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第12話 外伝 必殺拳!嵐を呼ぶ少年

潰す


それだけだ。

アイツが我が井坂流を離れて13年か・・・



ついぞ誰も討ち取れんかったか



実戦武道の道を歩む我々が



今や日本最強の我々が



だがこのままでは終われぬ



ヤツを倒さぬ限り我々は最強ではない



重い腰を上げるとしようか・・・




さあ、始。

戦おうか。

















1998年4月30日












「ヘックシ」


「ゴールデンウィークなのに」


「・・・明日からな」


「私をほっぽってずっと車弄るつもり!?」


「彩希子だってずっと話作りするつもりだったんじゃないのかよ!」


「今年のゴールデンウィークは特別なんだよ!?今年ほどなーんにも無い平凡な連休なんて今まであったぁ!?」


「・・・!そういえば」





 私の名前は富永彩希子。私立湯海高等学校三年生で生徒会副会長。

 一緒に言いあらs・・・喋っているのは中森始クン。同じく三年生で生徒会会長で私の彼氏。


 聞いてよみんな!この男ったら私っていう彼女がいるのにゴールデンウィークなにするんだって聞いたらずーっと車遊びするんだって!私!私をほったらかして!

 始クンが言ってる私が話作りがウンタラカンタラっていうのはね、私小説家目指してるんだけど、今度大きめの賞があってそれに応募するためのお話を今書いてるんだけど・・・いやその前に久し振りに彼氏と遠出したいよ!!!

 ホントにね!?こんなにやることない連休何年振りなんだっていうくらい久し振りなの!この三年間ずーっと忙しかったんだから!粗方片付いて私達のやることもだいぶやり尽くしたんだから!


