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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第七章 律の継承、崩れゆく均衡

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第百五話 皇配への意趣返し

「……ゲラルド伯爵を?」


「ああ」


シズクは星系図の表示を切り替えた。

今度はゲラルド伯爵領が赤く染まった。


「セリオンはリュシェール家だけを反逆者に仕立て上げた。

 ならば、こちらもゲラルド家を罪人に仕立て上げればよい」


「しかし、ゲラルド伯爵は皇配殿下の陣営です。

 簡単には手を出せないのでは?」


「そのために私がいる」


シズクは机の上に置かれた資料を取り上げた。


「ゲラルド家の罪状は、私が法的に用意する」


「……罪状を?」


「違法な私兵動員、領地紛争の扇動、軍需物資の不正取得。

 調べれば使える材料はいくらでもある。

 足りなければ補えばよい。


 ……たとえ作ってでもな」


カイは思わずシズクを見つめた。


「……証拠を捏造するということですか?」


「必要ならばな」


シズクは表情を変えなかった。


「内務大臣である私の権限で調査を進め、ゲラルド伯爵家の罪状を正式に認定させる」


「…………」


「その後、トウガが軍務大臣の権限で追加討伐令を発令する」


カイはシズクの狙いを理解した。


内務省が罪を確定させる。

軍務省が討伐令を出す。

帝国の行政と軍事を司る二つの省庁が連携すれば、セリオン派のゲラルド伯爵家であっても、正規の手続きによって討伐対象にできる。


「……しかし、皇配殿下が介入してくるのでは?」


「当然だろうな」


シズクは頷いた。


「だが、皇配といえども、正式に罪が確定した者を公然と庇うことはできん」


「では……」


「問題は時間だ」


シズクはカイを見据えた。


「セリオンは必ず妨害してくる。

 ゲラルド家の罪状を取り消させるか、討伐命令を撤回させようとするだろう」


「……はい」


「だから、奴に時間を与えてはならん」


シズクは星系図の二つの伯爵領を指差した。


「リュシェール家への討伐命令が下った後、お前たちの作戦進行に合わせて、私がゲラルド家の罪を確定させる。

 トウガは間髪を入れず、追加討伐令を出す」


「…………」


「お前は追加討伐令を受けたら、直ちにゲラルド家にも対応しろ」


カイは表示された星系図を見つめた。


リュシェール伯爵領。

ゲラルド伯爵領。

二つの領地は隣接している。


だが、両家とも独自の私兵艦隊を保有し、防衛拠点を築いている。

一方を攻めれば、もう一方には準備する時間が生まれる。

しかも、セリオンが事態を知れば、必ず政治的な妨害を仕掛けてくる。


「……相当な速さが必要になりますね」


「ああ」


シズクは頷いた。


「セリオンが対抗する前に、両伯爵家を制圧しろ。

 領地を接収し、私兵艦隊を武装解除させる。

 両家の当主も逃がすな」


「……承知しました」


「セリオンが結果を知った時には、全て終わっている。

 それが理想だ」


カイは大きく息を吐いた。


「……随分と難しい任務ですね」


それまで黙って話を聞いていたイレーネが、カイの耳元へ顔を寄せた。


「カイさん~」


「うわっ! だから近い!」


「大丈夫ですよぉ」


「何がだ!?」


「その作戦、私に考えがありますぅ」


カイはイレーネを見た。


「……考え?」


「はいぃ。両方まとめて片付ける方法ですぅ」


「そんなことができるのか?」


イレーネはにっこり笑った。


「できますよぉ」


シズクもイレーネへ目を向けた。


「ほう。イレーネ、子細は聞かぬ。

 カイと上手くやれ」


シズクの口元にも笑みが浮かんだ。


「よし。詳しい作戦は二人で詰めろ」


「はっ!」


「承知しましたぁ」


シズクは二人を見比べた。

そして、カイへ告げた。


「カイ。今回の任務は、単なる反乱討伐ではない」


「……はい」


「セリオンへの警告だ」


シズクは二つの伯爵領を見据えた。


「我らに余計な手出しをすれば、相応の代償を払うことになる。

 そのことを思い知らせてやれ。


 あ奴はラートリーとは違う。

 己が小物に過ぎんことを思い知らせてやる」


カイは姿勢を正した。


「承知しました。

 第5艦隊、必ず任務を遂行いたします」


「お前たちならできるだろう?」


「もちろんですぅ」


