第30話 夢の標
階段を昇りきった先は、岩山の只中にあった。
岩柱が並び、それがいくつも群れるように集まって、ひとつの岩山を作り上げている。
岩はごつごつとしており、とっかかりはあるが、ひとつ間違うと、転落死する高さがある。
見上げると、そんなに遠くないところに、塔がそびえているのが見える。
結局、”八月の涼風”のメンバーたちとは、遺跡のなかで合流することはできなかった。
レッドたちはまだ、遺跡のなかを探索しているのだろうか。
東の地平線が、光の線で覆われている。
もうすぐ、双陽が昇る。
リンが、岩柱の平らな部分に腰を下ろした。
「地上に降りるのは、周りが明るくなってから、だねっ。ちょっと、ひと休みしようよ。フィルは、眠い?」
「……いや。遺跡のなかに、丸一日、いたはずだが、まったく眠くはないな」
「じゃ、見張り頼める? ぼく、横になっちゃうから」
「……あー、うん。わかった。明るくなったら、起こすよ」
リンが、雑草の生えているところで、体を伸ばして横になった。
自分の腕を枕にして、目を閉ざす。
そのすぐそばにゆうが降り立ち、おれを見上げた。
翼を広げて、くちばしを開く。
リンの騎士気取りのようだ。
おれは額を掻くと、少し距離を取って、リンを見守れる場所に腰を下ろした。
ゆうは、時々、リンの周りをとことこと歩いては、おれに向かって威嚇するように、翼を広げてみせた。
三尾鸚鵡は、それなりに戦闘力があるので、見張りにはもったいないくらいだ。
おれは、夜空を見上げた。
あの——石碑に触れてみた時の、夢のなかの風景を頭に思い浮かべてみる。
星々の輝きと双陽。
それが、同時に眺められる場所、とはどこなんだろう。
まったく、ありもしない空間を、妄想したのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
『ソフィ——あの場所が、どこなのか、調べられないか?』
問いかけてみるが、ソフィは首を横に振った。
『残念ですが、あなたが見たという、その情景や女神との会話の内容は、わたしは共有していないので、答えかねますね』
『共有していない……見ていないってことか? そいつは、おかしいな』
『はい。夢であっても、わたしとあなたの意識は繫がっているので、あなたが経験したことが共有されていない、とは考えられないのですが……不思議なことです』
——どういうことだろう。
今になって思うが、あれは本当に夢のなかの出来事、だったのだろうか……。
なんというか、肌触りに妙な現実感があり、自分が見ている、というよりも、別の視点から起きている出来事を眺めている、という感覚があった。
あれは、もしかして、未来の出来事なのではないか……。
根拠など、何もない。
だけど——あれは、女神さまがこれから、これから、おれが成し遂げるであろう、未来の出来事を見せているのではないか。
それならば、ソフィと記憶が共有されていない、ということもあり得るのかもしれない。
おれは、エーテル・リンケージをストレージから取り出すと、メニューから自分のステータス画面を呼び出してみた。
『フィル——Lv66
種族……コモン/漂泊者
天恵……大地神の祝福
加護……ダニエルの獣
状態異常……なし/なし
プライマリークラス……カストレル
セカンダリークラス……ソーサラー
生命力/魔力=800(800)/250(223)
筋力値……60【A++】
器用度……45【C】
敏捷性……62【B-】
耐久力……43【B-】
判断力……58【C+】
意志力……66【C-】
武器——「斬奸刀:剣王の矜持(両手剣+100)GSZ-900-SKP」
防具——「ガーディアン・アーマー(クロース+20)CLL-020-GAA」
盾/アクセサリー——なし」
おれは、天恵の部分に触れてみる。
すると、画面が切り替わった。
『大地神の祝福』の下位のスキルが表示される。
以前は、天恵の部分には『大地の加勢』と書き込まれていて、下位スキルなどはなかった。
あの頃は、ただ、繰り返しのなかで、生きているだけだった。
それが、こんなリア河の東岸までやって来ることになるなんて、思いもしなかった。
エレナやイオ、それに、二番隊のみんなは元気なのだろうか?
“旗を振るもの”は、おれが抜けた後、騎士団に昇格できたのだろうか。
リンの周りで、警戒しながら、歩き回っているゆうの姿を眺めながら、おれはゆっくりと立ち上がった。
東の地平線へと目をやると、山の高峰と近くの空、それに雲が暗闇から、浮かび上がっている。
あと少しで、夜が明ける。
もうすぐだ。
もうすぐ、”八月の涼風”のみんなとも合流して、遺跡の探索を終えることになる。
それから先のことは、わからない。
未来のあの光景を、おれは辿ることになるのか、それとも、別の道を目指すことになるのか——いずれにしても、まだわからないということに、おれは胸を熱くしていた。
とりあえず、今回で連日の投稿は終了です。
また、チャプターが溜まりましたら、集中して投稿する予定です。




