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美波さんのお願い3

 互いの鼻がぶつかり合うぐらいの距離。

 美波さんの吐息が俺の体にあたる。

 俺の吐息も彼女の体に当たり、彼女の黒髪が揺れる。

 そんな距離。


「じゃあ、抱きしめるから」

「・・・うん。優しくしてね」


 ギュッ

 俺は前から美波さんを抱きしめる。

 柔らかくも芯がある感触、彼女の体温が伝わってくる。

 美波さんは緊張しているのか、やや体が硬い。

 それに・・・


「そのー、美波さん。

 なるべく肌を触れ合わせないといけないから、もうちょっと密着してくれるかな。

 腰をぎゅっと突き出す感じで」

「えっ・・・うん」


 ぎゅっとお互い抱き合う。

 胸も、お腹も、太ももを、お互いの肌と肌が触れ合う。

 じんわりと汗をかいているためか、しっとりとしマシュマロの様な感触。 

 汗が潤滑油となって肌の密着度が上がる。

 二人の体温が密着する事で一つになる。


 そんな中。

 俺の心臓はバクバクと高鳴っていた。

 表情には出さないが、もの凄く緊張していたのだ。

 まさか美波さんと・・・

 クルミの親友とこんなことをするとは思ってもみなかった。

 青天の霹靂だ。


「このまま、動かないでね」

「わっ、分かったから。早く・・・お願い」


 恥ずかしさのあまりか。

 泣きそうな声の美波さん。

 わずかに体温も上がっている気がする。

 肌を触れ合わせていると敏感に感じるのだ。



 俺は心を沈め。

 雑面を追い払い。

 心の中で念じるのだった。


『美波さんの肌よ、白く奇麗になれ~』

『美波さんの肌よ、白く奇麗になれ~』

『美波さんの肌よ、白く奇麗になれ~』

・・・・・・・・・・



 10回ほど唱えると。

 すると・・・


「よし、できた」


 俺は美波さんから離れる。

 彼女の体を見ると、粉雪の様な柔肌になっていた。


「わぁっ、ほ、ほんとだー。肌が白くなってる。本当に白くなってるー」

 

 美波さんは自分の体を見て目を輝かせている。

 「わぁー」っと目を爛々と開いている。

 一気に明るい雰囲気になった。


 俺はすぐに鞄から栄養食品とエネルギードリンクを取り出して飲む。

 影響補給は大事。

 空腹と疲れを癒すのだ。

 早めに補給しないと、空腹と疲れで何も出来なくなってしまう。


「隼人君、ありがとうー」


 ギュッ

 うおっ。

 美波さんに抱きつかれた。

 下着姿で抱きつかれたので、ちょっと「うおっ」ってなってしまう。

 ビックリしたー。

 胸が顔に当たったから。

 

 彼女は下着姿だったことに気づいたのか。

 ささっと俺から離れる。

 恥ずかしそうにオロオロしてから。


「えへへっ、ごめんねー隼人君。その・・・テンションあがちゃって」

「なに、たいしたこと無いさ。喜んでくれて嬉しいよ、それより服を着ようか」


「だねー。こんなとこ見つかったら大変。勘違いされちゃう」

「あぁ、見つかるととてもまずいことになると思う」


「もうちょっとこの肌を見ていたいけど・・・・ささっと服着ちゃおっかな」

「あぁ」


 俺が服を着ようとした時。

 美波さんが笑顔で俺のことを見る。

 じーっと。


「ねぇー、隼人君」

「何かな?」


「あたし、奇麗?」


 よく引き締まった体に、奇麗な黒髪と白い肌。


「十分奇麗だよ」

「ありがとっ」


 嬉しそうな美波さん。

 肌を合わせたためか、ちょっとこれまでより仲良くなった感がある。




 服を着終えると。

 美波さんは鞄からお弁当箱を取り出す。


「はいっ。これお礼のお弁当。この後はすっごくお腹減るみたいだから。朝作ってきたんだ」

「わざわざありがとう」


 予期してなかったプレゼントに、俺はほんわりと心が暖かくなった。

 プレゼントはいつ貰っても嬉しいものだ。


「あははっ、美味しくなかったらごめんね。あたし、あんまり料理したこと無くて。

 好みはクルミから聞いてるから、隼人君が好きなものを作ったつもりだけど」

「いや。そんなことないよ。とっても美味しそうだ。ありがとう」


「お弁当箱は、いつ返してくれても良いから」

「分かった。明日返すよ」


「じゃあ、あたしは部活に行くね。この部屋は鍵かけなくて良いから」

「あぁ、それじゃ」


「うん、ばいばーい」


 美波さんは理科準備室を出て行った。

 

 俺は美波さんの匂いが残った部屋で、一人、お弁当を食したのだった。







 その後。

 俺は家に帰った。

 クルミにはLINEで、「すまない、色々あって帰る。空き教室にはいけない」と送っておいた。

 スキルを使った後は、一刻も早くベッドで寝たいのだ。

 

 それに。

 美波さんと肌を触れ合ったからか。

 今日はクルミには会いたくないと思ったから。



 この日。

 俺は初めて美波さんを女性として意識したのだった。 

 クルミの親友ではなく、一人の魅力的な女の子として。

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