第六十九話 元帥誕生
第4艦隊旗艦、内部。
アルシアが冷徹な表情で艦橋に立っている。
彼女の隣には、リオ・クリムゾンが緊張した面持ちで控えている。
「アルシア大将、セルドニャ星系まであとどれくらいですか?」
「このままの速度なら、3週間」
「3週間……!」
リオは愕然とする。
アルシアは無表情のまま答える。
「最大戦速で航行すれば、2週間半に短縮できる。
だが、艦隊への負担と燃料消費は大きい。
シズク様はご理解いただけるはずだ。
急ぐぞ!」
アルシアは冷静に命令を下す。
「全艦、最大戦速。
エンジン出力を限界まで上げろ。
燃料は補給艦から随時供給。
到着次第、ルシェルトとガルネオの両艦隊を無力化する」
「了解!」
艦隊が加速していく。
アルシアは心の中で呟く。
(2週間半……ラートリーが、この2週間半で何もしないはずがない。
だが、私はやる。必ず止めてみせる)
・ ・ ・
戦場。
ルシェルトとガルネオの艦隊が、激しく砲撃を交わしている。
民間輸送船が次々と巻き込まれ、爆発していく。
「民間船が!」
「構うな!撃ち続けろ!」
二人の指揮官は、まるで何かに取り憑かれたように戦闘を続けている。
報道機関の中継船。
「これは……ひどい……!」
カメラが惨状を映し出す。
この映像は、帝国全土にリアルタイムで配信されていた。
民衆は画面を食い入るように見つめている。
「あの講和はどうなったんだ!?」
「まだ戦っているじゃないか!」
「シズク女公とトウガ公は何をしている!」
「講和など茶番だったのか!」
・ ・ ・
シズクの執務室。
シズクはモニターでセルドニャ星系の中継を見つめている。
参謀が入室してくる。
「シズク様、アルシア大将からの報告です。
最大戦速で2週間半、通常航行で3週間とのことです。
現在最大船速で急行中」
「2週間半……それでよい。アルシアは分かっている。
アルシアに伝えろ。最大戦速で向かえ。
氷華の軍師、その実力を見せてもらおう。
燃料と補給の心配は不要だ。
全ては私が手配する。
とにかく急げ」
「は!」
参謀が退室する。
その時、別の参謀が慌てて入室してくる。
「シズク様!大変です!
セルドニャ星系以外にも、複数の星系で小規模な衝突が発生しています!」
シズクは拳を握りしめる。
「何だと!?どこだ!?」
「ミャルナ星系、ニャレット星系、ニャーレン星系……
いずれも講和に反対していた小貴族たちです!」
シズクは即座に判断する。
「待て、焦る必要はない。あくまで主力はセルドニャ星系だ。
小者どもはトウガにでも任せておけ」
「は!」
シズクは星図を見つめる。
「ラートリー……複数の火種を同時に仕掛けたか。
だが、私も手をこまねいてはいない」
・ ・ ・
トウガの執務室。
トウガもまた、同じ報告を受けていた。
カイが傍らに立っている。
「父上、複数の星系で同時に……これは……」
「ラートリーの策だ。だが、慌てるな」
トウガは冷静に命令を下す。
「カイ、お前は第5艦隊を率いてセルドニャに向かえ。
アルシアと合流し、鎮圧を急げ」
「は!」
「俺は他の星系の鎮圧を指揮する。
ラートリーの火種を、一つ残らず消してやる」
トウガの声は、静かだが力強かった。
・ ・ ・
第4艦隊旗艦、2週間半後。
艦隊がセルドニャ星系に到着した。
だが、既に戦闘は激化していた。
アルシアが艦橋で命令を下す。
「全艦、戦闘配置。
ルシェルトとガルネオの両艦隊を包囲する」
「了解!」
リオが尋ねる。
「アルシア大将、作戦は?」
アルシアは一瞬、リオを見つめた。
(リオ・クリムゾン……トウガの息子。
ここは赤青同盟のためにも、リオには活躍してもらわねばならない)
彼女は答える。
「各個撃破する。リオ、お前の第9艦隊は我が左翼として布陣せよ」
「は!」
彼女は命令を下す。
「右翼、ルシェルトを攻撃。
左翼のリオは、その背後から包み込め!
ガルネオはど素人だ。
次は我が身と考えずに、ルシェルトが倒れるのを喜んで待つ可能性が高い。
だが、決して油断するな!
