八十話 対策会議
魔物が大群となって押し寄せてくる現象――スタンピード。
あと数年は発生しないはずのそれが、予定よりも早く発生した。
その話を聞いた私は、しかし首を捻った。
ギルマスは高ランクの冒険者たちは出払ってしまっていると言ったが、西の草原にそこまで脅威になる魔物はいないはず。
さらにはBランクのパーティもいる。
部屋の中にはダボルスと呼ばれた人を含め、冒険者の格好をした人は六人。
つまり、私やリルカと同等以上の冒険者が六人もいるわけだ。
魔物の大群とはいえ、あのグラスウルフやスライムがたくさんいる程度、十分に対処できると思うんだけどなあ。
そんな疑問が表情に出ていたのか、ギルマスは私の顔を見るとはあと息を吐いた。
むっ……!
「何か勘違いしているようだねー、アルネちゃんは。報告によると、魔物の数はおおよそ一万。中にはBランクの魔物であるワイバーンも多数目撃されているんだよ」
……は?
一万の大群?
Bランクの魔物?
ってか、ワイバーン?
自分の顔が引きつるのが分かる。
隣のミーシャは想像が追いつかないのか、ポカンと口を開けている。
「それを、この人数で迎撃できると思う?」
……いや、それは無理だわ。
ギルマスの言葉に、今度はしずしずと首を横に振る。
静まりかえった部屋で、ダボルスと呼ばれた男性が筋肉の盛り上がった腕を組んだ。
「だがよギルマス。実際のところ、俺らが行かねえと王都は滅びるぜ」
「そうよね。今から王都を捨てて逃げ出すなんて不可能よ。だったら、無理でもなんでも、あたしたちが迎え撃つしかないわ」
ダボルスさんの隣に座る女性も、その言葉に真剣な表情で頷く。
「うん、分かっているよ。だから今日は、誰をどこに配置するか、どの魔物の相手をするかを決めるつもり。ちなみに僕は全体の指揮を任されている」
「はっ、指揮なんて適当なやつに任せればいいだろ。唯一のAランクの冒険者さんを使わない手はないぜ?」
「その辺りは王都近衛騎士団に打診中だねえ。僕としても指揮なんてガラじゃないからさー」
「そりゃ確かに」
ギルマスが肩を竦めて苦笑いし、ダボルスさんがくつくつと笑う。
えっと、話が進んでいるけど、結局迎え撃つってことでいいんだよね?
あと、近衛騎士団の人も参加してくれるんだね。
「おっと、その前にリルカちゃんを呼ばないとね。彼女も貴重な戦力だからね」
◇◇
冒険者ギルドの人がリルカを呼んできた後。
中央の机に広げられた地図を私たちは囲んだ。
扉の前にいたお姉さんが、地図を指差しながら説明してくれる。
「王都はここ。そして魔物はこちらから来ています」
「ワイバーンはどの辺りにいるんだ?」
「位置は群れのほぼ中央、おおよそ百体はいるとの報告です」
「……ワイバーンが百体」
「いやあ、きっついねえー」
いやいや、笑い事じゃないから。
周りから睨まれてギルマスは口をつぐんだ。
「皆様には、主にこのワイバーンを相手にしていただきます」
「あたしたちのパーティは一対一ならなんとかなるけど、そっちの『烈火』と亜人の子たちは大丈夫なの?」
「リルカ様とアルネ様はまだCランクのため、お二人で討伐にあたっていただきます」
「わたしは?」
「ミーシャ様は後方で支援をお願いします。ミーシャ様の魔法は大変珍しく、使い手もほとんどおりませんので」
「うん、分かったの」
――お?
素直に頷いたミーシャを見て、私は少し意外に思う。
てっきり、私についていくと言い出すかと思っていた。
……いや、それはミーシャに失礼か。
ミーシャだって今の状況を頑張って理解し、できることをしようとしているんだ。
「それと、ワイバーンの討伐に、王都近衛騎士団から隊長・副隊長が数人援護に来てくれます」
「お、マジかっ! なら……えっと……どれくらい倒せばいいんだ?」
「それでも一人で十体ってところね」
……ワイバーン、かあ。
魔物図鑑に載っていた説明だと、確かドラゴンの亜種だったはずだ。
身体は鱗に覆われ、両腕が翼になっており、空を自由に飛び回る魔物。
足の爪と炎のブレスという、単純ながらも強力な戦法を取る。
ランクで言えば、Cランクのミノタウロスよりさらに上のBランク。
羽が生えてブレスを吐くミノタウロスを想像してみる。
……うん、私たちで倒せるのか、かなり心配になってきた。
私は頭を振って変な想像を追い払い、話に集中する。
そしておおよそ一時間後、大体の配置や役割が決定した。
私とリルカは一番左、西側のワイバーンを任されることになった。
ワイバーンは群れのほぼ中央にいるので、一番来にくい場所ということになる。
ちなみに中央はダボルスさんが守ることになっており、一番右、北側は近衛騎士団の面々に任せることとなった。
ダボルスさんはギルマスを除いてこの場でもっともAランクに近い実力があるそうだ。
「魔物は明日の昼頃に到着すると予想されます。各自準備をしっかりと行ってきて下さい。ポーションなどの備品は明日の朝に別途支給いたします」
「じゃあみんな、頼んだよ。でも、無理だけはしないようにね」