「なんか・・・どっか行こう!」


「・・・どこ行きたいんだよ」


「・・・どこって・・・」










 そういえば。私どこ行きたいんだろ。


 普通の女子高生ってゴールデンウィークみたいな短い連休ってなにするんだろう・・・。


「・・・始」


「俺?」


「始クンの家に行きたいなぁ!?」


「良いよ」


 よし。

 始クンの家は山の頂上にあって、裏には湖もあるちょっとした避暑地なのだ。わざわざ軽井沢みたいな別荘地なんて行かなくて良いくらい。


「でも俺ん家なら結局車触るぞ」


「駄目。私の我が儘聞いてくれなきゃヤダ。我が儘聞き終わってから車弄りしなさい」


「えー」


「えーじゃない!手始めに・・・」


「?」


「私を家まで送りなさい!」


「ハイハイ、いつも通りねー」

















「お前が中森始か」


「・・・?何者だ?」


「?」


 聞いたことのない声が私達に投げ掛けられた。人懐っこい声・・・でありながら内に秘める怒気と憎しみが感じ取れた。


 見回しても特に人は見当たらない。

 目で探すな、と。









心で・・・。




















ブンッ。









 咄嗟に一撃、始クンの後頭部に目掛けてそれは弾きだされた。

 既のところでかわす。























 男の子だった。





















「・・・あ?」


「中森始・・・いざ尋常に勝負」


 小学生時代に何度も何度も彼に投げ掛けられた言葉。

 唯の子供の喧嘩じゃない。あの真っ向勝負の日々が甦る。





小太刀の真剣を構えて突撃してくる少年。

胸、右手、脛へのフェイント。




その後、逆袈裟斬りの構え。























その逆袈裟斬りが放たれようとされているその両手を右足で止める。

文字通り止める。













「くっ・・・!」


「良いスピードと当て勘だ」


「!」









「だがまぁ・・・初撃を当てられなかった時点でお前の負けだ」


「なにっ」


「最初の一撃で相手を圧倒しないと・・・」


「五月蝿いっ」


止められてる両手をいなして右足の延髄切り。

これを素直に受け止める始クン。

あんまり効いてなさそう、良かった。

背後に回る少年。


後、下半身に向けて突撃しながら膝に一文字斬り。

それを









バク宙で躱す始クン。









切り返して着地したところを左逆袈裟斬り。


それをまたバク転で始クンは躱した。

袈裟斬り。

バックステップで躱し、少年の顔面スレスレに蹴りを入れる。




怯んで倒れる少年、の顔の横を思い切り踏みつける始クン。


パァンッ!という音がした。













「あんまり子供にこういうことはしたくないんだが」


「・・・!」


「お前殺す気で来ただろう。いかんなあ、青少年がそんな殺気を見せちゃあ!」


 ジロリと少年の顔を睨み付ける始クン。右手に持っていた小太刀を払い除ける。


「彩希子、刀なんとかしてくれ。鞘もどっかに落ちてるだろう」


「分かった」


 もう子どもと思っていないのだろう。自分に派遣された刺客にしか見えていないようだ。


 茂みに落ちてた鞘を見つけ出し刀を納める。よく研がれている。必殺の気概が感じ取れた。















「センセイは元気か?」


「元気だよ・・・あんたを倒したがってる。まるで呪いにかけられたように」


「お前は誰だ?」


「井坂涼馬。井坂深青朗の息子だよ」










































ついにこの話をしなければならない。


やっと。


やっと。


やっと。






やっと話せる。やっと明かす事ができる。私はもう嬉しくて仕方がない。




なぜ中森始はこんなにも強いのか。


ある時は世界的な秘密結社に怯みもせず立ち向かい


またある時は凶器を振り回す輩を軽くいなし


またまたある時は60年間封印されていた廃屋の謎を解き明かし


そしてこの先多数の大男達を一撃でノックアウトする事になるこの男は




なぜこの強さを手に入れたのか。





































 井坂流拳法。

 その手の古武術としては古い歴史を持ち、現当主の井坂深青朗は25代目に当たる。

 「今あるもので戦う」を基本概念とし、徒手空拳を基本戦術とし、刀や棒、弓を初め多種多様な武器を使用する。




 始は三歳の時に入門した。早々深青朗に挑みかかり軽くいなされた。

 何度も何度も向かっていくが倒され転ばされ遊ばれた。

 その強さに始は憧れた。








 体を想像通りに動かせる才能が始にあることを見抜いた深青朗は特別目を掛けた。


 基本的な体術は1ヶ月くらいで出来るようになり、打撃は確実に芯を捉え兄弟子たちは始のミット打ちを嫌がるようになった。


 半年後には小学生に混じってスパーリングをし始めた。


 打撃に飽きたからと次は投げ技。それに飽きると関節技。身長もそこそこ大きかったので四歳になる頃には年上相手に技を極められるようになった。


 深青朗は始に教える事が楽しくなっていき、独断で剣術、棒術、半棒術、弓道に中国武術、レスリング、世界中の武術を始は習得し、挙げ句の果てに射撃まで教覚えた。


 スポンジのように技術を吸収し、五歳の時には筆頭門下生となった。


 やがて深青朗以外に始に勝てる者はいなくなった。















 始が筆頭門下生になった暫く後、道場破りが現れた。


 他流試合で井坂流に敗れた他の流派の古武術使いだった。どうも嫌がらせだったらしい。毎日違う人間が現れた。来る日も来る日も深青朗は戦い続けた。全然違う相手と毎日戦う。弟子の目もあるから必死に勝ち続けた。

