第4章5 実戦に勝る訓練なし
チーム・リッドの副将シオウと、相手チームの大将ブルックルンの試合が始まって20秒が経過した。
「このっ、このっ、くぬぉおぉぉっ!!」
ブルックルンの意地になった声が周囲に響き渡る。
繰り出される彼の攻撃をシオウはヒラリと舞うようなステップと、澱みなき綺麗な身動きでもって全てを回避し続けていた。
開始からここまでミュースィルはもちろん、相手チームのメンバーも、審判達でさえもその動きから目を離す事ができず、黙して観戦し続ける。
「どうした、魔法は使ってこないのか?」
「ぜぇ、ぜぇ、う、うるさいっ、このっ!!」
言葉をかわす余裕さえあるシオウに対し、ブルックルンは完全に息を切らしていた。彼とてそれなりに自信があるからこそ、自身をリーダーとしたチームを作っての大会参戦。
だが繰り出す攻撃の全てをこうも簡単に避けられ続けられては、その自信もしぼんでゆく。
学園に入る前の時点でも武器術の家庭教師から、あらゆる近接武器の扱いにおいて及第点をもらっていた。入学後も貴族のボンボンと舐められないよう、学業はもちろんの事、戦技も汗臭い努力を真面目に重ねて磨き続けてきた。
だからブルックルンは己には確かな実力があると、強者とまでは言えずとも相応に戦える者だと信じていた。
「くそう、くそうっ」
だがそれが通用しない。自分の努力が、力がまったく相手に当たらない。疲労か精神的なショックか、ブルックルンの動きは粗さが目立ち始める。
そんな相手の、精細を欠きはじめた動きを見るや否やシオウは、やれやれとこぼしつつ、杖を持った腕に僅かながら力を入れた。
「最後の最後にとっとく気なら、止めといた方がいいぞ? 賭けは確実に勝てる内に仕掛けるべきで、いざって時にとっとくのは悪手だ……ほれ」
ゴツッ!
「あぐっ?! し、しまっ…ぐは!!」
バシッ、ビシッ、コン、ベシッ!
1撃1撃はけっして強いものではない。だがシオウはこれまで通りに相手の攻撃をかわしながら、すれ違いざまに次々と木杖による打撃を加えてゆく。
これで時間切れの判定にもち込めばシオウの勝ち。
ブルックルンはまだ試合時間半分を残しながら追い詰められた。
「うぐ…く、くそおっ」
「(ふむ、気のせいだったか? もっと注意が必要かと思ったんだが…)」
試合前、シオウはブルックルンに勝利するためには、とにかく魔法に警戒がいると直感で感じていた。ところが相手は、その魔法を使ってくる気配がまるでない。
早い段階で撃たせて、たとえ直撃を貰おうともその全貌を明らかにした上で対応するつもりでいたのが完全にアテが外れた。
《アナタの予感が外れた事なんてないでしょ、油断はダメヨ》
「(わかってる。緩んではいない)」
守護聖獣に言われるまでもない。
…が、相手がこの試合で何らかの理由で魔法を使わない、もしくは使えないのであれば、不明瞭な影を気にしすぎるのもよろしくない。
「じゃ、これならどうだ?」
バサァ
「!? くっ、おま…スカートをっ」
制服のスカートは外付けで簡単に着脱可能だ。
基本は男女とも長袖長ズボン、外したところで下にはズボンを履いている。スカートは防寒用くらいの意味しかない。
しかし、ただでさえ防具の類を一切着用せずに挑んでいるシオウには、スカートとて貴重な防具のはずだとブルックルンは無意識のうちに思い込み、まさか自分から外して手放してくるとは考えていなかっただけに、虚をつかれて覆いかぶさった布の下で慌てふためく。
だがシオウの認識は違う。スカートを着用していたのはあくまで内側にモノを入れて持ち運ぶに便利である事、そして足運びを隠せるという戦略上の利点から愛用していたにすぎない。
だから外して相手に投げ被せるなど、手放すに躊躇いはない。
ドゴンッ!!
『ぐぶっ!?』
ゴッゴッ、ドンッ!!
