美波さんのお願い1
学校。
廊下を歩いていると・・・
「結城君~、結城君~」
むむっ。
どこからか名前を呼ばれた。
どこだっ?
どこからだ?
でも・・・
視界に声の主は見えない。
ちょっとちょっと・・・
これ・・・
また幻聴じゃないよね。
スキルなんちゃらの声じゃないよね。
「結城君、結城君、こっちこっち」
はっ。
声は後ろ斜め後方から。
さっと振り返ると・・・
クルミの親友、美波さんが廊下の隅から俺を呼んでいた。
「こっち、こっち」と、笑顔で手招きしている。
子猫みたいでちょっとかわいい。
猫耳が似合いそう。
俺は彼女の元に向う。
「どうしたの?美波さん」
美波さんはキョロキョロし。
他の人に見られていないか周りを確認しているようだ。
キョロ波さんだ。
彼女は誰もいないことを確認してから。
「えっとね、実はさー、隼人君にお願いあるんだ」
「ほーう」
「放課後、3階の理科準備室にきてもらっていいかな。今日は誰もいないから」
「別にかまわないけど・・・」
放課後はクルミとの予定もあるので。
「クルミも一緒にいいかな?」と聞こうとしたところ。
「一人で来てね。絶対だよ。誰にも言わないで」
「あっ、うん」
先をこされた。
勢いに押された。
条件反射的に返事をしてしまった。
「じゃあ、放課後ねー、隼人君、ばいばーい」
「おう」
美波さんは、さっそうと駆けて行った。
爽快な足取りだった。
嵐の様な出来事。
俺はポツンと廊下に取り残された。
うーん。
一人で来てか・・・
一体何の用事だろうか?
俺はしばし思考に耽りながらも、あまり深く考えないようにした。
多分大した用事じゃないだろう。
なんでもないことだと思う。
ちょっとした相談かな。
そう思い。
俺はクラスに戻ったのだった。
この先に待ち受ける、出来事の予兆にも気づかずに。
◇
放課後。
クルミに「ちょっと遅くなるかも」とLINEで連絡を入れてから。
美波さんが待つであろう理科準備室に向った。
勿論クルミには内緒でだ。
部屋に着くと。
既に美波さんがいた。
机にちょこんと腰掛けていた。
スカートからスラリと伸びた足をバタバタさせている。
「あっ、隼人君、来てくれたんだー。嬉しいなー」
「あぁ。約束したから」
なんだか笑顔の美波さん。
彼女はささっと俺の近くにより、自然に手を取った。
「ほらっ、ここに座って」
美波さんに手を引かれるまま、俺は席に着いた。
対面に美波さんが着席するかと思いきや・・・立ったままだ。
「隼人君。何か飲む?。この部屋、冷蔵庫があるんだー。お茶で良い?」
「いいよー」
冷蔵庫に向かい、お茶を取り出してコップに注ぐ美波さん。
手馴れている。
女の子がコップに飲み物を注ぐ姿は、妙に心を掴むものがある。
「はいっ、どうぞ、冷たいよー」
「ありがとう」
俺はコップを受け取り、ゴクリと飲み干す。
くぅううううー。
よく冷えた麦茶だ。
キーンと頭に響く。
ちょっと頭を手で押さえる。
「ほらっ、冷たかったでしょ。すっごい冷え冷えなのー」
「あぁ。ビックリだ。極度に冷やされている」
俺の頭痛? (冷え麦茶によるキーン)が収まったのを確認してか。
美波さんが口を開く。
「あのねー隼人君。なんだろう、あははっ、二人で話すの緊張するね」
「・・・かな」
確かに。
教室でちょこっと話した事はあるし。
クルミを交えて3人で離す事は時々あるけど・・・
二人きりで話すといつもとちょっと調子が違う。
「そういえば、最近クルミ奇麗になったよねー。胸も大きくなったし。隼人君もそう思うよね?」
「あぁ」
「髪もとってもきれい、肌もすっごく奇麗、爪も素敵」
「うん」
「数ヶ月前と全然違うと思うの。すっごく奇麗なモデルさんみたい」
「まぁ、そうなのかな」
俺は今だに。
クルミは奇麗系ではなくかわいい系だと思っているが。
美人になったのは間違いないだろう。
皆いってるし。
「ねぇ、隼人君、知ってるかな?クルミ、男の子にも女の子にも大人気なんだよー。
毎週の様に告白されてるし、皆奇麗だって言ってるよ」
「そういえば・・・そんな話きいたかな」
でも、告白されている事は知らなかった。
しかしラブレターも下駄箱に入っていたし、それなら告白されていてもおかしくないか。
きっとクルミは、俺に気を使って話さずにいたのだろう。
美波さんはさっと座りなおす。
スカートの乱れを直したようだ。
それから僅かに真剣な表情をする。
さっきまでは笑顔だったけど、今はちょっと違う。
妙な緊張感が場を包む。
「隼人君。変に誤解しないで欲しいんだけど・・・」
「うん?」
「前まではねー、クルミよりあたしの方が奇麗だったんだよ。別に変な意味はないよ」
「ほーう」
まぁ。
美波さんはすらりとして体系もいいし。
顔も美人の類に入ると思う。
運動部で元気もいいから、クラスの男子の中でも人気があるのは知っている。
タカシの意見では、美波さんはクラスで3番目にかわいいらしい。
クルミが一番になってからは、4位に順位を落としたが、奇麗な黒髪になったことで3位に戻ったとのこと。
昔のクルミはクラスで中位だったらしいので、美波さんの自己分析は正しいだろう。
「クルミといるとねー、皆クルミの方ばかり見るんだ。前とは全然逆っ。皆クルミばっか見るの」
「そうか」
まぁ。
それは分かる。
俺もクルミといると、皆彼女の方を見るからな。
なんとなく雰囲気を察する事はできる。
でも・・・
女子同士と恋人とでは、意味合いが違うだろう。
明らかに自分より魅力的な同性が傍にいるのは、あまり良い気がしないのかもしれない。
それが・・・昔は自分の方が優れていた場合は特に。
複雑だ。
「隼人君。お願いがあるんだ。その・・・あたしもクルミみたいに奇麗にしてくれないかな?
ほらっ、前に髪を奇麗にしてくれたみたいに」
「えっ」
やはりか。
途中でなんとなく感じていたが・・・
やはりそのお願いだったか。
いつ美波さんがスキルによる美容整形をいいだすか・・・ヒヤヒヤしていた部分もあったのだ。
俺の悪い予感はあたってしまったようだ。
「少しで良いんだ。肌をきれいにして、爪をピカピカに、胸ももっと大きくしたいの」
「いや・・・それは・・・一回だけって約束だったし」
美波さんが近づいきて、俺の手を取る。
ちょっと冷たい柔らかな手で俺の手を握る。
「ねぇ、隼人君、お願い。あたし、何でもするよ。なんならっ、クルミがしないことでもしてあげるから」
俺の手を胸元に押し当てる美波さん。
Cカップと推測される美波さんの胸の弾力を感じ。
クルミとは違う種類の、女の子の甘いに匂いがする。
俺は・・・
ゴクリと唾を飲み込んだのだった。
心がザワザワと泡だった。
ゴクリ・・・
あらすじに追記しましたが、暫く毎日投稿です。