表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
商工戦士オーダンナ―  作者: 宮城 英詞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/11

少女が見た青空

 レーダーの中に赤い点が五つ。


 17歳の少女、天王寺澪てんのうじみおは操縦桿を握りしめて、周囲の状況を確認した。


 モニターに映るのは戦争で荒れ果てたビル街、「敵」はどうやらこちらを取り囲むようにこちらに向かっているようだった。


 データによれば、相手は二本足の戦闘ポッドだ。


 こちらの人型マシーンに比べれば、装甲も装備も貧弱だが、何しろ数が多い。


 ミオは操縦桿を倒して、機体をビルの影に隠した。


 そして、それが終わるかどうかという所で、澪の耳に警告音が響く。


「……来た!」


 それは、周囲から一斉に放たれたミサイルの警告音だった。


 いい加減、向こうのセンサーにもこちらは感知できたらしい。


 ミオはそれに反応して操縦桿で方向を修正して、フットペダルを力いっぱい踏む。


 後方のブーストが噴射する音と共に、ミオの機体はビルの隙間を駆け抜けた。


 恐らく一度高く上昇したのちこちらを感知して飛んでくるタイプのものだ。


 遮蔽物の多い地形や、どこかに隠れている者を炙り出すには最適の武器だが、何しろ場所と相手が悪い。


 ブーストを吹かしながらビルの谷間を縫うと、ミサイルは次々とビルに当たって爆発してゆく。


 そう、この武器を使うにはこの場所は余りに狭い。


 そして、ミオの機体は軽量、高速の機体。


 これにミオの腕前が合わされば、ミサイルなど当たるはずがなかった。


「所詮はAIやね」


 ミオはそう言いながら、メーターを確認し、ブースターがオーバーヒートしないギリギリの速度で吹かしながら荒れ果てた通りを滑るように移動する。


 囲まれた場合の選択肢は一つ。


 全力で一機を叩く!


 そして、数秒後、ミオは一体の戦闘ポッドをロックオンした。


「一つ!」


 言いながら、ミオがトリガーを引くと、反動と共に人型マシーンの右手に備え付けられたマシンガンが火を噴く。


 球体のポッドに二本足という粗末なシルエットの戦闘ポッドは、反撃する間もなく砕け散った。


 そして、撃破サインを確認しすぐさま、ビルの陰に隠れ、ブースターを休ませながら、敵の位置を確認する。


 敵は思った通り、こちらにまっしぐらに向かってきているようであった。


 すかさず、通りに出て、一番近い敵に向かう。


 二機目の敵をロックオンするのに、数秒もかからなかった。


「二つ!」


 ほとんどすれ違いざま、という勢いで、ミオは敵ポッドに銃弾をお見舞いする。


 背後で爆散する敵に目もくれず、ミオはビル影に飛び込んだ。


 この戦い方、動きを止めれば、即撃たれる。


 敵はAI。動きはワンパターンだが、狙いは正確だ。


 ミオは、レーダーを再確認し、敵の位置を把握しようとした。


 だが、ビルに挟まれているせいか、向こうの姿が映らない。


 ミオは舌打ちして、マップを近距離の者に切り替えた。


 敵はあと三機。


 少し吹かし過ぎたため、ブースターによるダッシュはしばらく使えない。


 ここは、通常歩行のまま相手をかく乱して、次の手を使うか。


 だが、その策は次の通りに出たとたん、無意味になった。


 警告が走り、衝撃がミオを襲う。


 十字路に差し掛かった所での出会い頭の攻撃。


 ミオは慌てて機体を後退させ、ビルに隠れた。


「見つかった?」


 ミオがそう言った瞬間、今度は銃弾が飛んで来たのとは逆側の角から。戦闘ポッドが顔を出していた。


 囲まれた!


 ミオには迷っている暇はなかった。


 直ちにブースターを吹かして、後退していた機体を前にダッシュさせる。


 素早く武器の切り替えスイッチを押して、近接戦闘に切り替え。


 そして絶妙な距離のタイミングでトリガーを引いた。


「三つ!」


 人型マシーン左手から光り輝く刃が飛び出し、戦闘ポッドを真っ二つに切り裂く。


 そしてミオは戸惑うことなく、先ほどこちらを撃ってきた戦闘ポッドに機体を向け、射撃モードに切り替えた。


「四つ!」


 当然、向こうからもビーム光線が飛んでくる、


 こうなったら装甲勝負だ。


 ミオは必死にトリガーを引き、かなりのダメージと引き換えに四つ目のポッドを破壊した。


「損傷大」と「弾切れ」の警告が止まらない。


 ミオは、肩で息をしながら、機体を後退させる。


 いささか、気合を入れてトリガーを引きすぎた。


 武器は左手の近接武器。


 どうする?


