誰も何も言わない
身内の会社で働いていた、高熱でも働いた、朝六時に家を出て次の日の昼前に帰宅することも多々あった、そんな時家はしんと静まり返っていた。
Netflixの音だけが邪魔にならない程度に流れている。
私は私がとても嫌いだ、■■の価値観に合わせられない自分が嫌いだ。
醜形恐怖症じゃないけれど、少し太ったと思ったら必死でダイエットをする、夜中まで運動をする。
せめて見た目ぐらいは辻褄を合わせたいから。
こんな風に考えている私はもっと嫌いだ。
病院で相談するともっと動きなさいと、毎回言われる。
こんなに必死で運動してるのに?
やっぱり嫌いだ。
自分が。
だんだん何を考えているのか曖昧になる、いっその事溶けてしまえればいいのに、私の身体は何でできているんだろう。
きっともっと無機質なものでできているはずだ、体温なんていらない。
趣味と呼べるほどのものがあまりない、アニメを見るのが唯一趣味と呼べるかもしれない。
後、酒と煙草。
これだけで他の時間を補完する、家の中で何が起こっていようと、何時間もベランダで過ごせるからだ。
スマホでアニメを見ながら煙草を吸って酒を呑む、これも私の日常だ。
髪を切るのは嫌い、他人に頭を触られるのは気持ち悪いから、だんだん■■に頭を触られるのも不快に思うようになってきた。
片付けは苦手だ、しなくていいなら一生したくない、必死でやっても家がいつも散らかっていると言われる。
何だかとても報われない気がして虚しくなる、報われないことは大人になるとどんどん増えるんだろうなあ。
真っ暗な闇の中を、大雨の中裸足で歩く、■■と一緒にいたくなかったから、喧嘩をするとよくこうなる。
裸足の足の裏に、排水溝に吸い込まれる大量の水と、じゃりじゃりした感覚がまとわりつく。
どうにでもなれと思って、どんどん知らない場所へ、闇の方へと歩いていく。
気づけば何時間かかけて、ただ一周していただけだと知らされる。
家に帰ると■■はいびきを書いて寝ていた。
あの日の桜を覚えている、満開の見事な桜の中を楽しそうに笑っている■■がいた、きっと私も楽しそうに笑っているんだろう。
一方的に冷えていくのはどっちだろう?
でも原因があるとしたら■■の方、それだけは間違いない。
初めてデートに行ったのは水族館だった、人混みの中そっと手を繋いで、くすぐったいような嬉しいような感覚に包まれた。
デートに行ったのはあれが最初で最後だったね。
そういう所もこの道に繋がっているんだろう。
自分では、結構なんでもできるほうだと思っていた。
何も出来ない人間扱いをされるのは、腹ただしかった。
けどいつの間にか、自分は何も出来ない人間なのだと思い込むようになっていた、じわじわと毎日気づかなかったように、思い込んでいた。
そう、私は無価値な人間なのだ。
夜が来た■■は睡眠薬でぐっすり眠っている、私はここぞとばかりに■■の身体をまさぐり始めた、■■が眉根を寄せる、
「やめて」声が聞こえて慌てて眠ったふりをする。
微睡んでいる■■をまた触り出す。
一度触ってるならやめて欲しいと懇願されたことがあるが、■■は私のものだ何が悪いのかさっぱりわからない。
ノイローゼになっている■■を見ても変わらない、私のものだからいいんだ。
今日もまたあの不快な時間が始まる。
身体中を撫で回される感覚だ。
嫌だ、
嫌だ。
僕たちは見ていた、■■がしていることを。
お風呂を覗いていることも。
身体を触っていることも。
それがとても良くないことは知っていた。
でも、やめろという勇気はなかった。
そっと足音を消して、部屋に戻った。
またいつもの朝が来た。
助けてくれる誰もいない、誰も何も言わない朝が来た。
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