 その無敗の噂は広まり続け、カテゴリの違うボクサーや剣道家、相撲取りまで。勘違いしたチンピラまでやってきた。

 勝手に流派の名前をかけて挑んで来た者もいたが一蹴した後持ってきていた看板ごと外に放り出した。



 優しいセンセイがみるみるうちに追い詰められた狼のようになっていった。

 それを一番身近に感じていたのは始だった。



























 ある時子どもの道場破りが現れた。そこそこ身長が大きい12歳くらいの男子。深青朗との試合を要求した。

 話にならんと深青朗は始に勝てば試合をやってやると言った。
















 果たして始は相手を圧倒した。立ち上がる度に転ばせ、まるで初めて深青朗に挑んだ時の自分自身のように赤子扱いだった。























ふと





深青朗は考えた。








 今の内に若い芽を潰しておくべきなのではないかと。

 さすればいつかは戦いの日々から解放されるのではないかと。今の内にそういう手合いを潰しておけばいつか自分に挑んで来る者はいなくなるのではないかと。


















もう戦いたくない、その一心で















深青朗は言った。


















「始」


「はい?」




































「とどめをさせ」


「・・・?」



















「それは違うでしょう」


そう言って始は井坂流を辞めた。


































 それから始は親を相手に自分を磨き続けた。両親共に持てる全てを始に注ぎこんだ。

父、正からは体術を。母、美和からは戦術を。


 そして彩希子を通じて大切なモノを守る術を。






























全ては世界一の武術家となるために。

























 井坂道場は始を裏切り者と見なした。足抜けをしたとして他の門下生は始が辞めた次の日から彼に襲撃をかけ始めた。

 1人、若しくは誰か二人といる時を狙って。サシでは絶対に挑まない。最低三人で襲いかかる。


 最初は道場の組み手と違う1対多の戦いに戸惑いを見せた始だが徐々に慣れて行き、段々と「この現代で対多数との戦闘経験を積めるのは結構ラッキーなのでは?」とかなんとか考え始め、練習感覚で相手をしていた。

徒手空拳で戦う事に飽き始めた始は小学校入学と同時に2本の棒を携え戦い始める。後に一族が所有する山で取れた鉄で製作した戦棍「ライトニング」へとアップグレードし、今日でも使用し続けている。

































しかし


10歳の頃湾岸戦争勃発。


 そこから可視化される中東方面の大混乱。行き場の無い難民たち。終わることの無い暴力。















世界は平和ではない。















15の時に誓った。

彼らをなんとかしたい、と。



















「中森始は倒すべき敵、憎むべき相手である」


「そう教えられてきたんだな」


「そうだよ。父上にそう教わったんだ。兄弟子たちにもそう教わったんだ。お前を倒せばこの流派を自分のモノに出来る、と」


「ふーん」










「その先になにがある」


「名誉と栄光」


「アホらし、相手にする価値もねえ」


「待てよ。まだ負けてないぞ」


「お前らのレベルに合わせてたら俺まで駄目になる」


「なんだと」


「戦い続けたその先に明確なビジョンが見えているのなら戦い続ければ良い、俺もまだその道の途中だしな。だがな、何も見えてないヤツを相手にできるほど、生憎俺はそこまで暇じゃない」


