六十一話 イチャイチャしてにゃい
一度部屋を覗いた私とミーシャは、特に荷物もない――全部アイテムバッグに収まっている――ので、すぐに食堂へ向かった。
そこで美味しい夕食を取って満足した帰り道、さっきの受付の女の子にばったり会った。
「あ、もしかして部屋に戻られるところですか? よければ、今からお風呂の説明をしましょうか?」
そうだね、お願いしようかな。
今日はもうすることはないし、あとは念願のお風呂に入るだけだ。
私は首を縦に振る。
「では、行きましょうか」
女の子を先頭にし、私とミーシャは後をついていくように歩く。
階段を上り、そのまま部屋の前に着くと、女の子はポケットから鍵を取り出して開ける。
え……あ、スペアの鍵か。
びっくりした。
「お花さん、どうしたの?」
ミーシャが不思議そうに私の顔を覗き込んでくる。
なんでもないよと言う代わりに、ミーシャの頭に手を置いて軽く撫でる。
気持ちいいのか、目を細めるミーシャ。
「あのう。すみませんが、イチャつくのは部屋の中でお願いします」
女の子の言葉に私はバッと手を離す。
……うん、なんとなく反応しちゃったけど、別にイチャついてないよね。
よく手を繋いだり頭を撫でたりするけど、イチャイチャしているわけじゃない。
例えるなら、かわいい妹に接しているような感じだ。
もしかしたら、転生前にも妹がいたのかもしれないね。
女の子がジト目を戻して部屋に入っていくので、後を追う。
さっきも一度見たけど、さすが王都と言うべきか、旅の途中で泊まった宿よりもお洒落な部屋だよね。
入って左手にはベッドが二つ、ランプの置かれた机を挟んで並べてあり、奥の壁には絵が掛けられている。
また、右手の壁にはドアがついており、その向こうが直接浴室に繋がっているのは確認済みだ。
浴槽も調べようかと思ったけど、どうせ後で説明してもらえると思ってスルーした。
女の子はドアを開けると、中が見えるように半歩ずれてこちらを振り返る。
「もしかしたらもう見たかもしれませんが、こっちがお風呂になってます」
「うん、見たよ! あの大きな桶がおふろなの?」
「そうですよ。あの中に水を入れて、魔石でお湯になるまで温めて入るんですよ」
あ、魔石はお湯を湧かすだけなんだ。
――いや、考えてみれば、わざわざ魔石で水を出す必要はないか。
蛇口やシャワー口からお湯が出るのが当たり前だったから、魔石でも同じようにお湯を出そうとしちゃっていたのか。
「水はこっちのタンクの中に汲んできてあるので、自由に使ってください。温める用の魔石は脇についているこれです」
その後も慣れた様子でテキパキと説明していく女の子。
一通り説明し終えたのか、ふうと一息ついた。
「色々と説明しましたけど、とにかくお風呂は気持ちいいので、ぜひ入ってみてください!」
「わ、分かったの」
「では、後はごゆっくりー」
そう言うと、女の子は手を振って去っていった。
……嵐みたいな子だったね。
じゃあ、さっそく入ろうか。
◇◇
「ひぅっ! あ、熱いっ!」
裸になったミーシャはお湯を張った浴槽につま先を入れると、飛び上がるようにすぐに足を引き抜く。
え、そうかな?
私にはちょうどいいくらいなんだけど。
「お、お花さんは熱くないの?」
ミーシャがすでに湯船に浸かっている私に尋ねてくるが、首を横に振る。
そういえば、猫って熱いの苦手だったような……?
いや、あれは猫舌っていうだけか。
私は腕を伸ばして隣にあるタンクの栓を抜き、少しだけ水を入れる。
これで少しはぬるくなったから入れるでしょ。
ミーシャにおいでと手招きする。
ミーシャは「もう熱くない?」と呟きながら、恐る恐る湯船に手を入れる。
そのまま少し考えるような仕草をすると、大丈夫だったのか縁に手をかけてゆっくりと入ってくる。
「まだちょっと熱いけど、これなら入れるの」
それはよかった……けど、少しきついね。
浴槽はそれなりに広く、また私もミーシャも小柄だけど、さすがに二人で入るのは無理があったみたいだ。
でも、タンクの水は限られているし、それにミーシャを一人で入らせるのもなんか怖いからね。
「はあー。おふろ気持ちいいのー。暑いときは水浴びも気持ちいいけど、寒いときは嫌だったの。でも、おふろなら大歓迎なのー」
あー。
確かに冬に水浴びとか、想像するだけで嫌だわ。
ミーシャの村にも、お風呂設置すればいいのにね。
やっぱり魔石が高いのかな?
そのままミーシャは気持ちよさげに目を瞑る。
ふと、私はミーシャのある部分を見て、続いて自分の身体を見おろす。
……うん、大丈夫だ。
ギリギリだけど年上の尊厳は維持できてる。
まだ慌てるような時間じゃない。
少しだけ安心して私も頭を縁にあずける。
そのままゆったりとした時間が流れていく。
「お花さんー。なんか、頭がくらくらしてきたのー」
突然、目を閉じたまま頭を揺らして、そんなことを言い出すミーシャ。
――いやそれのぼせてるから!
私は慌ててミーシャを抱き抱えると、お風呂から出る。
その後は身体を拭いたりベッドに運んだりと、お風呂どころではなくなってしまった。
ミーシャが起きたら、のぼせについて説明しておかないとね。




