四十三話 読めない綺麗さん
私はスズハさんにメダルを返す。
メダルは確かによくできているけど、私はその王都近衛騎士団とやらを見たことがない。
だから、メダルが本物か判断がつかないし、スズハさんの言っていることが嘘か本当かも分からない。
分からないんだけど……多分、この人の言っていることは本当だと思う。
この状況で、私が知ってたらバレるような嘘をつく意味がない。
あとは、まあ、女の勘ってやつだ。
「信じて頂けたのでしょうか?」
困ったように再度尋ねてくるので、私は頷いておく。
うん、今は信じることにするよ。
スズハさんは安心したのかホッと息をつくと、メダルをアイテムバッグに戻し始める。
さて、スズハさんのことを信じるとなると、一つ問題がある。
――テアさんが、この襲撃の犯人だということだ。
正直、テアさんとそれほど交流があったわけじゃない。
最初に会ったときに少し話をして、あとは時おり広場で見かけたら軽く挨拶をするくらいだ。
それでも、顔見知りを疑うのは気が引ける。
「では、さっそく参りましょうか」
……うん?
いずこへ?
私が顔を傾げると、スズハさんも首を傾げる。
合わせるようにポニーテールが揺れる。
え、何その、なんで分からないのか分からないみたいな仕草は?
「先ほどお話したように、あなたにも手伝って頂きたいのですが……?」
手伝って頂きたいって……ああ、確かに言ってた気がするね。
こんなすぐだとは思わなかった。
というかスズハさん、表情があまり変わらないから、何を考えているのか読み取りにくい。
身長も男性のジルドと同じくらい高いし、色々と小さい私と違ってスタイルもよくて凄く綺麗な人なだけに、もったいない。
あと、私は生まれてまだ一月くらいだから、まだ成長期だけどね。
そんなことを考えながら、私はアイテムバッグから黒板とチョークを取り出す。
この人とジェスチャーだけで意思疏通がとれる自信がないからね。
『何を手伝う』
簡潔にそう書くとスズハさんに見せる。
「……驚きました。言葉だけではなく、文字も理解しているのですね」
うん、驚いたならもうちょっと驚いた表情をしてほしいね。
というか、そういうのはいいから。
私は黒板の文字を指差して促す。
「失礼。手伝って頂きたいのはテアの捜索、および捕縛です。ただ、捕縛に関しては、正直かなり厳しいとみていいでしょう」
え、テアさん、そんなに強いの?
いや、王都の近くの街を襲撃できるくらいだし、強いのは当たり前なのかな?
私の疑問を知ってか知らでか、スズハさんが補足してくれる。
「彼女自身はそれほど強くはないのですが、『魔物使い』という名の通り、多数の魔物を使役しています。その中には、パラズ・タラスやミノタウロスなど、Cランク以上の魔物も含まれています」
パラズ・タラスって、ジルドと一緒に森に入ったときに遭遇した巨大クモだよね。
やっぱりあのクモも人為的なものだったみたいだね。
でも、それなら、私とスズハさんの二人でやるのは厳しいと思う。
私一人増えたところで、ミノタウロス一体で手一杯だ。
せめてあと数人、戦力が欲しい。
パッと思いつくのは二人。
――ジルドとエリューさんだ。
『村長の家 先に行く』
私は黒板に書くとスズハさんに見せる。
スズハさんは少しだけ悩むような素振りを見せるが、すぐに「分かりました」と首を縦に振った。
「もしかしたら、テアも紛れ込んでいる可能性がありますね。では、まずはそこへ向かいましょう」
◇◇
スズハさんとともに村長の家へ向かって移動する。
この辺りの魔物はスズハさんが捜索ついでに倒してくれたらしく、死体しか残っていない。
さっきウォーターボールを斬ったり蔓を平然と受け止めたりしてたし、相当腕が立つよね? と思って移動中に聞いてみたら、
「私は一応Cランクの冒険者でもありますので。冒険者カードご覧になりますか?」
と、さも当然のように返された。
ちなみに冒険者カードとやらも見ても分からないと思うので、丁重にお断りした。
そんな会話――私は筆談だけど――をしながら移動していると、ようやく村長の家の屋根が見えてきた。
それと、剣や斧を持った獣人の男性たちが、村長の家を守るように立っていた。
その中には、槍を持ったジルドの姿もある。
「ここは無事みたいですね」
スズハさんの呟きに、私は頷く。
私は移動に使っていた蔓を戻して地面に着地する。
私たちに気づいたのか、男性たちが声をあげる。
「お、おい! あれ、花の嬢ちゃんじゃねえか!?」
「ああ、間違いない!」
「その隣にいるのは誰だ?」
「えっと、確か……」
「行商人と一緒にいた冒険者だろ。話は俺が聞くから、このまま待機していてくれ」
騒ぎになりかけていた状態を、ジルドが出てきて抑えてくれる。
よかった。
あのまま合流してたら、質問責めにあうところだったよ。
私とスズハさんは、集団の少し手前、ジルドの前で止まった。
「よく無事だったな。特に花、キャティさんから話を聞いたミーシャが心配していたぞ。後で顔を見せてやるんだな」
……そっか。
ジルドのその言葉を聞いて、私はようやく胸を撫で下ろした。
キャティさんもミーシャも無事なんだね。




