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心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ  作者: なりちかてる
序の章:孤狼は巣をつくらず(Sola lupo ne konstruas kavernon)
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第1話 追放前

「フィル。次の任務を終えたら、”旗を振るもの”からは抜けてもらう」

 デスクの向こうから、グレンが言った。


 重苦しい雰囲気が、部屋のなかに充ちていった。

 ——あぁ、ついにこの時が来たか……。

 何度、経験していても、この空気は嫌なものだ、とおれは思った。


 グレンは、おれと視線を合わせようとしなかった。

 執務用机の上に肘を突き、顔の前で指を組ませている。


「次の任務を終えたら、おれたち、”旗を振るもの”は次のステージへと進む」

 “旗を振るもの”の次のステージとやらの内容は、グレンから伝えられなくても、おれにはわかっていた。


「騎士団への昇格だ。遂に、念願の任官を中隊(スコードロン)のみんなが果たせるんだ。しかし——おまえの加護、『大地の加勢』はダンジョン探索やクエストには向いているものの、騎士団としては能力を充分に生かせまい」

 言い切られ、おれはわざとらしく、ため息をついた。


「しかし、ここまで、”旗を振るもの”が実力を発揮できたのは、おまえの貢献も大きい。だから、次の任務を終えたら、それなりのものを用意してある」

「……そうか」


挿絵(By みてみん)


 グレンの付き合いは、もう長いことになる。

 背の高さはおれのほうが少し高いが、体つきのほうはグレンのほうががっちりとしている。

 それは、グレンがいつも鍛えているからだ。

 おれは、力よりも素早さのほうに重きをおいているので、衰えなければそれでいい、程度に考えている。


 グレンはおれから見ても、なかなかのイケメンだ。

 その首筋まである金髪と、一見、思慮深そうな空色の瞳の色も、騎士への任官の時に多少、貢献したのかもしれない。

 対して、おれのほうは黒髪の地味な顔立ちをしている。

 瞳こそ、藍を薄くしたような色だが、あまりいい思い出がない。


「勘違いしないで欲しいのだが、これはおれ個人の意見ではない。”旗を振るもの”、全員の総意だ」

 おれは、背中に隠した拳を握った。

 ——総意と言っているが、全員が同じ意見ということではないだろう。


 おれは、事あるごとに、グレンとは対立してきた。

 対立——というか、グレンの計画や作戦には粗があるので、それを指摘してきたのだ。

 そして、おれのそうした指摘はほぼ、正しいものとなっていた。

 的外れなことを言ったことは、一度もない。


 “旗を振るもの”では、おれは新参メンバーだが、次第におれの意見はだんだんと重要視されつつあった。

 「軍師」「参謀」などと持ち上げるメンバーすらいるくらいだ。


 騎士団として昇格を果たしたのだって、おれの指摘で作戦の修正があってからこそ、ではないか。

 だからこそ、グレンは早いところ、おれを追い出したいのだろう。


 おれの加護——『大地の加勢』だが、地面が露出している場所では、かなりの効果を発揮する内容となっている。

 おれ自身が地面に脚を触れている限り、同じく、大地に触れている仲間の能力を底上げする、という能力だ。

 当然のことだが、地面が露出していない場所では、天恵として能力を発揮することは出来ない。

 しかも、効果を発揮できる人数も限られているので、戦場でもそれほど、有効とはならない、という中途半端な能力だった。


 ——そうか。このかび臭い中隊用の部屋も、今日限りか……。

 そう思うと、何だか切ない気分となってしまう。


「次の任務だが——アッシュウルフの討伐となる」

「アッシュウルフ?」


 アッシュウルフとは、銀色の毛並みを持つ、狼型の大型のモンスターだった。

 人の背丈ほどの体高があり、獰猛で俊敏。

 時々、人里に出現し、人間に対して集団で狩りを行う、やっかいな相手でもある。

 騎士でも、数人程度ならば、かなり苦戦させられる。


 アッシュウルフからは、良質な銀糸が収穫できるので、商人の間では人気があるのだが、その身体を覆う毛並みに含まれた銀糸のせいで、皮膚が硬く、生半可な武器ではダメージを与えることができない、というモンスターでもある。


