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四十二話 スズハ

 屋根伝いに北へ移動すること約十分。

 魔物を見つけるたびに戦っているから、思ったより進まない。

 そんなもどかしさを感じながら進んでいると、家一軒分の小さな広場に、見つけた。

 ――あの冒険者だ!


 私は咄嗟に広場とは逆側の通路に飛び降りる。

 北側を向いてたから、きっと見つかってはいないはずだ。

 蔓を使って身体を持ち上げ、屋根の上からそっと覗く。


 以前公園で見かけたときと同じく、赤と黒を基調としたシャツにショートパンツ、太ももまであるブーツ。

 背中まである黒髪は、一つに束ねてポニーテールになっている。

 そして右手には背丈の半分ほどの剣が握られている。


 うん。

 間違いないね。

 あの時の冒険者だ。


 冒険者は少し歩いてはキョロキョロと見回し、時おり屈んで地面を見ている。

 何かを探している?

 もしかして、この襲撃を起こした理由?


 私は辺りを確認するが、近くに魔物はいない。

 ……これ、今なら捕まえられるんじゃない?

 もちろん、村を襲撃したときと同じように、魔物がいきなり現れる可能性もある。

 けど、それを言い出したらキリないし、なによりこの機会を逃す手はないよね。


 私は頭だけを屋根から覗かせたまま、奇襲用のウォーターボールを作る。

 冒険者は変わらず何かを探している。


 ――今だっ!

 冒険者が屈んだ瞬間を狙って屋根の上へと飛び上がると、ウォーターボールを撃ち出す!

 ウォーターボールは冒険者の背中へと吸い込まれるように飛んでいき――真っ二つに切り裂かれた。


 振り向き様の冒険者と目があう。

 冒険者は横に薙いだ剣を引き戻すと、静かに立ち上がる。


 ……は?

 今、水弾を()()()()!?

 え、水って斬れるものなの?


 混乱する私に追撃をかけるように、冒険者が左手を伸ばして口を開く。

 魔法っ!?

 私は急いで蔓を縮め建物に身を隠す。


 そのまましばらく息を潜めるが、いつまで経っても衝撃が来る気配がない。

 ……んん?

 魔法が発動しなかった?


 さらに待ってみるが、気配が感じられない。

 え、もしかして、逃げられた?

 じれったくなった私が屋根からそうっと顔を覗かせようとした時だった。


「やはり、あなたでしたか」


 急にかけられた声の主へ、反射的に棘の蔓を叩き込んだ。

 やばっ! と一瞬焦るが、すぐに杞憂だと分かる。

 棘の蔓は、鞘に収められた剣で受け止められていた。


「これは……なかなか強烈な挨拶ですね。でも、今はとりあえず落ち着いてください」


 私は蔓を地面に突き刺してバッグステップし、冒険者から距離をとる。

 同時に花の蔓も伸ばし、いつでも毒を撒けるようにする。

 というか、敵に落ち着けって言われて落ち着くやつがいるか!


 冒険者は顔をしかめると、左手に剣を持ち替え、右手をぶらぶらと振る。

 一応効いてはいるみたいだけど……これ実力差がありすぎじゃない?

 まあでも、身体は所詮(しょせん)ただの人。

 生身の部分に当てれば勝機はあるはずだ。

 ……あるよね?


「言葉が通じると話では聞いていたのですが……。もしかして、何か勘違いしていませんか? 私は敵ではないですよ?」


 ん?

 敵じゃない?

 どういう意味?

 私は気を緩めないようにしながらも、首を傾げて先を促す。


「そうですね……先に自己紹介をしましょうか。私は王都近衛騎士団団員のスズハです。この村へは、冒険者のフリをして潜入しています」


 王都……近衛騎士団?

 いや、それよりも、潜入してるって……。

 一体何のため?

 私が再び首を傾げるのを見て、スズハさんは言葉を続けた。


「任務の内容は本来極秘なのですが……まあ、あなたにも手伝って頂きたいですし、いいでしょう。私がこの村へ来たのは――魔物使いのテアの監視のためです」


 ◇◇


「数年前、王都の近くの街に魔物の襲撃がありました。それ自体は珍しくはないのですが、襲撃後、その街にあった魔物の卵が行方不明になっていることが分かったのです。また、襲撃した魔物も、本来その街の周辺にはいない強力な魔物ばかりでした。調査の結果、一人の人物――魔物使いのテアが容疑者にあがったのです。王都近衛騎士団は影でテアを追っていましたが、普段は行商として過ごすばかりで、なかなか尻尾が掴めませんでした。今回私が冒険者のフリをして同行していたのも、そのためです。まさかこの村で騒動を起こすとは思いもよりませんでしたが」


 テアさんが、この村の襲撃を起こした犯人?

 いや、確かに筋は通った話ではあるけど、この人が嘘をついている可能性だってある。

 疑念が顔に出ていたのか、スズハさんは軽くため息をつくと、腰のポーチから鎖のついた銀色のメダルのようなものを取り出した。


「これが王都近衛騎士団の団員証です」


 私は差し出されたメダルを手に取る。

 片面には城のような模様、もう片面には剣と盾が組合わさったような模様が刻まれている。

 さらに、剣と盾の模様の下には、『スズハ・ノーウェイ』と名前が刻まれていた。


「これで信じて頂けたでしょうか?」


 いや、これでも何も……。

 私、王都に行ったことないし、王都近衛騎士団とやらについては知らないんだけど。

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