目が覚める前
「あんたさ、生理的に無理」
彼女はそっと寝室のドアを開けた。
いつもと同じような朝が始まる。
ぼんやりと意識はあるのに、ここがいつもの場所かわからない。
無理に身体を起こそうとすると、血の気が引くような感覚がした。
夫は私を起こさないように静かに家を出ていく。
私はそのまま微睡んで、浅い眠りに落ちる。
同じような毎日の繰り返し、十一時頃に洗濯機を回す、はたきをかけて、拭き掃除をして、掃除機をかける。
洗濯物を取り込む時に、小さな靴下が片方だけ落ちた、何故かタオルが微かに湿っている……と思った途端ぶわっと背筋に鳥肌が立った、けれど気のせいだと思った。
お昼ご飯は食べない、面倒だから。
色々とあった用事をこなす、十五時頃になると買い物へ行く、安売りの商品から献立を考えて帰宅する。
夫はすごく偏食なので面倒くさい。
シャワーを浴びて、夕食を作る。
夫が帰ってくると夕食を食べる。
テレビを観たりしながら少し談笑する。
夫は眠るのが早いので、先に眠る。
これが私の日常だ。
私は持病があるので薬を飲んでいる、眠気が強く出る薬だ。
それと併せて睡眠導入剤と中途覚醒に効く薬を種類、導入は中々効かないが度眠れると微睡んだ状態で一、二回しか起きなくて済む。
夜寝ていると、身体中を触られているような気がすることが、頻繁にある。
初めは気のせいかと思っていたが、身体中、特に下半身を撫でられた感触は起きても残り、とてつもなく気持ちが悪い。
時々、ベッドの隅に誰かが座り込んでいる気がするが、ぼんやりした頭では夢かうつつか判然としなかった。
それが何か分からないまま、また眠りに落ちる。
夜中にほとんど無意識で、
「やめて」
と叫んだことが何回もある。
お風呂に入ると誰かが覗いている気配がする、私は極端に視力が悪いので、お風呂のすりガラス越しでは、よく見えない。
そうしているうちに夜になると膿んだ気分になり、落ち着かなくなるようになった。
けれど私は病気の負い目があって何も言えない。
だけど全てが嫌になる、睡眠に逃げられないことが大きいのだろう。
私は■■をとても愛している、今までの人生で出会った人の中で一番愛している、けれど■■は、私に内緒で親の借金を整理するために、自己破産していた。
きっと私のためだったのだろう。
そうでも思わなければ、納得がいかなかった。
■■は喧嘩をする時、躊躇なく殴る。
自分からの時もあれば、やり返す時もある。……結局喧嘩両成敗なのだ……腑には落ちないけれど。
休日はいつも不規則だ、休日と決定していた日でさえも、待機の日という名目で駆り出される。
せっかくの休日なのだからと一日中眠っていても、呼び出しで起こされることも多々ある。
給料は少ない、五百円が無くなっただけで大声で叫び回す程には少ない。
転職を考えたこともあるけど、面倒くさいことを悟られたくないから、■■には職場にはお世話になっているから、それでいいと言っている。
今日は休日。
久しぶりに■■と一緒に図書館に出かけた、図書館にいる間■■はとても楽しそうで幸せそうだ。
本人はいつも
「活字中毒だから」
と言っている。
その時、誰かが通りを見ているような気がした。
視線が背中に残っているような気がした。
普段の休日はどこにも行かないで、寝ていることが多い、寝て起きるといつも既に夜だ。
出かけていない日は汚れていないからお風呂には入らない、■■はそんな私を「不潔」だという。
仕方がないからお風呂には入ることにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
よろしければ★やコメントで応援していただけると励みになります。




