もう……ほんとに、おいし、ごほっ…素晴らしすぎる。



そもそも彼は、悪役令嬢が主人公達を妨害するために雇った暗殺者だった。高位貴族から依頼されるほどの腕の持ち主で、強いのはもちろん、その素早さと美しさから"緑宵(りょくしゅう)"という名で呼ばれることもあった。

最初の頃は、あまり話さず、無言で淡々と襲いかかってくることが多かった。そして、彼はこんなに序盤で出てもいい敵なのかと思うほど、凄く強く、最初に負けた敵でもあった。


そんな彼を見ていて、今までどうやって過ごしていたのかは分からないが、"感情"がどんなものか分からないように感じた。主人公たちの攻撃によって深い傷が付き血が溢れていた時は、そのことにすら気づいてないかのように戦い続けていた。人を倒す時は、表情は変わらず、相手の顔すら見ていない。彼からは、"こころ"を感じなかった。喜怒哀楽も、痛みでさえも疎いように感じた。本当に機械のようだった。


『……』


仮面の隙間から覗く、ガラス玉のような瞳を思い出す。その瞳からは何の意思も感じない。彼は、本当にただ、そこにいるだけだった。


そんな彼が、主人公と関わって触発されていく。最初は無言で戦っていたのに、言葉を交わしながらになっていった。主人公達が強くなったためか心なし最初よりも楽しそうに見えた。


その僅かな変化がたまらなかった。人はどうしても育ちによって考え方が決まってしまう。過酷な環境の中で育つと"愛"や"感情"を知らないまま、何とも思わず人を傷つけられる人になる。

けれど、彼は主人公達と関わることで人の感情を知っていった、その優しさに、勇気に触れられた。はじめて感じる感情に戸惑いながら"人として"成長していく彼に惹かれた。


敵対しているにも関わらず、主人公達に触れて、感情に疎かったのに、最後には命令に背いてでも守ろうとしていた。その覚悟が、優しさが、勇気が凄く好きだ。



謎が多く、顔も映らない、登場はするが、スポットライトは当たらない。

けれど、そんな彼は"人として"成長していった。彼なりの不器用な優しさを、人を守りたいという覚悟を、あんな目をしていた人が思ったのだ。


そんな彼を見守りたいという気持ちが自分でも驚くほど強くなって、『推しへの愛』に変わった。あの時見た悲しそうな瞳が、少しでも暖かいものになって、優しい人たちと幸せに過ごして欲しい、そんな願いに。


他の攻略者も、主人公も、もちろん魅力的。でも、やっぱり「レオン」の、「緑宵」と呼ばれた彼の成長を見るのが1番好きだった。


話したいこと、推しポイントなどなど語りたいことは沢山あるけれど、語りだしたらかなり長くなるので、諸々割愛しますが








いつも推しが尊い







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