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第18話 外伝 新たなる光

ゆりゆりさんハイ!

 入間恵は黒刻町のヤクザである。

五代目彩雲会若頭入間組組長

それが彼女の肩書。

「姐さん、着きましたよ」

「よし、行こうか」




2000年5月15日22時6分中国料理店「景雲」

 この日は敵対している橋本組との内密の会合である。

 この町の実質的な治安維持組織である入間組としては最近他所からやってきてなんの断りも無しに薬物を売り捌いたり違法運営の店等を出している橋本組は邪魔な存在の為、ぶっちゃけ出ていってほしい。

 ていうか潰したい・・・のだが力づくは彼女のポリシーに反する。

「自らの安全を自らの力によって守る意思を持たない場合、いかなる国家といえども、独立と平和を期待することはできない・・・か」

「?なんでマキャベリ?」

「なぜ武器を取るのか・・・」

「?自分達の平和を守る為だと・・・」

「自分達、とは・・・」

「黒刻町の人間達です」

「バッチリ答えてくれてありがとう〜♡ご褒美のチュー!」

「はいはい大事な会合なんですから、気張っていってくださいよっ」

「も〜麗奈ちゃんは真面目なんだからー、あんまり真面目にやりすぎるとかえって逆効果なんだから」

「そうですかねー・・・」

これが入間恵の本性。幹部の柳瀬麗奈の前ではデレデレであるが他の組員の前ではツンとしたクールビューティーを演じている。












 

 今日もまた夜が更ける。

 一見元気いっぱい笑顔に見える入間組長だが心の中では得も言われぬ不安でいっぱいであった。彼女は今回の会合について100%罠だと考えている。そもそも会合を開く上でのアポイントメントが組の事務所にではなく自分の家に連絡が来ていた事が引っ掛かる。柳瀬麗奈には確実に罠だと既に忠告されている。だが

『いやいや姐さん、こんなのどう考えても罠でしょう!』

『でも本当だったら?向こうも平和を望んでいたとしたら?』

『そんなやつらが黒刻町で不逞なんて働きませんて!』

『そんな現状を変えたい勢力もいるかもしれない』

『それでも貴女が行くことはないでしょ!』

『誠意だよっ!』

『このドテカボチャ!』

『なんだとボケナス!』

『なにをっ!』

『なによっ!』


























暫くして

『はあっはあっ、分かりました。その代わり、絶対アタシ着いていきますから。一人でなんて行かせられない』

『いつも、わ、がままっ、聞いてくれてっ、ありがとう』

『幹部連中には伝えておきますから』

『うん、任せた。20時に車回して』

部屋に通されたらズドンとか全然考えられる。その為に麗奈を今回のお供に選んだわけなのだが・・・。



































同日22時25分。三ツ島遊廓浜風屋正門。

 一人の若者が顔を出していた。

「こんばんは、栄太夫いますか」




 中森始。国立川内大学法学部二年生。先日、この店の一番人気で黒刻町ナンバーワン遊女である栄太夫を悪漢から救い一躍町中に顔が知れ渡っていた。

 当時初めて黒刻町に来た始はそれ以降栄太夫と客引きの串田ヒロムに度々呼ばれ、三人で仲良く飲む仲になっていた。しかも殆どタダ同然。その状況を始としてはあまりよく思っていなく、初めて呑みに誘われたとき

『いやいや、大してお金持ってるわけじゃないんだから流石に悪いよ、太夫は億稼ぐ人間だよ?今の俺にはとてもとても・・・』

『いや、それが太夫たってのご希望でなぁ、おめえさんとだったら金とかそんなの関係なしで一緒に呑みたいって言うんだよぉ。ねえ太夫』

『ええ、そうですとも。始さんは私らの命の恩人ですからせめてものお礼にお代とか関係なしに私らと遊んで欲しいんです。そうじゃないと私の気が済みませんし。もちろん串田、貴方も一緒よ?貴方があの時始さんに声をかけたお陰で私らの命は助かったんですから』