『おぐっ、おふっ、こ、こらやめ…』
ドシッドシッ、ゴンッ!
『痛っ、痛いって、やめろっこらぁっ!!』
まさに袋叩き状態。シオウは自分のスカートを被ってもがいているブルックルンを杖で一方的に殴りまくる。
審判達も、勝負は決まったなといった様子で見ている。
ここからブルックルンが勝つためには、シオウを気絶でもさせるくらいの一撃をお見舞いするか、場外までぶっ飛ばして直接勝ちを拾うしかない。
「ほら、どーするよ? このまま判定負けする気か?」
『……ふっ、ふふっ、ふっふっふ…そこまで言うならいいだろう。使ってやろうじゃないかっ、お望みどおりになっ!!』
「(さて、どんなもんか?)」
正直なところシオウはこの試合で、まだ自分が勝つべきか負けるべきかを決めあぐねていた。
ワザと負けを選択する事も考慮して、後続のミュースィルのためにも相手の力の全貌を丸裸にしておこうというのが、相手を煽って全てを出し尽くさせようとする理由だ。
もちろん、現時点では6:4くらいで勝ちを拾いに行く気持ちではいる。だが、いまだにワザと負けてもいいかもしれない、という選択もなかなかに捨てがたい。いかにお飾りの大将でも、参加選手である以上はミュースィルにも試合を経験させておくに越したことはないだろうと思うからだ。
ブルックルンの魔法が、どの程度のものかを知ってから、ミュースィルの手に負える程度であればワザと負け、そうでないなら自分が勝って終える事にするかなど、ぼんやりと考えながら、相手の動きを待つ。
「……~~っ、<アクア・フロー>!」
ブルックルンを中心に水が巻き上がり出した。その範囲は徐々に広くなり、やがてシオウの立ち位置にもかかりはじめる。
「水を巻き上げる魔法……、それで終わりじゃないな?」
上昇する水の勢いに押されて、スカートが水浸しになりながら空へと持ち上がっていく。その下から姿を見せたブルックルンは、短いステッキを持った手を高らかと挙げて、ニィッと口元に笑みを浮かべた。
「もちろんここからが本番だ、……~~、~、っ<フォール&スプレッド>!!」
ドバババババッ!!
「! 雨、しかしただの水弾幕でもないか…とりあえず直撃は避けるとして」
それまで優雅で流麗な動きしかしてこなかったシオウが、鋭く早い直線的な動きでもって降り注ぐ水弾をかわす。
が、地面に着弾した途端に水弾は大きくはじけて炸裂し、シオウの全身を下から容赦なく濡らしてゆく。
「はっはっは! どうだっ。たとえ水弾をかわしても、はじける水飛沫はかわしきれまい!! そしてぇっ、これで終わりだ! ~~…~…~~……っっ、……~~…っ、~~っっ、<ファイア・スプレッド>ォッ!!!」
ゴォォォッ!!
長めの呪文詠唱の後、直径80cm大の火球がシオウめがけて飛ばされた。弾速はほどほどで、普段のシオウなら見てからでも軽くかわせるだろう。しかし…
「なるほど、水魔法の攻撃ははなから濡らすためか」
「そうだ! そこまでズブ濡れでは制服が重くなって動きずらかろうっ、そしてこいつは絶対にかわせないのだ!!」
すでにシオウにかわす気はない。なぜなら相手の呪文詠唱や発動キーである呪文名から、どのような攻撃魔法で相手にどんな狙いがあるのかも理解し、回避行動は無意味と判断しているからだ。
迫りくる火球はさきほどの水弾と同じく着弾と同時に炸裂するだろう。しかしその威力は大きく上がっているはずだ。
「(狙いはダメージを与える事と、あわよくば場外へと吹っ飛ばして勝つため……といったところだな)」
なのでシオウはその場にとどまる。動こうとはしない。
変にかわそうとすると踏ん張りがきかない体勢で炸裂の衝撃を受けてしまい、それこそ相手の望み通り場外へと吹っ飛ばされる。
ダメージ覚悟で火球を受け止め―――――
ドォッ!! ボォンッ!!!!
