感動映画
劇場に入り。
スクリーンに映る映画を見る。
泣き映画と評判どおり、館内にはすすり泣く声が聞こえる。
隣の美波さんも泣いている。
涙を流している。
病気でヒロインが死ぬシーンが、心を打ったのかもしれない。
だがしかし・・・
俺は今いち乗れなかった。
完全に取り残された。
映画の内容よりも、キャストよりも、画面に映る植物に注意が向いてしまったのだ。
あれは・・・まるまるだな。
あれは・・・これこれだなっと。
物語そっちのけで植物を観察していた。
様々な植物が見れて満足だった。
後。
なんだかんだ俺と美波さんは、映画を見ながら手を重ねていた。
椅子の肘掛に俺は右手を、美波さんは左手をのせる。
手を重ねて握っていた。
最初はドキドキしていたが・・・
次第に画面の植物が気になってきたので・・・
最後にはあまり注意が向かなかった。
◇
映画が終わり。
手を繋いで映画館を出ると・・・
「悲しかったね。泣いちゃった」
目が赤い美波さん。
うん。
映画見ながら泣いていたからねー。
美波さんは。
悲しかったんだろう。
でも・・・
俺は植物が気になっていたので、全然悲しくなかった。
だが、ここは空気をあわせて・・・
「うん、良い映画だった」
っと無難に返しとく。
冷血漢だと思われたくはないので。
美波さんは泣いてスッキリしているようだし。
彼女の顔を見ていると・・・
俺も何だか映画を見て感動した気分になってくる。
がっ。
美波さんは俺の顔をじーっと見る。
んんっ?
なんだろう?
どうしたんだろう?
「あれー?隼人君、悲しくなかった?」
「十分感動的な映画だったよ」
「ヒロインが死んじゃって、とっても胸がいたかっよねぇ」
「う・・・うん」
じーっと再び俺は美波さんに観察された。
「あー、隼人君、まさか寝てた?」
「ち、違うよ。ちゃんと見てたよ」
そう。
ちゃんと見てた。
寝ていたわけはない。
「ほんとー?じゃあ、問題だすね。映画を見ていたら分かるはず」
「どうぞ」
「ヒロインとヒーローが出会った場所は?」
「・・・・」
・・・・
あんれー。
ヤバイ。
ヤバイな。
分からない。
全然分からない。
植物しか見てないから、話なんか覚えてないし。
出てきた植物なら答えられるけど。
でも・・・
高校生が主役の映画だったから。
多分・・・
「学校・・・かなっ」
「ブブーハズレ。やっぱり寝てたでしょー」
「違うよ、ちゃんと見てたって」
「ならなんで間違えたのー?」
「・・・すまない、実は映画に出てくる植物が気になって、あまり人は見てなかったんだ」
「あー、なるほどねー」
納得顔の美波さん。
よかった。
パキラの件があったからか、上手く納得してくれたようだ。
誤解がとけてなによりだ。
「でもさー隼人君、見てないのにはかわりないよねー」
「えっ、そうなるのかな?」
ちゃんと植物見ていたけど・・・
「うんうん。そうだよ。絶対そう。
でも・・・お願い聞いてくれたら許してあげる」
又しても、じーっとこちらをみる美波さん。
泣いた後の顔だからか・・・
妙に力があるというか・・・
魅力的だ。
女の子の泣き顔は魅力がUPする。
こちらを見られると・・・心が動揺する。
「な、何かな・・・美波さん、そんなに見られると怖いな」
「あのキーホルダー勝ってちょ」
売店にある星型のキーホルダーを指差す彼女。
多分、今見た映画関連グッズだと思う。
ふぅー。
よかった。
俺は安心する。
それぐらいなら問題ない。
「いいよ」
「いいの?」
「うん」
「ありがとぉー言ってみるもんだね」
俺と美波さんは売店に向う。
キーホルダーを買い、美波さんに渡す。
「はいっ、どうぞ」
「はははっ、嬉しいなぁー本当にありがとね」
笑顔の美波さん。
ニコニコ顔だ。
「あっ、あと隼人君、もう一つお願いあるんだぁ~」
「いいよ。どんどんいって」
この際一つも二つもかわないだろう。
さくっとお願いを受け入れよう。
もう一つキーホルダーでも欲しいのだろうか。
俺は財布の中をこっそり確認するが・・・
「あのね。本当は今日のこと、クルミには言ってないの」
「えっ」
えっ・・・・
えええええええっ!
何を言ってるんだ美波さん?
ちょっと重い発言というか。
予想外の一言に、俺は一瞬時が止まった。
美波さんはなんでもないような顔だけど・・・
えっ。
どういうこと?
どういうことなの?
クルミに言ってないって事は・・・
俺と美波さんは、クルミに秘密で映画館デートしたってこと?
そういうこと?
・・・・・
・・・・・
「だからね。今日の事はクルミにも、皆にも秘密にして欲しいの。
ほらっ、皆誤解するといけないから」
「あ・・・えっ・・・うん」
うん。
俺はこう返事をするしかなかった。
もう美波さんと映画を見てしまったのだ。
今さらどうしようもない。
起こった出来事は変えられない。
ならば・・・
秘密にした方が問題ごとは避けられるだろう。
クルミも悲しまずにすむだろう。
「よかった。映画楽しかったし、お腹ペコペコ。ご飯食べに行こっか?」
「だね」
俺は美波さんの発言に心底驚きながらも、彼女と夕食に向った。
その途中。
誰かの視線を感じた気がした。
見慣れた顔を見た気がしたのだが・・・誰だか分からなかった。
多分、気のせいだろう。