下着ショップ
放課後。
午後の授業は爆睡。
爽快な気分になった俺は、クルミと下校した。
彼女は上機嫌だ。
ルンルン気分で時折スキップもするぐらい、陽気なオーラを振りまいている。
その原因は彼女の胸だろう。
隣から見ても分かる。
これまでより僅かに胸が盛り上がっているのだ。
凹凸などなかった服が膨れている。
女性らしさが現れている。
「上機嫌だな、クルミ」
「うん?そうかなー。いつも通りだよー」
ニコニコ顔の彼女。
言葉と表情が合っていないが、クルミが元気なのは良いことだ。
「あっ。そうだ、隼人ー」
「何だい?」
「新しい下着を買いに行かないとね。これまでのは小さくなっちゃったから。あーあ、大変大変」
嬉しそうに告げるクルミ。
全然大変そうに見えないけど・・・クルミが嬉しそうで何よりだ。
「ほーう、それはよかったな。でもクルミ、女性用の下着は高いんだろ。ほいほい買えるのか?」
「大丈夫、大丈夫」
「そうか」
「じゃあ、これからお店によろっか?」
「えっ?」
俺は放心した。
キョトンとして変な声を出してしまった。
全く予想外の提案を受けたのだ。
俺はこのことを想像していなかった。
「『えっ』じゃないよー。お店に寄っていこうよー。今の下着だときついから」
「いやっ、お店いに行くのはかまわないけど、俺はあまり行きたくないかな。
お母さんや女友達、ほらっ、親友の美波さんと行ったらどうだろうか?」
うん。
店内がピンク色な、ふんわかメルヘン女子空間には行きたくないのだ。
なんだか・・・
言葉に出来ないけど・・・色々な拒絶感がある。
行ったら負けだと思う。
「隼人、大丈夫だよー、私がいるよ。傍にいるから。それにお店の人も気にしないから」
俺も励ましてくる?クルミ。
いや、何で俺が励まされてるんだ?
よく分からないけど。
「そ、そうかなー。俺は気にすると思うよ」
「うだうだいってないで、行くよーほらっ、こっちこっち」
ガシっとクルミに腕を取られた。
妙なところで強気になる彼女。
俺は抵抗することなく。
下着ショップに連行されたのだった。
とほほっ。
◇
「ねぇ、この下着どうかな?」
「いいんじゃない」
イオンの中にある下着ショップ。
エスカレーターを乗っていると見える位置にあるので、ちょっと他人の視線が気になるポジショニング。
それに俺たち制服だし・・・ちょっと目立ってる。
だがしかし。
クルミは周りの目などお構い無し。
フリフリピンクの下着を掲げている。
俺はきまづくて、今にも店から出たかった。
「ねぇ、隼人、こっちとどっちがいい?」
「どっちも似合うんじゃないかな」
「かなー」
何か迷っているクルミ。
俺はそわそわしながらも。
お店のお姉さんが、微笑ましい顔をしてこちらをチラチラ見ているのが気になった。
「あらっ。お若い」みたいな顔しているお姉オーラを発しているお姉さん。
「ねぇー、隼人はどれがいい?選んで」
んん?
えー。
俺がっ?
いや、正直どれでも良いんだけどねー。
でもなー。
ここで選ばないと後々めんどくさそうだから。
ポイッ
適当に一個選ぶ。
近くの下着を手に取った。
早く終わらせるために、自信満々で告げた。
「これだっ!これしかないっ!これを身につけてくれっ!頼むっ!」
「えっ、う・・・うん」
あれっ?
なんだか若干引かれた。
クルミが顔を赤らめて俯いた。
お店のお姉さんがニヤニヤしている。
近くの客までニヤニヤしている。
「もぅ・・・・隼人、いきなり大きな声で変なこと言わないでよぉ~」
あっ。
ちょっと声が大きかったみたい。
なるほどねー反省反省。
店内ではお静かに。
「すまない。つい調子にのってしまった」
「別にいいけどぉ・・・声は小さくね」
「だね。あっちの下気見に行こうか。ほら、あっち」
俺はとりあえずこの場を離れたかったので提案する。
「うん」
その後。
俺はクルミと店内をウロウロした。
なんだか精神的にジワジワ疲れていった。
多分、お店には1時間ぐらい居たと思う。
でも結局クルミは・・・
「今はお金がないから買わない。お母さんに今度買ってもらう」と言い。
お店を後にした。
「えっ?なんのために来たの?」と思ったが。
口に出すのはやめておいた。
多分、今度買うものを物色しにきたんだと思う。
それか、ちょっと大きな下着をつける自分を想像しに来たのかも。
そんなこんなで家に帰ってきた。
ドサッ
ベッドに倒れこむ。
スキルを使ったせいか。
それとも下着ショップに長居したせいかは分からないけど。
ものっすごく疲れた。
骨の心から疲れた。
俺はベッドにダイブし、溶けるように眠っていったのだった。