品種改良
部屋の中を見ると・・・植物の群れ。
それに気温が違う。
少し寒いぐらいだ。
部屋の窓は完全にふさがれ、植物には照明があたっている。
「この部屋は完全空調設備を備えています。24時間適温に管理されます。
又、光量管理もしていますので、ライトにより各植物に必要な光量を与えています。
水もシステム管理ですし、各植物の成長データも記録しています。全てコンピュータ制御になっていますわ」
ほほーう。
随分システマチックなシステムだ。
というか金がかかっている。
部活動という枠を完全に超えているな。
普通の農家のレベルも超えており、企業、研究所レベルか。
なるほど・・・
さすがお嬢様が多い部活といったところか。
資金力は豊富らしい。
「どうですか、ご感想は?」
「凄い。正直驚いたよ。ここまでの施設だとは思わなかった」
「でも、隼人君も松茸栽培をしているのでしょ。新種を生み出すのは大変だと思いますわ」
「俺の場合は運がよかったからね」
「そうですか・・・」
「ここでは何を育てているんだい?」
「様々な花を育てていますよ。しかし、育てることが目的ではありません」
「というと?」
「一番の目的は新種を開発することですから」
「品種開発?」
「はい。よりよい有用な品種の開発を行っているのです」
「随分なことをしているんだね」
「花を育てていると、少しでも良い物をそだてたくなりますから。
ここでは、よりよい花を選んで交配させています。
優良種を人為選択し、優位な性質を伸ばしていくのが品種改良の基本ですから」
「つまり、10本の花を育てて、その中で一番綺麗な花同士を選ぶ、交配して子孫を残していると」
「そうですわ。しかしこの方法では限界があります。
青い綺麗な花は決して赤い花になりません。青の綺麗さがますだけです。
同じ性質の性能をますことしかできません」
「新種を生み出すためには突然変異が必要だからね」
「はい。突然変異を人為的に引き起こすことが可能なのは、現代の科学で分かっています。
放射線や発癌性物質を使用し、遺伝子を一部改編させる手段や、異種族感の交配です」
「なんだか難しくなってきた」
「そうでもありませんわ。こみいった理論は難しくなりますが、やることは単純ですから。
遺伝子に影響を及ぼすことを試すだけですわ」
うーん。
なんだか理科の授業みたいだ。
最近は授業もろくに聞いていないが。
「それで、今までに成功した品種はあるのかな?」
「はい、いくつかあります。花の色を変えたりするぐらいですが」
「へぇー、それは凄い」
「あちらにあるピンク色のひまわり。成功品の一つです」
移動すると・・・
確かに目の前にはピンク色のひまわりがある。
なんだろう・・・
ちょっと不気味だ。
これはひまわりなのか怪しい。
「不思議な花だね」
「お気に召しませんでしたか」
「いやいや、凄いよ、でも初めて見たから」
「綺麗とはいいがたい・・・ですからね。それに一つ問題が」
「?」
「新種は子孫を残すのが難しいのです。通常の種に比べると不安定なものが多いですわ」
よくきく話だ。
やはり品種改良は難しいのだろう。
「その点、結城君は素晴らしいですね」
「俺が?」
「はい。栽培が難しい松茸で新種を開発したのです。難易度はこの花の比ではありませんわ」
「そ、そうかなー」
褒められるとむずがゆい。
俺はスキルで育てたからね。
難易度はよく分からないのよ。
「ぜひ、結城君も加わっていただきませんか?一緒に品種改良を行いましょう」
俺の手を握る華玲さん。
正直、中々に興味をひかれていた。
これに加われば、俺のスキル「成長促進」の謎も分かるかもしれない。
俺が能力を得たのも、何らかの進化の影響なのかもしれないのだから。
ならばっ。
答えは決まっていた。
「是非協力させてもらうよ」
「嬉しいですわ。ではっ、ガーデン会員になりましょう。私の推薦枠を提供します」
こうして。
俺はガーデンに入ったのだった。
華玲さんの推薦枠。
恋人枠として。