第10話 外伝 始まる君
ウチはウチ
他所は他所
1986年11月29日P.M.22:00。某県某群草神町神楽山の山中にて。
ガッサガッサガッサ
こだまするこの音は鹿の走る音。そしてもう一つ。
ドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!
戦慄する鹿。
殺られる。
追いかけてくるこれは
可愛らしい男子。
丸腰!?
なぜ距離を詰められる!!?
こっちは全力で逃走中だぞ!
あんな小さな人間に負けられるか!
ズドムッ
なにかを喰らった
顔の横になにかが当たった
人間の足だ
鹿は意識を失った
そこからの記憶は生み出されなかった。
同時刻中森家邸宅。
ここに住まうは三人の家族。
お父さんは中森正。
「始はまだ山の中か?」
お母さんは中森美和。
「ええ、森林レンジャーの人たちと鹿狩りを」
そしてその息子、中森始・・・はどうやら留守のようだ。それにしても始君は来年小学校に上がる年なんだが、鹿狩りって・・・
なんというか逞しいというか。
その森林レンジャーも自分がやりたいからと言って行かせてもらっているのだ。
「採ったらどうすんの。うち持って帰ってくんのかな」
「貴方鹿の処理って出来るの?」
「知らん。資料は書斎にあるけど。お前は?鹿料理出来る?」
「したことなんてないわ・・・資料あるんだったらあたしもみたいな」
「ちょっとおさらいしてくるわ。どの辺にあったっけ」
「私もご一緒するわ、明日が日曜日で良かったわあ、一日鹿処理に費やさないように頑張らないと」
「どんだけ採ってくると思ってんの。今夜が初めての鹿狩りだぞ!」
「でも・・・あたしたちの子よ?」
「無事に帰ってくればそれでいい」
しかしなんなんだこの夫婦。自分たちの小さき息子が山で芝刈り・・・じゃなかった、鹿狩りをしているというのに心配はそこそこにどれだけ採ってくるかと期待をかけるとは。発想が石器時代なんだわ。
だがナレーションの心配を余所に始君は無事に帰還するのである。大きな肉塊を手土産に・・・。
A.M.0:16
「ほいでしたらぁあたしらこれで失礼します~」
「・・・はあい御世話様でしたぁ~」
「おかえり愛しき我が息子、始」
「ただいま母上」
「ねえねえ、一つよろしい?」
「なんなりと」
「どんだけ採ってきたの?」
「鹿五頭」
「ちゃんと皆さんと分けたの?」
「二頭おまけでもらった!」
「三頭自分で仕留めたの?」
「そう!」
「・・・ちゃんと食べる?」
「食べる!」
「よし」
「ねえねえ始ちゃんよお」
「なんでしょ父上」
「鹿に外傷がないんだけどさ、キミどうやってこいつら仕留めたの?」
「ドロップキック!」
「」
「ジャーマンスープレックス!」
「」
「チョークスリーパー!」
「教えた覚えはねえぞ」
「テレビで見た!」
「できちまったか」
「できた!」
「受け身とれたか?」
「とれた!」
「上等っ」




