六十二話 もやもやする
「ほれ、できておるぞ」
「わあっ、キレイなの!」
ドワーフさんからカウンター越しに銀色の腕輪を受け取る。
透き通るような水色の宝石が付いている以外、特に装飾もないシンプルな腕輪だ。
その宝石を、ミーシャが横からキラキラした目で覗いている。
「どれ、試してみるか」
そう言うと、ドワーフさんはしゃがみこみカウンターの向こう側に姿を隠す。
しばらくガサゴソと漁っていたが、すぐに「よっこらせ」と言いながらカウンターへ見覚えのある透明の板――魔力水晶を持ち上げて置いた。
「これは触れた者の魔力を調べる魔道具だ。お前さんが触れれば、魔物として反応するだろう」
「検問所であの青年が持っていたものと同じですね」
あ、やっぱり。
検問所で触れてたらアウトだったね。
それから私はドワーフさんの指示するとおりに腕輪を一度ミーシャへ渡すと、板へ右手のひらをあてる。
う、冷たい!
そのまま見守っていると、板の中に赤いもやのようなものが浮かび、徐々に水晶を染めていく。
「あっ! 赤くなってきたの!」
「赤……本当に魔物の反応だな。この嬢ちゃんが魔物とか、この目で見ても信じられんな」
「他言は無用ですよ」
「分かっとる。客の情報は死んでも漏らさん。ああ、もう離していいぞ」
何か不穏な会話が聞こえた気がするけど、スルーして手を離す。
すると水晶の中の赤いもやも霧散するように消えていった。
どんな仕組みになってるんだろう、不思議だ。
「次には腕輪を付けて試してみろ」
「はい、お花さん」
ミーシャから腕輪を返してもらうと、左手首に通す。
なぜかぴったりなんだけど、きっとドワーフの慧眼が凄いんだと思うことにする。
再び板へ手をあててしばらく待つと、今度は新芽のような緑色のもやが浮かんでくる。
「緑色ですね」
「成功だな。緑は獣人の魔力反応だ」
「おじさん、わたしもやっていい?」
「ああ、ええぞ」
楽しげに水晶板に手を当てるミーシャを横目に、私とスズハさんはお金を払う。
私が払おうとしても、スズハさんが全額出すと言って聞かないので、半々で妥協した。
スズハさん、どれだけ私のことを過大評価しているのよ……。
「お花さん、このあとはどうするの?」
水晶板に飽きたのか、ミーシャが尋ねてくる。
うーん。
候補はいくつかあるけど、ひとまずは身分証とお金の稼ぎ口の確保かな。
となると――。
『ギルド』
そう書いた黒板を見せる。
旅の途中でリルカに聞いた話によると、ギルド証はどの国でも共通のものをつかっているらしく、普通の人にとってはこれ以上ない身分証になるらしい。
また、所属しているギルドとそのランクによって、色々と特典もあるみたいだ。
「ギルドですか……。何か悪い予感がしますので、私も同行しましょう」
ちょっ、フラグ立てないで!
お前みたいなやつが冒険者とか――みたいな感じで絡まれる様子が目に浮かぶ。
いや、王都近衛騎士団のスズハさんがいればフラグ回避になるのか。
というか、スズハさんは私たちと一緒にいていいの?
昨日も今日も私服だけど、騎士団の方は休みなのかな。
そんなことを考えていると、ミーシャのお腹が小さくきゅうと鳴った。
「……その前に、お昼なの」
◇◇
ドワーフさんの店を出たあと、適当な露店で昼食をとった私たちは、さっそくギルドへ向かう。
一口にギルドと言っても、リルカのような冒険者が所属する『冒険者ギルド』や、ルットマンさんたち商人が所属する『商人ギルド』、他にも『職人ギルド』や『料理人ギルド』なんてものもあるらしい。
それぞれのギルドが王都の各地区にバラけて建てられており、私たちの目的地である冒険者ギルドは商業地区と工業地区の境目にあった。
武器や防具の調達や修理ができるし、宿屋も近くて便利そうだね。
まあ、私には蔓と魔法があるから、武器はいらないけど。
「ここが冒険者ギルドです。冒険者になられるのでしたら、今後訪れることが多いでしょう」
茶色のレンガが使われた、三階建ての綺麗な建物を見上げる。
もうちょっと小汚い場所を想像していたから、少し拍子抜けだ。
装飾のついた扉を開けると、観葉植物や待ち合い椅子などが点々と置いてある広々としたスペースが目に入る。
左手の壁には大きな掲示板が設置されており、冒険者風の人たちが数人集まって眺めている。
右手の奥にはカウンターがあり、その前の椅子に人が座って待っている。
スズハさんがカウンターの方へ歩いていくので、私とミーシャも追いかける。
「まずはギルド証の発行ですね。そこの番号札を取ってから、呼ばれるまで待ちましょう」
私は指されたケースの中に入っている木製の板を手に取る。
板には大きく「8」と書かれている。
「わたしも取るの?」
「いえ、一枚でいいでしょう」
近くの椅子に三人で座ると、周りの人たちが物珍しげに私たちを見てくるが、すぐに目をそらされる。
……なんだろう。
別に絡まれたくはないんだけど、絡まれないのもそれはそれで怖い。
居心地の悪い中しばらく待っていると「8番の方」と呼ばれた。