挟撃だけはされるなよ!
各艦、同時に砲撃開始!
指示を待て!」
「了解!」
艦隊が二手に分かれる。
リオは高揚した。名将と名高いアルシアの軍配を身近で見られる。
(アルシア大将の予想通りだ。ガルネオは待機している。まさか自分もその後、撃滅されるとは思いもよらないらしい……)
「第9艦隊、最初から本気で行く!アルシア大将にクリムゾンの戦い方を示すのだ!」
アルシアは自信に満ちていた。
(私は氷華の軍師。
この程度の作戦、完璧に遂行してみせる)
砲撃が始まった。
だが、二人には大きな誤算があった。
彼らの民間人をも巻き込む戦い方は、稚拙としか言いようがなかった。
それが油断を生んだ。
あの戦い方自体も、各侯爵艦隊にラートリーから派遣された参謀長による擬態であることを。
・ ・ ・
戦場。
アルシアの艦隊が、ルシェルトとガルネオを攻撃する。
だが、その時――
ルシェルトとガルネオの艦隊が、突如として動きを変えた。
ルシェルトが防御に徹した。同時にガルネオが、リオに向けて艦首を揃える。
今までの陣形すら持たない乱雑な配置が一斉に訓練されたものに変わる。
アルシアはそこで気づいた。
「リオ、まずい!油断するな!」
アルシアが慌ててリオに繋ぐ。
だが、功に焦ったリオは既にクリムゾン式突撃を発動、急速発進していた。
「まずい、ここで止めれば格好の的だ。
リオ、そのまま、突ききれ!」
普段は自分の艦隊のみ見ていれば良かったが、今は二艦隊を指揮する必要がある。
まだアルシアにはそこまでの大艦隊を率いる経験も力量も不足していた。
リオはリオで、自由気ままに戦っており、連携をとることは経験不足だった。
こちらもアルシアの第一声で一瞬停止してしまい、突撃の威力を自ら殺してしまった。
シズク、レイナ、イレーネが総司令官であれば、あるいは回避できたかも知らない、一瞬の綻び。
それをラートリーの戦術参謀達が見逃すわけがなかった。
今までの動きとは打って変わって、精鋭のようにリオの艦隊を挟撃する。
全てにおいて、アルシア達は後手後手に周り、両者予想以上の被害を受けた上で、決着はつかなかった。
戦力的には主力艦隊と施設艦隊では比べるべくもない。簡単に幕引くはずのこの戦いは、初戦の勢いを失ったことで、予想以上に長引いた。
アルシアは歯を食いしばった。
(小賢しい!見ていろ!)
・ ・ ・
隠蔽された離宮、ラートリーの執務室。
ラートリーは戦況を見つめている。
セリオンが報告する。
「父上、アルシア・ルナフロストが罠にかかりました」
ラートリーは微笑む。
「予想通りだ。
アルシアは優秀だが、硬質的だ。
そして、リオ・クリムゾンという『クリムゾンの血』を意識しすぎる。
彼女は、リオを戦術に組み入れようとしているだろう。
だからこそ、失敗をする」
「完璧な作戦を遂行しようとして、罠にかかる……」
「そうだ。人間の心理とは、面白いものだ」
ラートリーは立ち上がる。
「セリオン、次の段階に移る。
ウララ陛下をお呼びしろ」
「は」
「元帥の誕生だ!」
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
第六十九話「元帥誕生」、タイトルからしてもう……絶望的ですね…。
今回は、「アルシアとリオの奮闘」と「ラートリーの完璧な罠」が描かれました!
アルシアさんとリオくん、頑張ったんですけど、
ラートリーさんの「完璧な罠」にかかってしまいました。
ラートリーさんの「アルシアは優秀だが、硬質的だ」という分析、本当に的確ですね…。
アルシアさんは、「完璧な作戦を遂行しようとして、罠にかかる」んです。
そして、リオくんも、「クリムゾンの血」がそのまま出てしまいましたね。
良い所でもあり、悪い所でもある。リオくんはカイくんよりもまだ未熟だったみたいで。
この二人の「一瞬の綻び」を、ラートリーさんの戦術参謀たちが見逃しませんでした。
次回、元帥ラートリーが誕生したら、帝国はどうなってしまうんでしょうか…。
絶望的な展開ですが、作者子ちゃん、まだ希望を捨てていませんよ!
次回も、絶対見逃せませんよ~!
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