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二人は迷わず洞窟へと飛び込んだ。
洞窟は奥が行き止まりで、人が十人も入ればいっぱいになってしまう広さだった。
先客が居た。
二人だ。
一人は洞窟の壁にもたれかかり、胡座をかいている。
行者姿の老人だった。
片眼に黒革の眼帯をつけていた。
もう片方の眼は閉じられている。
老人は肩で息をしていた。
大怪我を負っているのだ。
腹の辺りからの出血が老人の下半身を朱に染めあげている。
老人の呼吸は早く浅い。
このまま放っておけば遠からず命を落とすだろう。
もう一人は老人の前に、うつ伏せで倒れていた。
黒い忍び装束に身を包んでいる。
右手に小刀を握っており
その刀身に老人のものと思われる血が、べっとりと付着していた。
性別も分からないその人物は全く動かない。
親子は言葉を失った。
が、信虎はすぐに手前に倒れている忍び装束の人物の肩に触れ「おい」と声をかけた。
返事はない。
信虎は肩にかけた手に力を込め、人物を仰向けにした。
「あっ」




