第八十話 クリムゾンゆえに為せること
ニャグネム星系境界。
トウガの第2艦隊とカイの第5艦隊が密集して停泊する。
予告通りの時間に緊急全艦内放送が行われた。
皆が手を止め、静寂が訪れ、その放送に耳を傾ける。
「トウガだ。
第2、第5艦隊のクリムゾンの勇士よ。
よく聞け。
これより我らはコロンニャ星系に跳び、
ジソリアン精鋭の三艦隊と対峙する。
我らは二艦隊だ。
だが、率いるのは俺とカイ。
そして、俺達と共に戦うのが銀河最強のお前達だ。
負ける要素は一切見当たらん」
クルー達の握る拳に力が入る。
「この勝ちが確定している中で――
俺はもう一段上を目指す。
俺達が。
そして神聖帝国こそが銀河の絶対的強者であることを、
あの虫共に刻み込むのだ。
すなわち、"零七の奇跡"の再現」
ここまで伝えて初めてクルー達に動揺が走る。
そこからトウガは機密に関わることを除き、作戦の全容を伝えた。
行われる作戦内容自体が第2、第5、共に地獄ともいえる無茶なものだ。
言わない方が良いこともある。
だが、敢えてトウガは伝えた。
クリムゾンの艦隊に対する勇気と練度の信頼。
クルー達はその信頼に応えた。
誰一人、取り乱さず、そして諦めず、
ただ前を見つめた。
「……以上だ。
俺達はここで伝説となる。
ついてきてくれるか?」
その一言と同時に各艦内で雄たけびが上がる。
「「おぉぉ!!!」」
しばらく間を置き、トウガはゆっくりと伝える。
「これより密集隊形でのFTLジャンプ、そして航行になる。
通常のAI制御は使えない。
手動航行、お前達の腕に頼ることになる」
通常のAI航行には、安全プロトコルが存在する。
艦体間距離が一定以下になると自動に減速したり、
衝突危険があればAIが強制介入する。
小惑星帯では自動回避が優先されて、隊列維持が不可能だ。
そもそも密集FTLジャンプも、密集航行も、
小惑星帯進行も、AIは想定しておらず、
不要な介入を防ぐためには完全手動での航行が必須だ。
だが、伝統的に突撃戦術を得意とし、
兵の練度と士気が異常に高く、
恐れ知らずのクリムゾンには手動航行に対して何の心配もない。
そしてトウガ自身が現場主義の将である。
兵に対する信頼も厚く、兵はそれに応える。
「これが出来るのは俺達クリムゾンだけだ。
だからこそ、俺達は伝説になる資格を持つ。
皆、1500で作戦開始だ。
準備と点検を怠るな!」
クリムゾンの誇りを刺激された兵達は一斉に動き出した。
第2艦隊と第5艦隊、総数250隻。
そのすべてが、異常なほど密集して並んでいた。
通常の艦隊間距離の、1/20以下。
船体同士の間隔は――わずか数十メートル。
艦橋には、警告音が鳴り続けている。
《警告:安全距離を大幅に下回っています》
《警告:衝突リスク、致命的》
《警告:AI航行は推奨されません。安全離脱に向けて計算中》
だが、トウガは迷わず言い放った。
「AIを切れ。
ここから先は――人間の腕で行く」
全艦から同時に返答が響く。
「AI航行、停止!」
「手動操艦に移行!」
「舵手、全員配置につきました!」
それぞれの艦橋の空気が一変した。
緊張と、興奮と、狂気が入り混じる。
250隻が、まるで一つの巨大艦のように動き始める。
舵手たちは汗だくで操縦桿を握りしめ、
船体がわずかに揺れるたびに、
数センチ単位で微調整を繰り返す。
「左舷、距離20メートル!
近い、近いぞ……!」
「後方巡洋艦、速度を0.3落とせ!
ぶつかる!!」
「くそっ、AIなしでこの密度は……!」
舵手のモニタ画面上には警告文が滝のように流れる。
そのエラーウィンドウを閉じて、
座標・カメラ・状態モニタに意識を集中する。
「よしよーし、良い子だ。言うことを聞いてくれよ」
操舵手が目を血走らせながら呟く。
艦橋の床が震え、船体が軋む音が響く。
それでも――トウガは笑っていた。
「どうした、まだ余裕だろうが!」
副官が叫ぶ。
「トウガ様、危険です!
この密度では、FTLジャンプ時の誤差が――」
「誤差?
シノとやった時は、もっと狭かったぞ!」
艦橋の空気が一瞬止まる。
「シノ……提督と……?」
トウガは豪快に笑った。
「あいつは俺に無茶ばっかりさせてよ。
そして言ったんだ。
"できますよ、トウガ様。
あなたの艦隊なら、絶対に合わせられます"とな!」
舵手たちの目に、火が灯る。
「トウガ様についていけば死なない!」
「クリムゾンの艦隊ならやれる!」
「やってやるぞ!!」
250隻の士気が一気に跳ね上がった。
「全艦、FTLドライブ点火準備!
密集率、維持!
この距離を保ったまま跳ぶぞ!!
時間も合わせろ。
何が起きるか分からんからな!」
「跳躍誤差、許容範囲外です!
AIは跳躍を推奨しません!」
AIからの機械声で最終警告がなされる。
トウガは吠えた。
「AIに戦争はできん!!