 敵はどこ?


 レーダーを確認するミオ。


 敵の赤い点は、自分の位置ときっちり重なっていた。


「まさか……真上!?」


 ミオがそう叫んだ瞬間、ミオの眼前のモニターはふっつりと切れた。



「ミオちゃん。電力不足でゲームセンター閉店だって、あんまり長い事やってるから電源落とされちゃった」


 そして、ミオの様子を見ていた、眼鏡の友人、梅田千佳うめだちかが気まずそうに声をかけた。


 それにミオはがっくりと首を項垂れる。


「……ええとこやったのに」


 ミオは静かにゲーム機の台を叩いた。


 アンゴルモア星人とかいう宇宙人が攻めてきてかれこれ三か月。


 憲法がどうのこうのという建前で、全世界の非難を浴びつつも行われた和平交渉と停戦宣言によって、日本は現在のところまったくと言って良いほど被害を被ってはいなかった。


 高校生であるミオとチカの二人も、テスト休みにかこつけてこうしてここ、大阪は天王寺の街をふらつくことができる。


 学校が休みになる事も無ければ、宇宙人の軍団が街を占領したりすることもない。


 大阪の街は何事もなかったように平和に見えていた。


 だが、影響は各所に現れている。


 衛星が破壊されたことによる、通信の不備や、情勢不安による物流の停滞。


 特に、各国から嫌がらせともいえる石油資源の出し惜しみなどで、エネルギー問題は深刻になりつつあった。


 車の通行は少なくなり、店は夜になるとどこもかしこも閉店。


 人通りは少なく、通りで見るのは政府の弱腰を糾弾する街宣車のシュプレヒコールばかりだった。


 同じくゲームセンターを追い出されたミオとチカの二人は、そのどこか沈んだ街をながめ、うんざりした顔でため息をつく。


「あーあ、せっかく格安で長い事遊べると思ったのになぁ」


「五百円で一時間もやってたもんね、お客さんも私たちだけだったし……」


 ミオの言葉に、チカが頷いた。


 かさむ電気代、長居する客、早く客を出せという矢のような催促。


 おそらく、お店としても苦渋の決断だったのだろう。


 二人は、15時だというのに時短営業で閉じる商業施設の扉が閉じられるのを、なんとも言えない表情で眺めていた。


 チカは、あの薄暗いゲームセンターでの気まずい時間を思い出して、苦笑しながら澪に話しかけた。


「……それにしても、本当に巧かったね、あのゲーム」


 それに、ミオはうなだれた顔を上げ、チカの目を見てにっと笑う。


「そやろ?おとんがウチの工場に同じもん持ってきてな、最近さんざんやっててん。もう、目をつぶっても動かせるし、AIの動きも覚えてもうたわ。……ここやったら、通信対戦で誰かと勝負できると思ったんやけどなぁ……」


「……電力不足はどこも同じだもんね。通信も、衛星が無い分速度落としてるみたいだし」


「おまけに物不足で、何でもかんでも高くなって……街で遊ぶのもお金かかってしゃあないわ……おとんの工場も仕事止まってるし」


「私のお母さん、どこかに畑を買おうかって言いだしてるよ……食べ物が無いのが一番大変だからって……大変な時代よね」


 そう言うと二人は、しみじみと活気のなくなった天王寺の街を眺めた。


 宇宙人は攻めてこないし、戦闘は休止状態なのだが、影響によって起こった、エネルギー問題や物価高は、高校生である二人にもしっかり影を落としていた。


 この先どうなるんだろう?


 出口の見えない閉塞感があるが、憂さ晴らしもできない状況に、二人は将来の不安を感じずにはいられなかった。


「どれもこれもあの宇宙人が来たせいや……ホンマ、だれか退治してくれんやろか?」


 そう言うとミオは空を見上げ、睨みつける。


 そこには宇宙船が見えるはずもなく、ただ抜けるような青空が広がるだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もう天王寺ミオに梅田チカという大阪人狙い撃ちのネーミングが好き。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