『えぇ!?あっしも一緒にですかぁ?いやいやいやあっしぁ中森の旦那に声かけさせてもろうた、ただそれだけですからぁ。一緒になんて・・・ねえ?』

『いいからいいから、始さんも!串田も!ね?』

『いやいやいやいや、遊ぶならちゃんとお金は払うし、そもそもこんなたっけえところで遊ぶお金なんてまだ持ててないし、そもそもそもそもお返しが欲しくて助けたわけじゃない!』

云々。


 それなりの押し問答があった末結局栄太夫の命で傷の癒えたあの時の用心棒たちにより強引に店に上げられ気付けばしっぽり呑んでいた始であった。

 当然というのもおかしいが料金も無く、以降なんだかんだ理由をつけて店に呼ばれて呑むようになっていた。

 支払い金額に関しては店に来て三回目に

『流石に一銭も払わないのはマズイでしょ』

『なーんもマズイ事あらしませんよ?私、つい一昨日楼主になったんです。だからなーんもマズくない』

『ろうしゅ』

『ええそう。だってアタシ自分の時間が欲しいんやし、家族には十分なお金送ってるし、店の子も応援してくれてるし、前楼主の震電屋久光もお目付け役として暫く店の運営してくれるし、私も太夫を事実上引退しよっかなって。懐もだいぶ暖かくなったしね』

『じゃあ店には出ないの?』

『そうね、ご新規さんにはもう付かなくなるかな。昔からの馴染みのお客様だけお相手させていただきますよって。だから、お代もアタシが決めますよ。はいこれお勘定』

『やっと払わせてくれるのか・・・』

その時出された伝票を始は今でも忘れない。120万円と最初に書かれ、その上から二本の訂正線が引かれ下矢印の先に1万円と書かれていたのである。

『ふざけんじゃないよ!どうやったら120万から1万円に金額が下がるんだ、内訳教えろ内訳ぇっ!!』

『始さん内訳言えって、それは野暮言うもんですよ野暮。言え言うんなら言いますけど、アタシの接待代に70万、お酒代に20万、指名料に30万。そこからアタシの始さんへの愛情でマイナス129万♡』

『オーナーを呼べ!』

『はーいオーナーでーす!』

『そうだった!』












 この黒刻町で一番の美人と呼ばれている栄太夫と1万円で一緒に呑んでいるなんて・・・口が裂けても言えるわけがない。

 なので出来るだけ傍若無人にではない少し控えめに謙虚に、しかし堂々といつも町を歩いている始であった。



いつも通り・・・うーん・・・串田が店の前で出迎えてくれた。

「よう!中森の旦那ぁ、最近よく来るなぁ!さっ、上がった上がったぁ!」

「そっちが呼ぶからだろうが・・・言っとくけど今日はちゃんと払うからな!他のお客様に出してるような伝票持ってきてよ!」

「私はいつもちゃんとした伝票出してますよっ」

「おっ、これはこれは太夫」

「あれのどこがちゃんとした伝票だよっ!!!手持ち以上だったらローン組んできっちり払い切ってやる!」





























同日23時ちょうど。再び中国料理店「景雲」。

「やはりそういう感じだったか」

「ええ、ですのでこの事は時が来るまで内密に・・・」

どうやら秘密の会合は終わった。中々大きな情報を掴みかなりご満悦な入間恵組長。だがまだ表情は張り詰めている。

「よければ一杯呑んでいかれませんか」

相手はこう言った。正直まだ戦いは終わっていない感が否めなかったが、情報を貰ったお礼という意味で馳走になるのも悪くはないか・・・?