大爆発。
それは見ていた誰もの想定より、大きな爆発だった。
闘技場の上ほぼ全体に一瞬で炎が広がり、煙と化して覆う。発した衝撃と突風が闘技場のすぐ傍で試合を見守っていた者達に浴びせかかり、ミュースィルも髪を流されながらその場で堪えていた。
「……っ、シオウ様っ…?!」
闘技場の中心あたりシオウのいた場所に、彼女が急いで視線を戻すも、爆発の煙が濃く立ち込めていてまだその姿は見えない。
やや外側に位置していたブルックルンが先に、煙の中よりその姿を現す。
「はっはっは! げほっげほっ、驚いたかシオウっ! ぜーぜー…火球の中にこっそり爆発魔法を仕込んでおくというこの高等技術! とっておきを使ってやったんだ、ありがたく思えよっ、おごっ、ごほっ、がほっ…ぜー、はー、ぜー…はー…」
術者であるブルックルンが、絶え絶えの呼吸と共に両肩を上下させている。相当に無理をしたようで、その場から一歩も動けずに両脚もガクガクさせていた。
全身疲労、なれどその表情には、勝利を確信した笑みを浮かべる。
しかし、薄まった煙の先、小柄な対戦者は堂々とそのシルエットを場の全員に示した。
「何が高等技術だ、詠唱の文言でバレバレだよ。…それで、頑なに魔法を使おうとしなかったのは、魔力と体力をゴッソリ持っていかれるからか。下手な魔法を使って少しでも魔力を消耗したら使えなくなる奥の手か。さすがに効率悪くないか?」
ケロっとした様子で姿をみせるシオウ。あの爆発を真正面から受けたとは思えないほど、ダメージらしいダメージを負った様子はない。
「な…な、なんで無傷なんだよお前はっ!!?」
「いや、無傷じゃないぞ? ほれこことかこことか、焦げてる」
指でちょいちょいとさした制服の複数個所が確かに焦げていた。…注目しないとわからない程度に、だが。
「…ホッ。シオウ様ご無事でなによりです、心配いたしました」
安堵するミュースィル。と同時に疑問が湧く。どうやってあの爆発を凌いだのか?
爆心地から遠い、闘技場の横にいたミュースィルでさえ、飛ばされてしまいそうな突風に晒されたあの攻撃を、ほぼその場から移動する事なくシオウは耐え抜いている。
その不思議の答えは、他でもない本人の口から明かされた。
「魔法には魔法、ってほど難しい話じゃないが……。さっきの魔法攻撃のコンボは、水魔法を入れずに火魔法で統一すべきだったな」
「な、なんだと??」
「お前の最初の水魔法による攻撃、あれで水浸しになったのを利用した。ゼロから水系の防護魔法を張るには間に合わないが、そこらにまき散らされたやつとか俺の全身を濡らした水分とか、水をコントロールする簡単な魔法なら十分間に合う」
つまりは、相手の水攻撃を利用して魔法で水の防御を張って爆発と炎を凌いでいたという事。
無傷の理由を知り、ブルックルンは悔し気に奇声を上げるその一瞬、すかさずシオウが至近距離へと迫る。
「あっ!?」
「工夫して頑張ったんだろうが…あれじゃダメだな」
ニッコリとダメだし。そして――――――
ドンッ!!!