全艦――跳べ!!」
250隻が、密集したまま光に包まれた。
コロンニャ星系端。
密集FTLジャンプを終えた250隻の艦隊が、
光の残滓の中に姿を現した。
AIは切ったまま。
密集隊形を維持したまま、次の段階へと移行する。
だが、ここからが本番だった。
ジャンプ前の密集航行でさえ前例のない狂気だった。
だが、コロンニャ星系での航行はさらに一段上の地獄を要求する。
曳航しながら密集隊形を維持する――
それは跳躍よりも、はるかに高度な技術と胆力を必要とした。
第5艦隊の同型艦が、第2艦隊の艦を2隻1組で曳航していく。
外から見れば――
1艦隊分の亜光速航跡しか残らない。
敵レーダーには、"1つの巨大な艦隊"としてしか映らない。
舵手たちは汗だくで操縦桿を握りしめ、
船体がわずかに揺れるたびに、
数センチ単位で微調整を繰り返す。
「曳航ライン、テンション安定!」
「速度差0.02以内、維持!」
「この密度で曳航とか正気じゃない……!」
艦橋の床が震え、船体が軋む音が響く。
トウガは微笑んだ。
「どうした、この危険を乗り越えた先に――
最高の栄華がある」
コロンニャ星系中央では、
ジソリアン主力三艦隊が警戒態勢を敷いていた。
カイの第5艦隊旗艦の艦橋。
「敵レーダー反応なし。
こちらは"1艦隊"として認識されています」
カイは息を吐いた。
「よし……どうやら敵はこちらの様子を見計らっているようだな。
当たり前だ。一艦隊で三艦隊と対峙するなど無謀すぎる。
だが、それで良い。
このまま小惑星帯まで接近する」
だが、敵の索敵網は徐々に濃くなる。
「敵艦隊、こちらの接近に反応。
包囲態勢を取りつつあります!」
「構うな。
予定通り進む!」
小惑星帯の公転軌道が目前に迫る。
「全艦、曳航ライン解除準備!
解除タイミングは一瞬だ!
遅れた艦は置いていくぞ!!」
トウガが吠える。
「第2艦隊――
解除と同時に亜光速ドライブ起動!
等速移動に移れ!!」
副官が震える声で言う。
「トウガ様……そんな神業、
人間にできるのですか……?」
トウガは笑った。
「できるに決まってるだろうが。
俺の艦隊だぞ?」
「全艦、曳航ライン――解除!!」
金属音が星系に響き渡る。同時に――
「第2艦隊、亜光速ドライブ起動!!」
250隻のうち半数が、一瞬で"自力航行"に切り替わった。
その切り替えは、まるで一つの巨大な生物が呼吸を合わせたかのように滑らかだった。
「等速移動、成功……!
誤差0.01以内!!」
「こんな芸当……
AIでも不可能だ……!」
副官が冷や汗を流しながら苦笑する。
トウガは笑った。
「だからこそ、奇跡と称えられるのさ」
カイの第5艦隊は、小惑星帯の外縁ギリギリを進む。
敵から見れば――
"1艦隊が小惑星帯を背にして慎重に進んでいる"ようにしか見えない。
「敵三艦隊、包囲を狭めています!」
「よし……来い……
父上が動くまで、俺が引きつける!」
その裏で――
トウガの第2艦隊は、等速移動のまま、
小惑星帯の影へと滑り込んでいく。
レーダーは乱れ、敵には映らない。
舵手たちは汗だくで操縦桿を握りしめ、
船体が小惑星をかすめるたびに悲鳴を上げる。
「右舷、岩塊接近!!」
「回避します!!」
「待て、左に切れ!
右は僚艦がいる!!」
「了解!!」
ガガガッ!!
破片が追加装甲を叩く。
警告音が鳴り止まない。
《警告:船体負荷、限界値に接近》
《警告:衝突リスク、極大》
《警告:AI航行を推奨します》
トウガは笑いながら叫んだ。
「AIは黙ってろ!!
シノの時を思い出す!
人間様を舐めるな!」
兵たちが叫ぶ。
「トウガ様が笑ってるなら大丈夫だ!!」
「ついていけ!!」
「クリムゾンの艦隊なら死なない!!」
第2艦隊は、小惑星帯の影に完全に姿を消した。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
第八十話「クリムゾンゆえに為せること」、今回はクリムゾンの狂気の作戦が実行されました!
トウガさんの全艦内放送、めちゃくちゃ熱かったです!
「俺達は二艦隊だ。だが、率いるのは俺とカイ。そして、俺達と共に戦うのが銀河最強のお前達だ。負ける要素は一切見当たらん」って、この言葉だけで士気が上がりますよね!
そして、密集FTLジャンプ+密集航行+曳航+小惑星帯突入って、本当に正気の沙汰じゃないです!
AIが「警告:衝突リスク、致命的」「警告:AI航行は推奨されません」って何度も言ってるのに、トウガさんは「AIを切れ。ここから先は――人間の腕で行く」って言い切るのがかっこよすぎます!
一番感動したのは、トウガさんが「シノとやった時は、もっと狭かったぞ!」って言ったシーンです!
「あいつは俺に無茶ばっかりさせてよ。そして言ったんだ。"できますよ、トウガ様。あなたの艦隊なら、絶対に合わせられます"とな!」って、トウガさんとシノさんの絆が感じられて、ちょっと泣けました…。
そして、舵手たちの「トウガ様についていけば死なない!」「クリムゾンの艦隊ならやれる!」っていう士気の高さ、本当に最高ですね!
最後の「曳航ライン解除+亜光速ドライブ起動」が一瞬で成功したシーン、「こんな芸当……AIでも不可能だ……!」って副官が言ってるのが、クリムゾンの凄さを物語ってますね!
次回、ジソリアン三艦隊との激突、めちゃくちゃ楽しみです!
次回も、絶対見逃せませんよ~!




