バラ園
庭に造られた小屋。
その中には赤い薔薇が大量に咲いている。
背の高い植物が生えている。
赤い花の空間だ。
「一面薔薇ばかりだな」
「ほんとだー、まっかっか。上にも横にもバラばっか」
「たくさん植えていますからね。薔薇の世界ですわ」
俺とクルミは薔薇に圧倒されていた。
まさに薔薇の世界だった。
心を癒すいい香りがする。
クルミが近くのバラを触ると・・・
「あっ、痛っ!」
んん!
トゲに触れたのだろうか。
バラのトゲは有名だからな。
「クルミ、大丈夫かっ!」
「うっそー。痛がった振り~」
くっ、くくくっー。
ひっかかってしまった。
クルミはニヤニヤ笑っている。
まさかクルミに侮られる日がくるとは・・・かわいいけど、ちょっとイラっとした。
「こ、このっー」
沸き起こった感情を発散しようと。
クルミをドンッと押そうとしたけど・・・
彼女相手なので頭を撫でた。
よしよし。
よしよーし。
撫で撫でした。
「ふへっ?」
不思議顔するクルミ。
「なんとなく撫でただけ」
「そ、そう・・・」
ちょっと恥ずかしそうな顔だ。
「仲がよいのですね」
華玲さんはのほほん顔。
「バラのフレーバーティーはどうですか?」
「貰います」
「私もー」
バラ園の中にある椅子に座る。
華玲さんがどこからか、湯の身とカップを持ってき。
カップに紅茶が注がれる。
良い匂いだ。
バラの甘い匂いがする。
カップを持ち飲む。
うん。
癒される味だ。
気分がほんわかしてくる。
ほんの少し良い気分になる。
「おいしいねー」
「だな」
「落ち着きますわ」
俺達はゆっくりと紅茶を楽しんだ。
暫くして、俺は華玲さんに聞いてみた。
バラも良いが。
早く東洋ランをみたかったのだ。
そのために来たのだから。
「華玲さん、東洋ランはどこにあるのかな?」
「すぐ近くですよ。ではっ、そちらに移動しましょうか」
「ついにか・・・」
「私も楽しみー」
紅茶を飲み終えた俺達は移動した。
少し行くと・・・
目の前には青い花の群れ。
東洋ランだ。
古風な花が姿を現した。
ここだけまるで雰囲気が違う。
目の前に現れたのは日本庭園。
先ほどまでみたバラ園とはまったく別の空間だ。
「これが東洋ランです」
「はぁー、心に染み入る花だ」
「なんか昔っぽい花だねー。古風ー」
「日本庭園によく似合う花ですから。バラ園とは趣が異なります」
「ですなー時が止まる」
俺はしみじみ浸っていた。
ここでは落ち着いた時間が流れていた。
その時間は、目の前の東洋ランが作り出しているのだ。
「うわぁー隼人ー。お爺さんみたい」
「良いもん良んだよ。城や歴史好きの女の子だっているだろ。
それと同じだ」
「へぇー、東洋ランか」
えっ・・・
俺の言葉聞いてない・・・
さらっとクルミにスルーされた。
彼女は東洋ランを見ながら
「華玲さんはどの花が一番好きなの?」
「私はバラですよ。バラ園に力を入れていますから。一緒に戻りますか」
「俺はここで東洋ランみてるよ。いってらっしゃーい」
「うん。じゃあーそうしよっかな。バラみたいし。隼人、東洋ラン狩っちゃだめだよ」
「分かってるよ」
「ばいばーい」
「結城君は、見終わったらバラ園にどうぞ」
「そうする」
華玲さんとクルミは、バラ園に戻っていったのだった。
俺は一人。
東洋ランを見ていた。
まるで平安貴族にでもなった気分だった。
穏やかな時間の流れに身を任した。