イレーネは笑った。


「カイさんと一緒なら、何とかなりますよぉ」


カイは思わずイレーネを見た。

その口調は相変わらずだった。

だが、メクト戦役でシズクに代わって大軍を指揮した名将が、今は自分の参謀長として隣にいる。


カイはその心強さを感じながら、星系図へ視線を戻した。


「……よし。リーナ中将、作戦を聞かせてもらおう」


「はいぃ、カイ提督ぅ」


イレーネはカイの耳元へ顔を寄せた。


「まずですねぇ――」


「だから、近いって」


そのやり取りを見ていたシズクが、呆れたようにため息をついた。


「全く……お前たちは。

 失敗は許さぬぞ」


「「はい!」」


二人は揃って返事をした。


シズクは頷き、帰り支度を始めた。

だが、ふと思い出したように手元の端末を操作する。


「そういえば、イレーネ」


「はいぃ?」


「先日、技術科学庁から興味深い研究報告が上がってきた」


「研究報告ですかぁ?」


「ああ。お前は以前、FTL戦術論の論文を書いていたな?」


「はいぃ。随分前のものですけどぉ」


「それなら興味があるだろう。

 先月発表されたばかりの論文だ。

 読んでおけ」


シズクは一つの資料をイレーネの端末へ転送した。


「ありがとうございますぅ。

 後で読ませていただきますねぇ」


「ああ」


「あれ?シズク様、これって技術論文ですよぉ?」


「そうだ」


「私の専門とは少し違いますけどぉ」


「知識を増やして損はあるまい」


「それはそうですねぇ。

 ありがとうございますぅ」


シズクはそれ以上、何も説明しなかった。

そして、二人に軽く手を上げると、そのまま執務室を出ていった。


・ ・ ・


シズクが去った後、カイはしばらく扉を眺めていた。


「……行ってしまったな」


「そうですねぇ」


「作戦の詳細も聞かずに帰っていったぞ」


カイはイレーネへ顔を向けた。


「……まさか、俺たちは女公から相当信頼されているのか?」


イレーネはきょとんとした顔をした。


「えぇ? 今さらですかぁ?」


「今さらって……」


「シズク様はですねぇ、任せられると思った仕事は、全部丸投げするんですよぉ」


「……丸投げ?」


「そうですぅ。

 大まかな方針だけ決めて、後は全部こっちに任せちゃうんですぅ」


イレーネは困ったように笑った。


「そのせいで、私がどれほど苦労させられたことかぁ……」


「…………」


「しかもぉ、失敗したら怒るんですよぉ。

 だったら最初からもう少し説明してほしいですぅ」


カイは思わず苦笑した。


「……そうか」


イレーネは肩をすくめた。


「まあ、シズク様らしいですけどねぇ」


カイは改めて、先ほどまでシズクが立っていた場所を見た。

帝国の内務大臣が、皇配への報復という重大な任務を二人に託し、具体的な作戦も聞かずに帰っていった。


(そこまで信用してもらっているのか……)


「……期待に応えなければならんな」


「はいぃ」


イレーネはにっこり笑った。


「ではぁ、作戦会議を始めましょうかぁ」


「そうだな。まずはお前の考えを聞かせてくれ」


「分かりましたぁ」


イレーネは再びカイの耳元へ顔を寄せた。


「まずですねぇ――」


「……だから、近いって」

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


さて、今回はシズクさんの反撃です!


セリオン君が法律を使ってリュシェール伯爵を反逆者に仕立て上げたので、シズクさんも同じ方法でゲラルド伯爵を罪人にしちゃおう!というお話です。


しかも、証拠が足りなければ作っちゃう!


ひえぇぇ!怖い!


これが頭脳SS級サイコパスのやり方です!


でも、法律だけでは勝てません。

セリオン君が邪魔する前に、両方の伯爵家を一気に制圧する必要があります。


そこで登場するのが、カイ君とイレーネさん!

イレーネさん、何やら作戦があるみたいですね!


……ところでシズクさん。

作戦も聞かずに帰っちゃいました!

え? 信頼してるから?


いえいえ、イレーネさんによると、単なる丸投げ体質だそうです(笑)。

しかも失敗すると怒る!

うわぁ……こんな上司、嫌だなぁ……。


そして最後に、謎の技術論文!

シズクさんがわざわざイレーネさんに渡したということは、何か意味があるんでしょうか?

それとも、本当にただの丸投げ……じゃなくて、おすすめ論文?

作者子ちゃん、気になります!


次回もお楽しみに!

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