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七十九話 スタンピード

 王都へ来て二週間が過ぎた。

 当初の予定より早く生活の基盤が整い、安定した生活が送れている。

 これも、家を貸してくれたり、一緒に依頼を受けてくれたりしてくれるリルカのおかげだね。


 そんなわけで、そろそろ本腰を入れて本来の目的――ミーシャの両親探しに取り掛かろうかなと思い、私はミーシャを連れて冒険者ギルドへ向かっていた。


 慣れ始めた通りを抜けてギルドの前へ到着すると、冒険者の格好をした人たちが慌てた様子でギルドを出入りしているのが見えた。

 ……何かあったのかな?


「どうしたのかな、お花さん?」


 ミーシャの問いかけに私は首を傾げる。

 いや、私にも分からないよ。

 とりあえずここで見ていても分からないので、人が途切れたタイミングで私たちはギルドの扉をくぐる。


 中はより一層酷いことになっており、不安と焦りが入り交じったような表情を浮かべた冒険者たちが、受付へと殺到していた。


「早く説明してくれ!」

「状況はどうなんだ!?」

「お、落ち着いてください……!」


 受け付けのお姉さんたちがなんとか宥めようとしているが、冒険者たちの興奮は治まる様子がない。

 うーん、変なタイミングで来ちゃったかな。

 急ぐことでもないし、日を改めよう。

 そう思って踵を返そうとしたとき――。


「あー! アルネさんとミーシャさんっ! ちょうど良いところに!」


 受け付けのお姉さんの一人が突如として私たちを指差してきた。

 その手に釣られるように、冒険者たちも一斉に私たちの方を振り向く。


「……ひっ!」


 突然のことに、ミーシャが小さく悲鳴をあげて私の後ろに隠れてしまう。

 ちょっ、ミーシャを怖がらせるんじゃない!

 安心させるように左手をミーシャの頭に乗せると、冒険者たちと受け付けのお姉さんをキッと睨み付ける。


「……っ! あ、あれが噂の……!」


 静まりかえったギルド内で、誰かの息を飲む音が聞こえた。

 噂の……?


「アルネさん、ミーシャさん。驚かせてしまってすみません……! ですが、緊急事態なのです。至急、奥の部屋まで来て下さい!」


 さっきの受け付けのお姉さんが、人ごみをかき分けて私たちの前までやってくると、そう言ってきた。

 ……ん?

 この人、よく依頼の受け付けや達成確認の対応をしてくれるお姉さんだ。

 なんて思っている間にもお姉さんは私の右手首を掴むと、無理矢理連れていこうとする。

 分かった、分かったから引っ張らないで。

 掴まれた手首を軽く振りほどくと、私は奥を指差す。


「は、はい、あちらの部屋です。ありがとうございます!」


 頭を下げてきたお姉さんにいいよとジェスチャーを返すと、私はミーシャを連れて奥の部屋へと向かう。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか……。

 もし私が魔物だとバレたなら、王都から逃げ出す算段も立てておかないとね。


 会議室らしき部屋の前には、最初に受け付けしてくれたお姉さんが立っていた。

 彼女は私とミーシャに軽く挨拶だけして、静かに扉を開けてくれた。


 会議室の中は、受け付けとはうって代わり、神妙な面持ちの人たちが椅子に座って頭を抱えていた。

 その中の一人、ギルマスが私たちに気づくと立ち上がり、笑顔を浮かべる。


「お、アルネちゃんにミーシャちゃんじゃない。おひさしぶり」

「ひさしぶりなの」

「いやあ、よく来てくれたね。嬉しいよ。……おや、今日はリルカちゃんとは一緒じゃないのかい?」

「リルカさんは魔法の練習中なの」

「あらら。じゃあ後でいいや。とりあえず二人とも、そこら辺の椅子に座ってくれるかい? 状況説明するから」


 珍しく真面目な雰囲気のギルマスに気圧され、私たちは近くの椅子に座る。

 ギルマスも座ると、ポツポツと話し出した。


「二人とも、スタンピードって知っている?」

「すたん……?」

「スタンピード。魔物が大群となって押し寄せてくる現象だよ。理由は不明だけど、王都では五年周期でこのスタンピードが発生しているんだ」


 魔物の……大群?

 私の脳裏に、村に侵入してきた魔物たちと、壊された家々が過る。

 ちらりとミーシャを見るが、怖がっている様子はない。

 ……大丈夫そうかな。


「もちろんスタンピードが発生する年には、凄腕の冒険者をかき集めて対応している。ちなみに前回発生したのは一昨年。あと三年後に再びスタンピードが起きる――はずだったんだけど」


 ああ、うん。

 ここまで聞けばなんとなく想像がつく。

 つまり――。


「今日の明け方、早馬で連絡が来たんだ。北西から魔物の大群が押し寄せてきている、と。まるでスタンピードが起きたように……」


 ギルマスはそこまで言うと、口を閉じてしまう。


 しかし私はそこで首を傾げる。

 いや、もちろん危険な状況っていうことは分かった。

 分かったけど、ここまでお通夜みたいな雰囲気になる?


 私はアイテムバッグから黒板を引っ張り出して端的に書くと、ギルマスへ向ける。


『迎え撃つ できない?』


 魔物図鑑によると、王都の近くにはそれほど脅威になる魔物はいないはず。

 だったら、迎え撃てばいいだけの話じゃない?


「実は、高ランクの冒険者がほぼ全員出払ってしまっているんだよ。いるのは、今ここにいるダボルスくんたちBランクのパーティだけだ。あとは、あえて言うなら、アルネちゃんとリルカちゃんの二人といったところかな」


 そう言ってギルマスは力なくハハハと笑った。

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