「ええ、いいですよ」

「お付きの方もよければ」

「いや、柳瀬はまだ仕事中ですので」

「姐さん。毒味しますよ」

テーブルの上に老酒とグラスが並べられる。綺麗な色をした酒がグラスに注がれ、それぞれの前に置かれる。

「ささ、組長さんどうぞどうぞ」

「ええ、では・・・」














ジーーーーーーーーーーーッ。




気がつけばその場にいる全員が入間の口元に注目していた。





















「・・・」

「どうしたの柳瀬」

「姐さんそれ臭い」

急に柳瀬が言った。

「?老酒はこんな匂いだよ?」

「そういうことじゃなくて・・・ねえ今お酒注いでくれたそこのお兄さん」

急に呼ばれた店員と思われる男を柳瀬は呼んだ。

「はいっ、なんでございましょうか」

「これ、呑んで」

なんと麗奈は入間に出されたグラスをボーイに差し出す。

「なにかお気に召されませんでしたか?これは本場中国から取り寄せた最高級の・・・」

「へー高そうだね。いいよ、呑んで」

「いやいや、それはお客様に注がれた杯ですので・・・」

「その客が良いって言ってんのよ。ほら呑んで」

「・・・・・・」

「なに?この店の店員は客から出された飲み物を断るって言うの?いつからそんな愛想悪い店になったわけ?」

「どうしたの麗奈ちゃん、まさか」

「そっかー店員さんは呑まないか・・・じゃあ、はい。そこの後ろにいる人、呑んで」

麗奈は入間の正面に座っている交渉人の後ろに控えている男を指名した。どうやら交渉人の護衛らしい。












が、次の瞬間、先程の店員が声を出す

「あ!わ、私が、呑みます」

「あ、そう。素直に呑めば良いのにね。はいドーゾ」















 グラスを受け取った男はグラスをゆっくり口に近づけた。


 心なしかかなり緊張しているように見える。


 気付けばまた全員が彼の口元に注目している。






「どうしたの。さっさと呑んだら」

「麗奈ちゃん、あんまりお酒を無理に勧めるのは・・・」

「姐さんはちょっと黙ってて」

「」















グラスを口につけた。




そして一気に飲干す。







ゴクン








「ふーっ美味しゅうございました。ごちそうさまでした」

「いい飲みっぷりだったよ、ありがとう」

「では・・・」

「どこいくの?」

「あ、ちょっとこの老酒強いですね。少し酔い醒ましに・・・」

「そう、ありがと。無理させてごめんね、これ少ないけどとっといて」

麗奈はチップを男にわたす。1万円。

「あ、ありがとうございます。では・・・」

「あ、足りない?ごめんねーちょっと待ってね。しかたないからもう少し弾んだげる」

「あ、あの・・・」

「いやいやいやいや、遠慮しないで」

「ですから・・・」










 徐々に男の顔が青ざめていく。




 まるで病人のように。




 橋本組側の人間の顔にも脂汗が滲み始めた。





「大丈夫?顔色悪いよ。お姉さんたち怖い?」

「い、いえ、そん、なことは・・・」

「まあまあ、大丈夫だって。私は怖くないから」

「え、ええ・・・」

「あ、さっきのチップね」

「・・・?」














「三途の川の、渡し賃♡」



















「もう無理っ」




 ブッシャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!男は穴という穴から血を噴出した。目からも血の涙を流し、全身を痙攣させながら前のめりに倒れる。

「姐さんっ」

「麗奈伏せて!」

入間恵の早撃ちにより瞬く間に正面の敵を全員撃ち殺した。

「ほらやっぱり罠だったでしょ。しっかしこいつ汚いな〜、全身の体液全部出てる」

「麗奈ちゃーーーーーーーーーーん!!!!!守ってくれてありがとう♡♡♡♡♡やっぱり持つべきものは麗奈ちゃんだねーーーーーーーーーーっっっっっっ♡♡♡♡♡♡」

「だーっ、抱きつくな姐さんーーーーっっ!!ほら足音聞こえる!追手追手!!!」






















同日23時半。三ツ島遊廓浜風屋十五階甲部屋。

「なんか外が騒がしいな」

「黒刻町ですから、騒がしいなんて日常茶飯事ですよ」

「そうなんだー・・・ちょっと栄太夫。どこ触ってんの」

「んー、お気になさらずにー・・・」

「ちょ、そこは駄目・・・」

「お代は発生しませんから・・・たまには・・・ね♡」

「いや、それ以上はお代発生しないと駄目でしょうがああああ」

「もう何回来てると思ってるんですかっ。この町一番の女掴まえといてっ、そろそろ据え膳食べてくださいな〜」

「ちょっ、くっ、串田さんんんん!!!?俺の貞操がああああ?」

「串田は今日は早上がり。明日から京都に奥さんと旅行よ」

「タイミングううううう!!!!!」












ドッカアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!!