「そうだ。ここから、トゥラン街道を南に行ったところ——コーヴェニアという町に、ウルフの群れが出没しているらしい」

「その依頼だが、どうしてもこなさないといけないのか?」

 口を挟んだことにより、グレンの顔にまたか……みたいな表情が浮かんだ。


「……あぁ。ケリオン傭兵領からの直接の依頼だからな。俺たちの戦いぶりを見たいらしい」

 ——やめておいたほうがいい……。

 言葉が出かかった。


 アッシュウルフの群れは、トゥラン街道に確かに出没しているが、それ以外にも危険なモンスターが潜んでいるからだ。

 そのモンスターについては、グレンたちも情報を得ていないのだろう。

 けど、それを言ったら、どうしておれが、そんなことを知っているのか、と疑われるのかもしれない。


 こういう時——何度も、正直に告げるべきだろうか、とおれは悩まされる。

 致命的な被害が出る前に、すべて話すべきではないか、と。

 しかし、話しても信じてもらえるとは限らないし、結局は未来を変えることは出来ないのだ。


 それから——おれは、中隊部屋を辞した。

 依頼については、最後だから同行する、と告げておいたが、失敗するのはもう、確定となるのだろう。

 これまで、ずいぶんと足掻いてきたが、運命が変わったことは一度もなかった。


 一階に降りると、おれは仲間のひとりにエレナがどこにいるのか、聞いてみた。

「エレナ? あぁ……三番隊なら、グレン中隊長に命じられて、今は別のクエストをこなしているはずだ」

 ——やっぱり、な。


 ここまでは、同じだ。

 “旗を振るもの”は、人数も増えてきているので、一番隊、二番隊……のように、いくつかのグループに分けられて、それぞれが独立したパーティとして、依頼をこなしたり、共同して参戦するなどしていた。

 因みに、一番隊はグレンで、二番隊はおれ、エレナは三番隊のリーダーだった。

 “旗を振るもの”への新規メンバーの参加はすべて、グレンが仕切っているので、おれがまったく知らない者が他の隊に加わっていることもある。


 エレナは……なかなか、気が合うというか、リーダー同士でクエストの結果を話し合ったり、作戦の内容を詰めたり、またはプライベートなことで相談し合ったりすることがある相手だ。

 おれの追放について、本気で反対する人物がいるとしたら、それはエレナぐらいだろう。


 そのエレナだが、アッシュウルフの討伐には参戦せず、その後の運命については、おれも把握していない。

 何しろ、おれはそのアッシュウルフの討伐に失敗し、死ぬことになっているのだから。


 翌日、グレンが号令をかけて、おれたちはコーヴェニアへと出発した。

 軍馬に乗っての移動なので、移動もそれほど苦にはならない。


 補給用の馬車も数両、同行しているので、ちょっとしたキャンプ気分だった。

 一見して、本当の騎士団ぐらいの規模なので、当然、野盗などが襲撃してくることもなく、道中に出現するモンスターだって、あっさりと倒してしまっていた。


 既に追放されることが決まっているからか、おれの二番隊のメンバーもあまり、話しかけてはこなかった。

 騎士団に取り入れられるのを蹴って、おれと一緒に……なんて、気概のある者はひとりだっていないみたいだ。

 逆に、おれはこのなかで一体、何人ぐらいが生き伸びることができるのだろう、などと心配してしまっていた。


 コーヴェニアは、かつてケリオン傭兵領の砦があった場所に作られた町だった。

 二重、三重の城壁に囲まれた町で、ザハロスカ川が町を挟み込むようにして流れていた。


 街道は町から、南のエルダース帝国へと続いているので、経済的にも重要な町となっている。

 人口も多く、領主はケリオン傭兵領で直接、任命された辺境伯が統治しているようだ。


 まず、町に到着すると、その辺境伯とグレンは挨拶をしたようだ。

 おれの出番はなかった。

 まぁ、交渉事はすべて、グレンに任せているので、それはいいだろう。


 翌日、おれたちはアッシュウルフの討伐へと出掛けることになった。

 町でそれなりに町民たちと接してみたが、新しい情報はあまり、なかった。

 というか、おれの記憶通り、ということでしかないのだけど。


 アッシュウルフは、町の北側に出没し、街道を中心に襲撃を繰り返しているようだ。

 商人たちも出入り出来ず、かなり困っている状況みたいだ。

 数日前には、壊された馬車や馬と人間たちの死体が発見されたらしい。

 かなり凄惨な死体だったみたいで、処理をしようとした時にもアッシュウルフが姿を現わしたので、そのままとなっているらしい。


 見せしめ、ということだろう。

 アッシュウルフたちは恐怖を与え、じわじわと追い詰めてから、町へ襲撃をかけるつもりなのかもしれない。

 というか、アッシュウルフはそんなに知性が回るモンスターではない。


 そのことに気づけば、もっと対処の仕方もあったと思うのだが。

 そして、おれたちはグレンの指示で、コーヴェニアを発つと、討伐を開始した。

フィルの画像を貼り付けました。

リンちゃんやエレナ、グレン、ソフィなどの画像もあるので、後程更新していきます。

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