危険
教室に入ると多くの生徒がいた。
タカシも美波さんも、クルミもいた。
そこそこ時間が経っていたので、いつも俺が学校に来る時間になっていた。
「おっつー、隼人」
「タカシか」
「今日は早いじゃん」
「あぁ、たまには学校に早くこようと思って」
「珍しいー。でも、どこかいってたん?」
「あぁ、ちょっと朝の散歩にね」
「へぇー、そりゃまた珍しいー。今日は珍しい日じゃん」
「だな」
俺は椅子に座り、タカシと雑談した。
◇
昼。
空き教室。
「はい。松茸弁当」
「ありがと」
クルミが作ってきた弁当を開けた。
フワーっと松茸のこうばしい香りが漂う。
松茸ご飯に松茸サラダ。
スライスされた松茸がいっぱい。
松茸祭りだっ!
タコさんウインナーっぽい、タコさん松茸までいる。
器用に松茸の下側が切られ、タコのようになっているのだ。
「す、凄いな・・・クルミ。これっ、結構大変だったんじゃないか」
「全然だよ。ほらっ、隼人には色々お世話になってるし。髪とか肌とか・・・」
クルミは自分の髪や爪を見せる。
まぁ、スキルでクルミを綺麗にしたのは事実だが・・・
思いがけず感謝の気持ちを示されると・・・
なんだか嬉しい。
「タコさん松茸までいるじゃないか」
「うんっ。これねー。切れ込みをいれるのが中々むずかしかったんだぁ。
失敗したのは松茸ご飯にいれちゃった」
「そうか。かわいいから、食べるのがもったいないぐらいだ」
「だめだよー、ちゃんと食べないとー」
「わかってるさ」
「ならっと、私が食べさせたあげるー」
クルミは箸を取り、タコさん松茸をとる。
「はーい、あーんして」
俺はチラリと空き教室を確認する。
周りには誰もいない。
ならっ、いいか。
「あーん」
「あーん」
クルミが俺の口の中に松茸さんをいれる。
パクッ
俺は松茸を食べたのだった。
「うん。おいしいー。まつたけの風味が活かされている」
「長時間煮込んだんだぁ」
「さすがクルミ。旨いよ」
俺はクルミの頭を撫でた。
「えへへっ、喜んでくれて嬉しいな」
「偉いぞ、美味しい」
「全然だよ」
「至極謙虚だな」
「もっと食べさせたあげるねー。はい、あーんして」
「あーん」
パクッ
俺はタコさん松茸を食べた。
その後。
何度も「あーん」して、松茸弁当を平らげてたのだった。
暫くして。
俺はとあることを思い出した。
「クルミ、そういえば今日は放課後、ここにこれない」
「えっ、なにか用事があるの?」
「実は華玲さんの家に行くんだ。ほらっ、同じクラスの」
「えっ!!!」
ポカーンとするクルミ。
余程予想外の答えだったのか、硬直してかたまっている。
訳を説明したほうがいいな。
「実は華玲さんの家にバラ園があって、東洋ランもあるみたいなんだ。
東洋ランは珍しい花でね、見に行きたいんだ。ほらっ、俺植物好きだし」
「えええーっ!」
「んんっ?」
「ならっ、私も行くっ!」
「えっクルミもっ?何で?」
「だって私も植物好きだもん」
そうだっけか・・・
まぁいいか。
クルミもいれば、変な誤解もされないだろうし。
「なら、華玲さんに聞いてみるね」
俺はスマホを操作して、華玲さんにLINE送った。
俺:今日だけど、クルミも一緒にいい?花みたいんだって
クルミは俺のスマホを覗き込んでいる。
「ふーん」って顔をしている。
何か含みのある顔で画面を見ている。
「隼人さー、知ってたんだ?」
「何を?」
「華玲さんのLINE、知ってたんだー」
「う、うん。まぁ、つい最近交換してね。クラスメイトだし」
「へー。教室で話してるとこ、私見たことないんだけどぉー」
「それはー、まぁ、そうだけど」
「どういうこと?仲いいの?いつ仲良くなったの?」
「えっと・・・」
俺が答えに困っていると・・・
ピコリンッ!
あっ。
返事が来た。
随分早い。
でも助かった。
華玲:いいですわ
「OKだって。クルミも来ていいって。よかったね、なぁ?」
「ふーん」
「ほらっ、華玲さんの家って凄いらしいし。バラ園だよ。クルミも楽しみだろ」
「そうだけどー。なーんか釈然としない」
「そうかな」
「ねぇ、華玲さんと仲いいの?」
あ・・・
また同じ質問をされた。
俺と華玲さんの仲が気になるのかもしれない。
「普通だよ。華玲さんも植物好きみたいだから、趣味仲間みたいなものだよ」
「そう・・・趣味仲間かー」
微妙な表情のクルミ。
そうえいば・・・
クルミと華玲さんが話しているところはあまり見たことないな。
「華玲さんは見た目お嬢様っぽいけど、普通だよ。きっとクルミも仲良くなるよ」
「・・・うん」
「ほらほら、クルミも縦ロールにするといいよ」
「隼人、ああいう髪型が好きなの?クロワッサンみたいなの」
うーん。
どうだろう。
改めて聞かれると特に好きでも嫌いでもない。
「いや、特にないけど。パンのクロワッサンは好きだよ」
「ふーん。私もパンは好き」
俺達は昼の一時を過ごしたのであった。