表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ  作者: なりちかてる
第1章:鳳は空の青さを知らず(La fenikso ne konas la bluon de la ĉielo)
27/30

第27話 地下墳墓の敵-その2-

 地下墳墓内の空気が動いた。

 殺気が吹きつけてくる。

「くっ……」


 おれは、その場から飛び退った。

 床を転がり、回避する。


 さっきまで、おれのいた場所に亡旗の剣士が現れ、斧を叩きつけてきた。

 既に防護陣は展開させてはいるが、あれをまともに食らったら、かなり危険だろう。

 ”剣王の矜恃”を構えて、おれは正面から飛散してくる小石を防いだ。


 すぐに、ダッシュして迫ろうとするが、駆け出そうとするその間にまた、剣士の姿は霞み、消えてしまった。

「ちぃっ……」

 舌打ちをする。


 振り返り、”剣王の矜恃”を振り回す。

 がきん……と金属をぶつけるような音が鳴り、宙に火花が散った。

 柄を握る手に、痺れに似た衝撃が走る。

 正面から、剣士の斧とおれの斬奸刀がぶつかったのだ。


 もう一度、おれは一歩、前に踏み込んだ。

 水平に、”剣王の矜恃”を突き出す。

 コンバット・アーツのスパイラル・ブレードだ。


 一撃のダメージよりも命中率と速度を重視して放った技だが、技が届く前にまた、亡旗の剣士の姿が消えてしまった。

 コンバット・アーツは空打ちとなり、虚しく、空中で霧散していく。


 ——だめか……。

 │天賦てんぷなど強力な技を叩きつけてやれば、亡旗の剣士ぐらい、倒せてしまうのだろう。

 だが——そうすると、この地下墳墓も、ただではすまないだろう。

 岩盤が脆くなっていたら、崩落してしまう、ということだって、あり得る。


 おれは、リンと視線を合わせた。

 正面の床に、”剣王の矜恃”を突き刺し、深呼吸をした。


 その間に、リンが剣士に迫っていった。

 刀を構えると、飛び出す。


 おそらく——おれとリンのふたりで剣士を挟撃しようとしても、難しいと思う。

 ならば、どちらかが囮となって、隙を作るしかない。

 リンが攻撃を仕掛けている間に、おれは呪文を練り上げていった。


「千の顔を持つ、夜空の主よ、天則を司る者よ。星々ですら、星宿の掟に縛られり。汝が諸力なかれば、空間は歪み、次元は千々に乱れよう。存在の根源を法によりて禁ずるのを求めれば──」


 おれは、地下墳墓に宿る魔力から、「霊魂」と「漆黒」を呼び出し、そこから「禁制」へと呪文を使って、書き換えていった。

「深淵は今こそ門戸を解放し、縛鎖の軛を……」


 しかし——あと少しで呪文が完成する、というところで、殺気を感じた。

 反射的に、その場から飛び退る。


「くっ……」

 背後に剣士が出現し、斧を叩きつけてくる。

 水平に薙ぎ払い、おれは迫る斧の刃をぎりぎりで避けた。

 倒れ込みながら、躱したおれの顎の先を斧が通過していく。


 倒立しながら地面を腕で突き、空中で回転しながら、剣士から距離を取った。

 呪文はあと、数句で完成させられたのだが——。

 舌打ちをして、剣士を睨みつける。


 ——やはり、天賦をぶつけるしかないか……。

 声に出さずに呟いた時、奇妙な音が響いた。


 カタカタカタ……と、音が伝播するように、音がどんどん、大きくなっていく。

「な……なんの音だ……」


 そして、おれは気づいた。

 地下墳墓の、鉄格子の向こうに鎮座している骸骨が、音を鳴らしているのだ。


 ある者は、口蓋を動かし、ある者は腕を床に叩きつけ、ある者は組んだ脚を腕で打つ、というように。

 それから、おれは音と共に護の属性が急激に高まるのを感じた。

 波状に、吹きつけてくる。


 見えざる風のようなものが生じ、地下墳墓のなかを走り抜けていった。

 おれは、その風のなかに、攻撃的な意志が含まれているのを感じた。

 肌の上を、静電気のようなもので刺激される。


 おれの身体に、それ以上の害はなかったが、亡旗の剣士は違った。

 膝をつき、人には出せないような声で苦悶すると、斧と戦旗を手放した。

 護の魔力が、剣士の動きを封じているようだ。


「リン!」

「いいよっ」

 ふたりで、武器を手に、飛び出していく。


 おれは、“剣王の矜恃”で。

 リンは刀を鞘に収めたままで亡旗の剣士に迫り、居合抜きで斬りかかった。

 ふたり、同時に攻撃をする。


 技量など、何もない。

 力任せに、ただ、打撃を加えるだけの攻撃だ。


 手応えは、あった。

 剣士の鎧を切り裂き、金属を叩きつぶす感覚が、掌に走る。


 兜が落ち、それから、籠手や胸当て、胴鎧や具足などがばらばらになる。

 鎧の下から、黒い輪郭のはっきりしないものが現れた。


 そして、その黒いものは悲鳴のようなものを発するのと同時に千切れ、闇に同化するようにして、消えていった。

 あとには、亡旗の剣士の力の源泉となっていた、招魂殻が残されているだけだった。

 赤紫色の、アンバランスにカットされた石を、おれは床から拾い上げた。


 ストレージに収めると、地下墳墓を見渡した。

 もう、聖者たちの骸骨が音を鳴らすことはなかった。

 おれは、聖なる仕草を指先ですると、リンと共にまた、歩き出していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