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四十一話 目指せ北

 エリューさんと一緒にミノタウロスの死体を一体ずつ見て回る。

 また息があって、村の中で暴れられても困るからね。


 私が倒したミノタウロスは一体、エリューさんが倒したのは四体。

 エリューさんが倒したミノタウロスは、真っ黒に焦げているか、身体中に斬られたような痕がある。

 焦げているのは『雷撃』というあの雷を落とす魔法だとして、切り傷は『鎌鼬』と言ってたし風の魔法かな?

 まあ、聞いても教えてくれそうにないし、今はそんな場合じゃないけど……。


 というか、エリューさんって一体何者なんだろう?

 雷の魔法に風の魔法、私に初めに見せた水を出す魔法。

 あと、ミーシャには回復魔法を教えているんだよね。

 いくらこの世界の魔法がイメージ次第で何でもできるとはいえ、多彩すぎるでしょ。


 魔法のバラエティの豊富さもだけど、ミノタウロス数体と同時に戦っていたのにも驚きだ。

 私は一体と戦うだけでも大変なのに。

 それだけでエリューさんがどれだけ強いのかよく分かる。


 そういえば、さっきミノタウロスのことを「Bランクに近い実力を持つ」って言ってたよね。

 で、(アルラウネ)のことは「Eランク」とも言っていた。

 なら、エリューさんはBランク、もしくはAランク相当ってこと?

 冒険者と魔物のランクが同じだとは限らないけど、私が数体でかかっても、エリューさんに勝てないってことだ。

 ……なにそれ怖い。


「あんた、なんか変なこと考えてないかい?」


 初めに転がっていた焦げたミノタウロスの死体を調べていたエリューさんが訝しげな視線を向けてくる。

 ナンノコトカナー。

 それよりも、死体のチェックは終わったの?

 私はミノタウロスの死体を順番に指差して、首を傾げる。


「ああ、確認なら終わったよ。全部ちゃんと死んでいたよ。あんたはこれからどうするんだい?」


 うん?

 これからって……あー、どうしよう?

 この東広場へは雷が見えたから急いで来たけど、この後どうするかは特に決めてなかった。

 んー、魔物を倒しながらこのまま北上して、ミーシャや村長たちと合流する、というのが一番かな。


 正直ミーシャが心配だから今すぐにでも村長の家に行きたいけど、現状の村を放ってはおけない。

 あちらこちらから悲鳴や物が壊れる音が聞こえてくることから、いまだに雑魚の魔物が何体も暴れているのは確実だ。

 まあ、村長の家にはジルドや兵たちが集まっているはずだし、この村の中で一番安全なのは保障できる。

 はやる気持ちは抑えて、着実に魔物の処理をしていくべきだ。


 それと、この襲撃を起こした犯人――テアさんと一緒にいた護衛の人を探すのも忘れちゃいけないね。

 門で会った男性は、ミノタウロスたちが門の外に突然現れたって言っていたし、もう村の外に逃げた可能性もある。

 けど、こんな騒ぎを起こして、何もせずに逃げたとは思えない。


 どうして魔物を使って村を襲撃したのか。

 襲撃すること自体が目的なのか、襲撃に紛れて何か別のことを目論んでいるのか。

 うーん。

 ……って、こんなこと考えても分からないね。

 まあいいや、本人を見つけ出して直接聞こう。


 私は考えるのを止めると、左手で北を指差す。


「北……ロウイのところかい? あそこは避難所になっているし、いったん向かう場所としては確かに最適だね。ただ、まだ村の中に魔物がいるようだし、そちらも片づけながら向かってくれるかい?」


 もちろん。

 棘の蔓を二本伸ばして身体の横で止めると、頷く。


「頼んだよ。あたしはこのまま東に向かって、そのあと西へ向かうとするよ。でも、無茶だけはするんじゃないよ。あんたが死ぬと、ミーシャが悲しむからね」


 うん、死ぬつもりはないから、そのフラグ立てみたいセリフやめよ?

 などと心の中で突っ込むと、北へと顔を向ける。


 移動方法は……また屋根を伝っていけばいいか。

 もう道は混雑してないと思うけど、屋根伝いのほうが見晴らしがいい。

 ちょっと屋根に穴が開きそうになることがあってハラハラすることもあるけど、気にしたら負けだ。

 穴が開いたらごめんなさい。


 私が広場の端へ向かおうとすると、エリューさんから声がかかった。


「そうだ、それともう一つ。この襲撃、恐らくだが企んだやつが別にいるとあたしは睨んでいる。もし怪しいやつがいたら、その場で捕えるか、無理そうなら顔を覚えておいてほしいのさ」


 あ、エリューさんも気づいていたんだ。

 まあ、どう考えても不自然だもんね。

 特にエリューさんはミノタウロス四体――私が来た時には一体倒れていたから、実際は五体か――に囲まれていた。

 明らかにエリューさんの実力を察していて、ミノタウロスを仕向けたようにしか思えないよね。


 私は顔だけ向けて頷くと、広場の端へ移動する。

 そのままの勢いで木の枝を伝って屋根へと上り、辺りを見渡した。

 壊された家や屋台、そこらに転がる魔物の死体といった、凄惨な村の様子が見える。

 えっと……。

 この辺りにはもう生きている魔物はいなさそうだね。


 再度辺りに魔物がいないかをぐるっと確認すると、私は北へ向かって移動を始めた。

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