八十八話 救援
私はミーシャを背負うと、花の蔓を伸ばしてミーシャが落ちないように身体を固定する。
その状態でミーシャは私の身体の前に腕を回して回復魔法をかけ始めた。
お爺さんは定員オーバーなので一緒に走ってもらう。
……大丈夫かな。
「心配せんでも、走るくらいでへたばるほど衰えてはおらんよ」
表情に出ていたのか、お爺さんは私の顔を見てそう言ってきた。
……それならいいけど。
でも、着いてこられなかったら置いていくからね?
私は根っこを引っ込めたブーツで何度か地面を軽く蹴ってみる。
怪我のほうは問題なさそうだね。
さて、行きますか!
私は左足に力を込めると、短距離走の選手もビックリの速度で一気に飛び出した。
反動で地面が抉れ、草葉が飛び散る。
車が急発進したように身体にGがかかる。
「はわわわーっ!」
ミーシャはさっきよりも回した腕に力を込めて必死でしがみついてくる。
花の蔓で押さえているから落ちたり飛んでいったりしないよ。
そんな状態でも、ミーシャは回復魔法を止めないあたり凄いと思う。
三メートルほど進んだところで今度は右足で蹴る。
隣の持ち場とは二百メートルほど離れているため、移動も数秒はかかる。
前方を見ると、右手にあるバリケードから、左手の魔物の群れに向かって様々な魔法や矢が放たれている。
群れの中にはワイバーンも一体いるが、波状攻撃でなんとか押し留めているようだ。
ただ、魔物たちが結構バリケードの近くまで寄っているところを見るに、徐々に押されているようだね。
それと、そこにいるはずのダボルスさんのパーティメンバーが見当たらない。
もしかして、もう……。
「お花さん、あれ!」
私が最悪を想像する前に、ミーシャが右手を伸ばしてバリケードのほうを指差す。
指された方を目で追うと、そこには両側を支えられて運び込まれる人が見えた。
確かあれは……会議室にいたダボルスパーティの一人だ!
よかった、生きてはいるみたいだね。
心の中でホッと息をつくと、気持ちを切り替える。
なら、あとはあのワイバーンを止めるだけだね。
私はさらに力を込めて平原を駆けぬける。
数秒後、魔法と矢が放たれるバリケードの下へとたどり着いた。
「あなた、隣の持ち場の――」
「確か、アルネさん!」
「なんでこちらに!?」
バリケードの向こう側から冒険者たちが私を見て驚いている。
あれ、もしかして笛のことが伝わってない?
……まあいいや。
私はバリケードの傍に寄ると、身体を固定していた花の蔓を引っ込めてミーシャを下ろした。
そのタイミングで、お爺さんが隣に並ぶ。
あれ、もう追い付かれたんだ。
意外と早いね。
「まだまだ若い者には負けられんよ」
お爺さんは不敵な笑みを浮かべてそう言う。
ほんと、この人何者なの?
ただの本屋じゃないよね?
「あの、もしかして、助けに……?」
……お爺さんのことも気にはなるけど、今はワイバーンのほうが先決だね。
私が尋ねてきた冒険者の言葉に頷くと、バリケードの中がワッと沸き上がる。
さて、ミーシャのお陰で大分傷も塞がったし、やっつけちゃうよ!
「お花さん、無茶はしないでね……?」
心配そうに目を潤ませるミーシャの頭をポンポンと軽く叩くと、私は前に向き直り、あの時と同じようにブーツに魔力を込めた。
ブーツから根っこのようなものが多数伸び、地面へと潜り込んでいく。
地中に根っこが張り巡らされていくと同時に、地中から魔素を吸い上げていく。
吸い上げた魔素は順に魔力へと変換していく。
また身体が軋み、悲鳴をあげる。
けれど、さっきとは違い吸い上げるスピードを加減しているためか、身体が裂けたり血が吹き出たりすることはない。
私は集中して大量の魔素を捌いていく。
丁寧に、けれど素早く。
そうして溜まった大量の魔力を、伸ばした両腕の先へ集めて魔法へと換えていく。
使う魔法はもちろんウォーターカッター。
……それしかワイバーンに有効打がないともいう。
両腕の先に巨大な水の円盤が生まれる。
さらに魔力を注ぎ込み、高速回転させ、ワイバーンへの誘導も付与する。
さっきは気にならなかったけど、こうして落ち着いて作ってみると、キュインキュインと風切り音がうるさいね。
冒険者たちが何やら騒いでいるが、聞こえないことにした。
そろそろいいかな。
私はできあがった直径一メートル以上のウォーターカッターを、ワイバーンへ向けて打ち出す!
ワイバーンは自身に向かって飛んでくる水の円盤に対して、翼を閉じて対処する。
でも残念。
それくらいじゃ止まらないことは、実践済みだよ!
高速回転する水の刃は、防御体制をとったワイバーンを翼ごと真っ二つにした。
さらにウォーターカッターは後ろにいた他の魔物も何体か巻き込んだあと、ようやく消えた。
――うわあ。
自分で作っておいてなんだけど、威力がヤバいね。
正直、ちょっと引いた。
「い、今のうちに体制を立て直せ!」
「手の空いた者で総攻撃だ!」
一瞬唖然となっていた冒険者たちが、この機を逃すまいと慌てて攻撃を仕掛け始める。
これならもう大丈夫そうかな?
その様子を見て、私はブーツの根っこを引っ込めた。