ヘトヘトで指一本動かせなくなっていたブルックルンを突き飛ばす。
自身にかかる爆発の余波を軽くしようと距離をあけていた上に、実際に浴びた爆風のせいもあって彼の位置は闘技場の外周部付近にあった。しかもヘロヘロ状態では当然踏ん張りなどきくわけもない。
小柄なシオウでも場外へと叩き出すのは至極容易であった。
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「すごいです、シオウ様! 大変お強くて驚きました」
闘技場から下りてきたシオウを、ミュースィルは少し興奮気味にニコニコしながら出迎える。
「まぁ、そうはいっても基本逃げ回るばかりで、こっちから仕掛けたのは最後の突き飛ばしだけだけどな。リッドやスィルカ達と比べれば大した事ないよ。それより悪いなミュー、出番がなくてつまらないだろ?」
「いいえ、チームの勝利の方が大事な事ですから。これで3勝2引き分け、本選への出場も叶うかもしれませんし、皆さんお喜びになりますよ、きっと」
言いながらミュースィルは、本心ではちょっぴり安堵していた。
シオウに簡単な魔法の手ほどきをしてもらい、ある程度は戦い方も分かってきて、少しは自信を持ちはした。
それでもやはり戦技の類には、拭いきれない苦手意識がある。
そこにきて、先ほどのような威力の高い魔法と、それに耐え凌いで見せるというシオウの試合を見せられては、むしろ自分に番が回ってこなかった事は、気持ち的にもミュースィルにとって幸いであった。
「予選の成績上は本選出場圏内とは思うが……後は他チームの成績がどうなるか次第だな、とりあえず皆と合流しよう」
「はいっ。……あのシオウ様、お聞きしても良いでしょうか?」
「んー?」
預けていた荷物を受け取りながら歩き出すシオウに並んで、ミュースィルは少しだけ神妙な面持ちで切り出す。
「その、あんな大きな攻撃魔法、シオウ様のように咄嗟に防御するにはどうすればいいのでしょう?? どうしてシオウ様は、咄嗟にあんな事ができるのですか?」
それは後学のためだった。
予選を通過し、本選に出る事になれば予選よりも強いチームとの試合が待ち受けている。そうなれば、さすがにミュースィルにも出番は回ってくるかもしれない。
少しでもチームに貢献するためには、彼女にしても勝利を目指すための努力は必要だ。いつまでも苦手だと逃げてはいられなかった。
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか。シオウは少し考えてから、口を開く。
「俺が咄嗟に対処できたのは実戦経験があるからだな」
「実戦経験、ですか?」
「そ。……。……旅をして生きてきたからな、当然危険な状況や相手に出くわした事も両手じゃ数えきれない。時に怪我をし、時に命の危険に晒され…そういったシチュエーションにしたって、常に同じなわけじゃあないから対処対応の仕方も千差万別だ」
そう言ってシオウは片手を軽く上げて人差し指をたて、自分達の進行方向を指し示した。
「歩く先は未知。安全な街中や自分の家の中みたいに知り尽くした場所じゃあない。1歩先で何が起こるかもわからない。そんなのが当たり前でいると、経験から対処の仕方が身体に染み付く」
「身体に……染み付く?」
今度は前を指し示していた指を、自分の胸元に当てた。
「考える事なく身体が動くようになる……要は “ 慣れ ” だな。その “ 慣れ ” が学術でいうところの基礎となって、そんな基礎が広く深くなっていくほど、経験のない物事に遭遇しても、応用的に対処できるようになっていく。もちろんその過程で命を落とす奴も世の中にはたくさんいるがな」
そう言って胸元に当てていた指を引っ込めて握り拳を作り、パァンと呟きながら開く。ハートブレイク、死を示すジェスチャーだ。
「…とても恐ろしいです」
「だな。そんな恐ろしい経験を乗り越えるほど、深く強い経験となって自分の中で生きるのも事実……もっとも、そんな危険に遭わずに生きられるならそれに越したことはない。平穏無事こそ一番の贅沢だ」
そういうとシオウはニッと笑った。かと思えば直後、その姿をミュースィルの前から消して――――
ムニッ
「きゃっ!? し、シオウ様??」
「まー、あんまり深刻に考えるな。とにかく実戦に勝る訓練はないって事。どーこー考えたところでミューが今からそれを得るのは難しいし、無理して得る必要もない」