「待てよ!」


「行こうぜ彩希子。お泊まりの準備しなくちゃな」


「うおおおおおおおおおお」


「あぁしつこい」















ゲシッ





























井坂道場


「・・・」


一人胡座を組む男性。

井坂深青朗その人である。



ガララ

入り口が開く。稽古の時間にはまだ早いのだが。







「たのもう」



もうその台詞は聞き飽きた。











だが























「お前の顔がまた見られるとはね」




















「始」


「センセイもお変わりないようで」

















「大きくなった」



「13年振りですから」




「もうそんなに経つのか」






















「さて。それではお前がひっつかんでいるそのボロボロの布切れみたいなのは」








「センセイのご子息であらせられる。よくぞご立派に教育なされた」






















「まだ駄目だったか」























「そう思っている内は永遠に駄目でしょう」






























「こいつがこうなったのも、どうやら俺が一翼を担っているみたいだ。そろそろ責任とりましょうか」














「また後日お伺いします」








「待ってるよ」























「首を洗って、待っていてください」





































「始」


「アレを止められるのは、俺だけらしい」


「出来るよ、君なら」


「やらなきゃいけないんだな。俺が」



























5月5日


中森家

「父様、母様」


「おう?なんだ始」


「改まってどうしたの」




















「井坂流とのケリ、つけてくる」


「「・・・」」


「どうなるか分からん」


「お前が取らなきゃいけない責任じゃあねえだろうが」


「センセイのご子息を知ってるかい。あれは俺へのキリングマシーンだ。今世においてあのような人間がいてはならん」


「憎しみ・・・が見えた、と?」


「ああなったのは俺がいたからというのもあるし。放っといても良いと言えば良いけど責任を感じるわけで」


「バカ野郎が全く」


「でも」


「うん。行ってきます」


「早く帰ってこい」



























「母さん」


「なんでしょう」


「もし無事に帰ってきたらアレを始に渡す」


「分かりました」


「今の世にはいらない物だし、俺も放っといたんだが。どうやら託さねばなるまい」

















「私もついてきて良かったの?」


「彩希子だって「お世話に」なってるだろ。縁はあるんだし、その縁も今日で決着をつける」


「そっ・・・か」





























「ありがとね、色々。今まで守ってくれて」


「ありがとな、今まで一緒に戦ってくれて」

















「今日で終いだ」



























久し振りに着る道着と袴だった。























「センセイ」


「やはり似合うな。お前ほど似合うやつはおらん」
















「よござんすか」


「いつでもかかってきなさい」









「いざっ」






































道場の玄関入口に彩希子は立っていた。





誰一人この玄関を通さない。その気概だった。













昔の教え子と試合をしている、という噂はどこからか門下生に届いたらしい。


「そこの女!何者だ!ここが井坂流の道場と知っての所業か!!」


駆けつけた門下生が見るなり私に怒鳴った。



「ええもちろん!惚れた男の一世一代の勝負の日なんだ。誰にも邪魔はさせないよっ!!!」


「小癪な!」


「女に手を上げるとは井坂流も墜ちたものね。もっとも昔から墜ちてたか?」






















「このアマっ、許せんっ」


「やっちまえっ!!!」




















「静かにしろよ阿保どもが」





「!?」
































「どいつもこいつも、まるで反省してねえのな。いつまでたっても頭の中は小学生で」

















「始クン・・・」


「お待たせ、彩希子。帰ろ」






















「・・・もう、良いの?」


「ああ、もう良いんだ」


「そうなんだ・・・うん、帰ろっか」


「おらおら!どけどけどけ!帰るんだから」





「中森っ!てめえ、師匠の次は我々が相手だっ!!」
















「ほほう?」



















「誰が俺の相手してくれるって?」












「良いとも。但し・・・」



















「明日も無事にお天道さん見たくねえやつだけにしときな・・・ね」


「うぬぅっ・・・」



















「わっ、始クンこんなに怪我して!」


「あー良かったあの阿保どもが退いてくれて。今やったらヤバい」










「世話かけるな・・・」


「わー今更―」











「こんなこったろうと思ったぜ」


「お義父様!?」


「父様・・・」


「こんなんじゃハンドルも握れんわな。母さん!レガシィのドア開けてくれ!」


「ハイハイ。彩希子ちゃん!後席に始乗せて!」


「はい!」


「俺がZに乗って帰ろう」





























後日

「井坂流、廃業したんだって」


「あんまり過激すぎたしな、まあでも・・・」








「だいぶマシになった」


「・・・」








「始、入るぞ。やあ彩希子ちゃん、いらっしゃい」


「お義父様がお留守番ってのもお珍しいですね」


「ま、たまにはな」


「なんだよ父様。自慢の息子が彼女連れてきてるんだから、邪魔しようっての?」


「ちょっと来い。彩希子ちゃんも」


「なんだよ」


「受け継ぐ物がある」


「「?」」















「陽炎谷黒馬」


「刀?これどっかで・・・」


「お前が倉から引っ張りだしてきた物だろ」


「そうだ、俺が見つけたんだ」


「まあその時の話はまた作者が書くとして・・・ご存知中森家に代々伝わる刀だ」


「私初めて見るー」


「言い伝えではこの屋敷があるこの山の何処かで採れるという伝説の金属「ヒヒイロノカネ」で出来ているという・・・」


「ヒヒイロノカネ、俺知ってるよ。何処で採れるか」































「なんと?」


「俺のライトニングもヒヒイロノカネで作った」


「わしそれ聞いてない」


「言ってねーもん」


「・・・」





















「とっ、とにかく。この刀お前にやる」


「えっ、殺傷武器なんていらないんだけど」


「誰も持ち歩けなんて言ってないだろ。受け継ぐんだよ、この刀と中森家の当主っていう立場を」


「なんだよ当主って」


「お前ももう成人。わしは引退する。これからは、お前が中心となって中森家を動かすのだ」













「つまりどういうことだ?」


「始クンが家長になるんだよ」


「中森家をどうするか。お前が決めるんだ」


「今から?」


「そうだ」


「俺・・・もう中森家当主?」


「おうとも」


「じゃあ・・・当主として言うね?親父」


「親父!!?急に言われるとビックリするな・・・なんだ」


「親父摂政ね」


「なにぃ!摂政だと!!!?」


「俺家離れてやりたいことあるんだ。ロバートとの約束もあるしね」


「そ、そうか・・・」


「まあでもその当主ってのは拝命させて貰うよ。大丈夫!シッチャカメッチャカにはしないから!」


「不安だな・・・」




























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