買出し
放課後。
空き教室。
俺はクルミといつもの一時。
だけど。
今日はちょっとぎこちない。
その訳はー。
目の前の光景。
何故か美波さんも傍にいるからだ。
ちょこんと椅子に座ってる。
授業中にLINEでやりとりしている時。
クルミに謝るといっていたが・・・彼女の動きは早かった。
直ぐに対応したのだ。
今、目の前で謝っている。
「クルミ、ごめんね。隼人君に無理言って」
「いいよー。何度も謝らなくても、私、気にしてないから」
美波さんはクルミに何度も謝っていた。
俺に「肌を白くして貰った事」を。
「自分がクルミに相談せずに頼んだ事」を後悔していると。
「でもー、クルミと隼人君の仲がぎこちなくなるのは嫌だから・・・」
「大丈夫だよ、ミカ。そんなことないから。私達もう仲直りしたし。ねぇー隼人。仲良しだよね」
「あぁ、勿論だ」
「そう・・・ならよかった」
ふぅー。
俺もよかった。
クルミと美波さんの仲がぎくしゃくするのは嫌だから。
二人とも仲良くしてもらいたい。
「じゃあ、クルミ、美波さん、皆で宿題でもやろうか。今日の授業は全然聞いてなかったから。
クルミ、ノート見せてくれ」
「そうだねー。あたしも全然真っ白」
「もぅ・・・だめだよー、ミカも隼人も、ちゃんと授業は聞かないと。何やってたの?」
俺はドキリと震えた。
心臓がヒュンと冷えた。
唾を飲み込んだ。
まさかクルミに・・・美波さんとのLINEのやり取りがばれているのかと思った。
しかし。
美波さんは全く動揺する姿を見せず。
「だねー。眠かったんだーあたし。部活の朝練で」
スラリと答えた。
俺は堂々と、まったく動揺を見せずに嘘をつく美波さんに感心した。
すごいなー、彼女は。
彼女は俺とLINEをしていてノートをとらなかったんだと思うのに。
クルミの前で堂々としているんだから。
俺も美波さんに合わせた。
「だな。俺も」
「分かった。二人とも、次からはちゃんと授業受けてね」
「ありがとークルミ先生」
「俺も」
俺達は勉強を始めたのだった。
勉強中~。
「隼人君、ここ分かんなーい。教えて」
「うん、どれどれ?」
美波さんが開いている教科書を見る。
数学だ。
でも、対面で座っているので分かりづらい。
今の席順は↓
美波さん
【 机 】
俺、クルミ
だから席を立ち。
美波さんの横の椅子に腰掛ける
「どの問題?」
「これなんだけどー、Aの3番」
あー、これね。
よかった。
俺でも分かる奴だ。
もし分からない問題だったら、男のプライドに関わるところだった。
ふぅー。
危ない危ない。
「これはねー、こうやってこうやるんだよ」
「へぇー、隼人君以外と頭良いんだね。凄い」
「そこそこね」
「じゃあ、これはー」
「えっと、これわねー」
俺は美波さんの横に座り、一緒に問題を解いていった。
さくさく問題を解いていく。
美波さんが「わぁーすごい」っと褒めてくれるので。
ついつい楽しくなって解きまくってしまった。
がっ。
気づくと・・・・
むむっ。
何やら不穏な視線を感じる。
ビシビシ突き刺さるような圧力。
さっと顔をあげて確認すると・・・
クルミが不愉快な表情をしていた。
あっ。
しまった。
「二人ともー、ダメ。ダメダメー。自分でやらないとダメだよ。ミカもー隼人も、自分でやるのっ!」
委員長気質のクルミだ。
こういうことは嫌いなのかもしれない。
「あははっ、ごめんねークルミ」
「そうだな。美波さん、残りはお一人でどうぞ」
「はーい」
「うんうん、ちゃんと自分でやらないとっ」
俺は席に戻り。
カキカキと宿題をこなした。
暫くすると。
ちょっと喉が渇いたので席を立つ。
「俺、自販機でシュース買ってくるけど、何かいる?」
「私、オレンジジュース」
「あたしは・・・コーンポタージュ」
「分かった」
俺は空き教室を後にした。
◇
自販機でジュースを買った後。
空き教室を戻る途中。
「あっ、隼人君」
「美波さん」
何故か美波さんに出会った。
空き教室にいるかと思いきや。
廊下にいた。
「あれっ、どうしたの?こんなところで」
「うんっ、ちょっと教室に忘れ物があって取りにいってたの」
「そうなんだ。あっ、そうだ、ほらっ、コーンポタージュ。あっついよ」
「ありがとう」
美波さんに渡すと。
「あつっ!」
缶を落としそうになるので。
俺はさっと美波さんの手を包む。
缶が落ちるのを防ぐために。
「危ないところだった」
「だねー。落としちゃうとこだった」
「危機一髪だ」
「うんうん。コーンポタージュ落とすと大変だったかも」
二人して安堵していると。
お互いを顔を見合わせる。
「あっ」
「うんっ」
俺達はさっと手を離す。
手を触れていると昨日の事。
下着姿で抱き合ったことを思い出し・・・なんともいえない気分になるのだ。
だから。
ちょっと視線を美波さんからそらして、窓の外を見る。
すると・・・・
あっ。
カマキリだ。
クリクリの目に、かっこいい緑の鎌を持っている昆虫。
窓枠にカマキリがいた。
ヒョイ
俺はカマキリを背中から掴んだ。
カマキリは「やっ、やっー」と鎌を振り回して暴れるが。
後ろから掴めば問題ない。
無害になる。
カマキリを持って観察していると・・・
「へぇー、隼人君。昆虫大丈夫なんだ」
「問題ないさ。美波さんも?」
「あたしも大丈夫だよー。ほらっ、昆虫かわいいし」
美波さんは、カマキリの前で指をグルグル回している。
「見てみてー、隼人君。催眠術。虫の前で指を回すと目を回すんだよー」
グルグルと得意顔で指を回す美波さん。
「お眠になーれー」「お眠になーれー」と唱えている。
気分は魔女なのかもしれない。
だが・・・
俺は間違いに気づいていた。
悲しい間違いに。
「美波さん、それはトンボにだけ効くんだよ」
その証拠に。
カマキリは微動だにしない。
ポカーンと美波さんを見つめている。
「えっ、ガーン・・・あははっ、恥ずかしいな。知ったかしちゃった」
恥ずかしそうに苦笑いする美波さん。
子猫の様に首をヒョイっと回す。
「恥ずかしくはないさ。女の子で昆虫知識を持っているのは貴重だから。良いことだよ」
「そ、そうかなー」
「そうだとも。じゃあ、教室に戻ろうか。クルミへのお土産も出来たことだし」
「お土産って・・・・まさか、カマキリ?」
ニヤリ
「そうさ」
「クルミびっくりするだろうねー」
「だろうねー、あたしも楽しみー」
俺は怪しく微笑み。
美波さんと並んで、クルミが待つ空き教室に向って歩き出した。
「ねぇー隼人君」
「何?」
「なんでもなーい」
美波さんニコニコ顔だった。