突如として爆発音。それと同時に二人とは反対側の壁に穴が開き

「「!!!?」」












「麗奈生きてる!!?」

「なんとか・・・」

血だらけの女が血だらけの女を抱きかかえて部屋に入ってきた。






















「貴女は・・・」

「あれっ、貴女はもしかしなくても栄太夫?すっごーい近くで見ても凄い別嬪♡はじめまして、入間恵です。入間組の組長やってます♡こっちのちょっと死にかけてるのは部下の柳瀬麗奈ちゃんです、以後お見知りおきを♡」

「貴女が入間恵・・・」

「太夫この人は・・・」

「五代目彩雲会若頭入間組組長、入間恵さん。この黒刻町の顔役の一人です」

「いやーっ顔役は栄太夫貴女でしょ!あ、ごめんねお兄さん、よろしくやってる時に悪いね!ちょっとあたしらドンパチの最中なんだわ。すぐ出てくから、お邪魔したね!」

そう言って二人が部屋から出ていこうとした瞬間、始が二人を呼び止める。

「入間組長とやら。よければ一緒に「この部屋」で飲みませんか」

「始さん!?」

「いやいや悪いよお兄さん。堅気のアンタを巻き込むわけにはいかないよ」

「もう巻き込まれてるよ貴女がこの部屋に入ってきた時点で。それに、貴女もお連れもなかなかヤバそうじゃない?」

「格好つけてるつもり?おもむろに刀なんか持ち出しちゃって・・・」

そう言って入間は始に銃を向ける。










「始さん!」

「黒刻町に楽しみに来てるんだろ?この町のお客様を守るのがあたしらの役目さ。いいから大人しくしてな。アンタが出張る必要はない、ここはあたしらに任せ・・・」










突如、始が刀を抜いた。


松森は反応して引き金を弾いてしまう。




弾丸が始の頬を掠めた。

















が




始が抜刀したのは松森を斬る為ではない。










松森を狙った弾丸を弾くために抜刀したのだった。














「アンタ・・・」




「始さん・・・」










「栄太夫。入間組長を頼めるか?」

「・・・!はいっ、任せてください!!」

遂に始に恩を返せる!みたいな顔をしている栄太夫を尻目に、始は外にいる外敵に斬り込んでいく。













 外敵は隣の建物の屋根から小銃をぶっぱなしている。その高さおよそ二十メートル、敵との距離約十メートル。









 その間合いを脚力と跳躍力で詰める。

「嘘・・・なにあれ」

その驚きの運動能力に入間は驚愕の顔を見せる。

















「豪華絢爛っっ・・・」

AK-47を2丁分の一斉射撃を防ぎ切り、そのまま峰打ちで相手二人を打ち倒す。

「一撃怒涛っ!」

「・・・!!!」





 反対側の建物から始が叫ぶ。

「組長さぁん!これだけですかぁ!?」

入間は思わず

「・・・いや、あとドス持ちが三人居たと・・・あ」

ドタドタドタドタ。廊下を人が走る音。女の悲鳴。












追手が我々の方に向かってくる。





始もそれに気づいたようで




「今そっち戻りますねぇ!!」

と返し、さっきと同じように今いる建物から元の部屋に返ってきた。








「よっ・・・と」

「・・・な、なんなのアンタ・・・」

入間が言い終わった瞬間追手の男が部屋を開けた。

響く怒声。

「五月蝿い」




始はそう呟き、一瞬で距離を詰め






「疾風一閃」






瞬く間に三人を仕留める。

















「申し遅れた入間組長。私の名前は中森始。さ、一杯やりましょう・・・あ、その前に怪我の手当てを」

「ポカーン」






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