第一章 違和感①
西条から手渡されたケースの中身はサンプルだった。
関東の土壌で採取されたサンプル、水、人体から採取されたサンプル。そしてもう一つは血液だった。名前はない。「この血液は誰の…?」そう西条に目で訴えたが、答えは返ってこない。その時ふと思った。この血液はもしかしたら感染者の血液なんじゃないか…と。けれど、一体誰の…?どうして西条さんが…?これも渡された今朝のサンプルなの?と疑問が疑問を呼ぶ。
血液が入った採血管を手に、真理子は必死に考えた。もしかして今回のこの件と西条さんは何か関係があるのか…と。その時、遠くからヘリの音が聞こえた。
屋上にいる全員がこちらに向かって飛んでくるヘリの音に耳を傾けた。
ヘリは上空でホバリングをした後、ゆっくりとヘリポートめがけて着陸する。扉が開き、武器を手に数人の男たちが下りてきた。
「遅くなりました、お怪我はございませんか?」
誰に対して言ったのかは分からないが、一人の隊員がそう言った。真理子たちは数回頷くと、隊員たちに囲まれながらヘリの中へと乗り込んでいく。ヘリの中にはすでに生存者がいた。ここにいると言うことは、みんなあの事態を乗り越えた生存者だと言うことを示している。
真理子たちもまたあの中を生き延びた生存者だった。ULIの生存者、つまり非感染者は真理子を含め全部で二〇人。ULIの職員は二〇〇人いたので犠牲者、つまり感染者は一八〇人という信じられない数になった。ヘリはプロペラ音を鳴らし、空高く飛んでいった。時々風に煽られているのか機体が揺れる。
「町がこんなことになるなんて…」
真理子の呟きは、機体が鳴らす音によってかき消されていた。ふと目の前に座る雅子の顔が目に入る。何かを考えているのか、いつもとは違う表情だった。真理子は視線をずらし、隣に座る西条を見た。西条もまた表情から考えが読み取れない顔で、雅子をじっと見ていた。
『もう少しで到着します。ここから先は安全なので、みなさん安心してください。この先少し機体が揺れます…』
ヘッドホン越しに聞こえてくる隊員の声。ヘリにいる生存者たちの顔はどこか安心していた。
目的地に到着したのか、機体はゆっくりと高度を下げて行く。体にかかる圧迫感を感じながら、ヘリの扉が開くのを待った。
「長時間、お疲れさまでした。このあと担当の者が案内しますので、ヘリを降りたら今しばらくここでお待ちください」
隊員はそう言うと、ヘリの中にいる雅子に目で合図をした。雅子はそれを何とも思わないのか、すんなりと受け入れ隊員についていく。
「お、おばちゃん…?…どうしたの…?何でその人たちに…ここで待っててって…」
「“おばちゃん?”君、失礼じゃないか!この方を“おばちゃん”などと呼ぶんじゃないっ!この方は…」
「いいのよ。この子は特別なの。うちにとって“必要な存在”よ…。分かったら、この子は大事に扱ってちょうだいね」
雅子と隊員のやり取りを見ていたULIのメンバーはあっけにとられていた。真理子もまた言葉を失い、ただ茫然と雅子を見ている。
「し、失礼しました。」
雅子に叱られた隊員は頭を下げ、一歩下がった。すると、遠くから数人の隊員を引き連れてやってきた隊員がいた。一際体が大きく、口ひげを蓄えたいかにも軍隊の男というような人だ。彼は雅子に一礼すると、部下に雅子を連れて行かせ、鋭い猛禽類のような視線をヘリの中へと注ぐ。その視線に圧倒される生存者たち。
「この列の生存者は下りろ。この隊員についていけ」
男に指示されたのは、林田、大迫、牧野のULI職員を含めた生存者六人。案内するのは女性隊員だ。
「今からあなたたちを案内します、保護班のリアトリスです」
女性はそう言い笑顔で微笑む。リアトリスと名乗った女性を前に、集められた六人は戸惑いの色を見せる。それでも女性は話を続けていく。
「あなたたち六人には今から、検査を受けてもらいます。この検査で異常がなかった者のみ、この背後にある建物に入ることが許されます。皆さん全員が集まった際に、この施設について幹部よりお話があります。それではみなさん行きましょうか」
生存者たちに一言も話す隙を与えずに、リアトリスと名乗った女性はざっと説明した。
この辺りから、コードネームが出てきます。
…何で?
かっこいからです(笑)