「ですが……」
「最も簡単で効果的な方法がある。余計を考えずに、リラックスする事だ。今の自分を100%発揮できればそれで十分だよ」
ミュースィルの胸の下に潜り込んで谷間を頭頂部で、彼女の左右の山を両手でムニムニと押し上げる。
「もー、シオウ様ったら!」
セクハラではない。単なるお茶目だと彼女もわかっている。だから怒るような言葉を発してはいても、その口調も表情も笑っていた。
ミュースィルが気負う必要は何もない。もとよりお飾りの大将なのは周囲も本人も承知の上でのオーダーだ。
不思議と全身軽くなった気がする。もちろん重い胸を支えてもらってるから、という事ではなく。
そんな風にシオウと掛け合いつつ、目的の更衣室まで辿り着く頃には、ミュースィルの気持ちはすっかり楽になっていた。
……が、そんなミュースィルとは逆に、更衣室ではもう一人のお姫さまが気が気でない状況に置かれていた。
「あ、ミュー姉様! …どうしたらいいと思いますこの状況?」
更衣室のドアを開けて数秒、スィルカが困り果てたように助けを求めてくる。
まだ着替え終わっていないようで、ミュースィルが巻いてあげたタオルを羽織るような感じで両手で抑え持っている姿。
その隣では、なんとか場をおさめるための努力をしようとしてか、かける言葉とタイミングに迷ってアワアワしているノヴィンもいた。
「……ええと、リッドさん。何かしたのでしょうか?」
来たばかりで状況がまるで飲み込めない二人。
分かるのは皆が前で、リッドと彼を睨んで対面している女子が問題の当事者であるという事くらいだ。
「あー…ノヴィンさんと一緒にウチを更衣室まで連れてってくれたまでは良かったんですけど、中に誰かいるか確認せんとドア開けてしもたんですー」
それを聞いたシオウが、ははーんと何かを察した。
「あれか…青春ものの小説とかにたまにある、ラッキースケベな事を現実でやらかしたのか、リッドの奴?」
実際、対峙している二人の様子をよくよく観察してみれば、それは容易に想像がついた。
相手の女子は、スィルカ同様にタオルを巻き付けて身体を隠してはいるが、彼女の傍の机の上には彼女のものと思しき真新しいブラが置かれている。汚れや傷が一切ない事からも、アレに着替えようとしていたのだろう。
そこにタイミングよくドアを開け、いろいろと拝んでしまったというわけだ。
リッドは対応に困ったという感じで、女子の方は顔を真っ赤にして憤りを露わにしている二人の様子からも、まず間違いないだろう。
「まぁ、それは……さすがによろしくないですね」
10:0でリッドの完全有罪だ。貴族子息も通う学園にあっては、異性に肌を見られる事をこの世の終わりが如く嫌がる女子生徒も少なからずいる事を想像すれば、軽率に過ぎた行動だ。
「ん? あの女子…確か……」
いつかの時、いつもの庭で壁の向こうに隠れてこちらを伺っていた、特徴的な髪型の女子と同一人物だと、シオウは気付く。
「ええ、ウチの友人ですー。彼女もチーム・エステランタの一員として大会に出てたらしいんですけども、試合で汚れたんで着替えにきてたらしいんですよー」
エイリー=スアラ。
チーム・エステランタの先鋒をつとめる女子生徒だ。
この更衣室は、予選出場の女子全員が用いている。なので他の女子が中にいても当然、不思議ではない。
「むしろ中にいたのが一人でよかったな。もっといたらリッドの奴、大会どころじゃなくなってたぞ」
「クスッ、本当ですね」
「あ、シオウ先輩、助けてください! 僕にはこの二人の仲裁はとても無理ですっ」
無理というか、仲裁など不可能だろう。
何せエイリーは今しがたやってきたシオウ達にも気づいていないほど、リッドにくってかかってる程の怒り心頭具合だ。
そもそも友人であるスィルカが場に居合わせている中でコレなのだから、他の誰がなだめてみても焼け石に水だろう。むしろ下手をすれば火に油を注ぎ、自分に飛び火しかねない。
「リッドにはラッキースケベの代償を支払う義務があるんだ、相手の怒りが収まるまで仲裁は不要。ノヴィン、まぁ気にせずこっち来い。本選に向けて今は気を抜いとくのも重要だぞ」
一気にやる気が失せ、自分の荷物から食べ物を取り出して口に咥えると、シオウは完全なる傍観モードへの移行を終えた。




