表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/164

六十話 嬉しい誤算

 ドワーフの店を出た私たちは、スズハさんの案内で宿屋に向かう。

 辺りはすでに茜色に染まっているが、道行く人の数が少なくなる様子はない。

 村では暗くなり始めるとみんな家に帰っていたから、ちょっと新鮮だ。


 馬車が通れるほど幅広く舗装された道の両脇には、等間隔で街灯が建ち並んでいる。

 街灯の先はランタンのようになっており、辺りを明るく照らしている。

 スズハさんに聞いてみたところ、ランタンの部分に魔石が組み込まれており、定期的に魔力を流し込んで魔石を光らせているらしい。

 元の世界でいうところの、電気と電球みたいなものか。


 周りの建物も、村の木造建築とは違って石やレンガっぽい物で建てられている。

 真っ白な城とは異なり、赤や黄味がかった建物が多い。

 勘だけど、粘土に不純物が混じっているかどうかの違いかな?


 そんな考察をしながら十分ほど歩いた頃だろうか。

 景色が変わり、中央に噴水のある広場に出た。

 広場を四角く囲うように建物が軒を連ねている。

 その中にある一軒をスズハさんが歩きながら指差した。


「あそこです。私が王都に来て間もない頃、お世話になった宿屋です」


 指された方を見ると、茶色のかわいい二階建ての建物がある。

 そのまま宿屋まで行くと、スズハさんに連れられて中に入る。


「いらっしゃいませー! って、スズハさんじゃないですか!」


 入り口のすぐ横にカウンターがあり、そこにいた十五、六歳くらいの女の子が元気よく出迎えてくれる。

 この宿屋の娘さんかな?

 三つ編みにした茶色いおさげがよく似合っている。


「こんばんは。今日は部屋空いていますか?」

「はい、空いてますよ。あれ? でもスズハさん、騎士団の寄宿舎を借りられているんですよね?」

「いえ。泊まるのは彼女たちです」

「……お花? 猫耳?」


 紹介されて初めて気が付いたのか、私とミーシャを見て頭にはてなマークを浮かべる女の子。

 うん、どこでも似たような反応されるね。

 ミーシャを見て驚くのは珍しいけど。


「彼女たちは獣人の村からやってきた、私の恩人たちです」

「あ、ご、ごめんなさい! 獣人の方を見るのは初めてなもので……」

「大丈夫なの! ね、お花さん!」


 ミーシャが代弁してくれたので、私は頷いておく。

 驚かれることなんてもう慣れっこだよ。

 それよりも、スズハさんのその紹介をなんとかしてほしい。

 恩人と言われるほどのことはしていないし、なんかこう、むず痒くなってくる。


「ありがとうございます。えっと、お二人は一緒の部屋でいいですか?」

「うん」

「一部屋ですね。あと、何泊の予定ですか?」

「えっと、お花さん?」


 ……うーん、どうしよう?

 王都に来ることだけに頭が回りすぎていて、来てからのことはあまり考えてなかった。

 しばらくは色々とお金も必要だろうし、とりあえず三泊くらいでいいかな?

 私は指を三本立てる。


「分かりました。受付しますので、ちょっとお待ちくださいね」


 そう言うと宿屋の女の子はカウンターに置かれていた羽ペンを手に取り、宿帳を書き始める。


「それでは、私は一度帰ります。また明日の朝に迎えに来ますので、部屋で待っていてください」

「あ、スズハさん! また気が向いたら、いつでも泊まっていってくださいね!」

「……考えておきます」

「スズハさん、また明日なの!」

「はい。また明日」


 私も手を振ってスズハさんを見送る。

 ドアが閉まった後カウンターへ向き直ると、宿屋の女の子が顔をあげて待っていた。


「お待たせしました。三泊だと、銀貨三枚ですね。あ、もちろん朝と夕食付きですよ」


 一泊で銀貨一枚ってことか。

 いまだにこっちの世界の通貨には慣れないね。

 私はアイテムバッグから銀貨を取り出して女の子へ手渡すと、代わりに鍵を渡される。


「じゃあ、こちらが部屋の鍵です。部屋は、二階に上がって右手の一番奥です。ほんとは少し高い部屋なんですが、しばらく使っていないですし、スズハさんの知り合いなので特別です。みんなにはナイショですよ?」


 唇に人差し指を当ててウインクする女の子。

 アハハ、ありがたいね。


「夕食は向こうの食堂まで来ていただいたらご用意します。……あ、そうだ! お風呂の使い方は分かりますか?」

「おふろ?」


 ――お風呂!?

 え、ここ、お風呂あるの!

 ミーシャが首を捻り、私が驚いているのを見て、女の子は知らないと思ったのか補足してくれる。


「お風呂というのは、お湯で水浴びする場所ですね」

「水浴びできるの? 川があるの?」

「ええっと……。また後で使い方教えにいきますね」


 あ、諦めた。

 それにしても、お風呂があるなんて嬉しい誤算だ。

 ミーシャの村はもちろん、旅の途中の宿にもなかったから、この世界には存在しないものだと思ってたよ。

 やっぱり、魔石でお湯を作っているのかな?


 いずれは王都に居を構えるつもりで、そこにお風呂をつけようと画策していた。

 自分で作るつもりでいたから、今まで未使用の魔石を大事にとっておいたし、密かにお湯を出す魔法を練習していた。

 でも、お風呂が一般的に広まっているなら、その必要もないかもね。


「それでは、ごゆっくりどうぞー」


 女の子の声を背に、私はミーシャの手を引いて、ルンルン気分で部屋に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