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怪魂歌 ~二十一世紀初期に発生した怪現象について~  作者: おさかなの煮物


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三ノ四 見学

三話目の続きです。書いていてキリが悪いなと思ったので追加しました。

 怪は、肩に詩喜の攻撃を食らった後、塞がった傷口を押さえながら地面に転がり、悶えるようにじたばたと激しく動く。

 少し高さのある場所から落下した詩喜は、着地するが、体勢を崩し、転んでしまう。着地したときの衝撃から多少の痛みが足を走るが、その部分に問題はないようだ。治り切っていない左脇腹に痛みが走ってしまったが。


「痛てて……」

「すまない!反応が遅れた」

「いや、いいよ。 元はと言えばギリギリのところで動いていて捕まった私が悪いわけだし。」

「そうじゃなくって……いや、いい。その話は後だ。今はお前の能力について手短に説明する。」


 彩人は怪に注意を向けながら、詩喜の能力について、説明を始める。


「お前の能力名は、会社の方で言われるだろう。そっちの方が説明は具体的だしな。まぁ、今分かるのだけで言えば、お前の能力は、高純度の”気”を線状に放つ、そんな能力だ。」

「それって強いの?弱いの?」

「よく分からない。能力は使いようだ。場所によってその強さは変わる。俺の能力が廃ホテルでは活躍したのに、今は怪の攻撃を止めて妨害するので精いっぱいだ。そんな中でも、お前の能力は今、あの怪に有効打を与えられる。その考え方で行くなら、お前の能力は強いと言えるだろうな。」

「まぁ、そうか……」


 彼女は、能力全体で見た時にどのような位置にいるのかという意味で質問を投げたのだが、彩人の回答に納得してしまい、言葉が詰まってしまったのか、納得の意を示すように声を出し、自身の両腕をまじまじと見るのだった。


「さて……能力が発言したばかりで悪いが、早速その能力を使って、怪の弱点を撃ち抜いてもらおうか。」

「撃ち抜くっつったって、弱点がどこか分からないし、どう撃ち抜けば……」

「何回でも撃て。大体の位置は分かってるだろ?心臓のあたり、左胸のあたりだ。そこ狙って何回かお前の能力をぶち込めばいい。最低限の援護はするからな。」

「分かった。やってみる。」


 詩喜はそう言うと、距離を保つように少し後ろに下がると、人差し指だけを立てて怪の胸元に狙いを定める。気が指先から溢れるイメージを頭に巡らせて、鏡で反射された日光のように光り輝く細い一本の気を直線状に放った。

 その光線は、怪の胸元を貫く。一瞬、開いた穴が部屋の壁を映したが、すぐに塞がってしまった。また、弱点を貫けたわけではないようで、怪は倒れることは無かった。だが、最初に放たれた光線でも痛みを感じていたのは本当だったようで、貫かれた部分を押さえると、金切り声を上げ始めた。

 耳をつんざくその悲痛な叫びは、二人の行動を止める。そして、一時的だが、二人の意思疎通を不可能なものにした。


「もっと撃ち込め!!」

「え!?何!?よく聞こえない!!」


 彩人が口を大きく開き、彼女に向かって叫んだが、耳を塞いでいても貫通してきた叫び声にやられ、うまく聴き取れなかったようだ。

 詩喜はまだ、怪を祓うことに対しての経験が皆無だ。そのため、意思疎通が困難な場合でも、経験豊富な彼に頼ってしまう。誰だって分からなくなれば経験者に聞くのが普通だろう。

 だが、この場では「分からない」という理由だけで遅れたその一瞬が仇となる。


 怪は二人に向かって長い手を伸ばし、二人を掴みにかかる。その怪は臆病であるが故に、受け身になるのではなく、この状況から逃げるかのように、躍起になって突っ込んできたようだ。

 詩喜はその動きに気づき、横に走り始めたが、向かってくる手の方が圧倒的に速く、逃げ切ることはできなかった。

 だが、彩人はそうではない。詩喜の視界には捉えられていなかったが、どういうわけか、怪に捕まることなく無言で立っていた。ただ、少し違うのは、体から黒い砂粒が溢れているのだ。それも全身からではなく、胸元につけられた爪痕から血があふれ出すかのように、胸元の身から溢れていた。そして、どういうわけか目の前の怪が再生するかのように服の一部が、黒い砂粒で修復されていたのだ。


「狙え!!」


 詩喜は再度掴まれたことで一瞬パニック状態に陥り、逃れようと手足を必死に動かしたが、彩人の言葉で我に返る。


「パニックになったっていい!でもな、ここじゃ迷うことが一番の悪手だ!さっきも言っただろ?出来ることを模索しろって。あんたの出来ることをしてりゃ、守りたいものだって───

「守れるんでしょ!分かってる!」


 彩人が声を上げて、冷静さを保たせるように話しかけたが、既に彼女は冷静になっていたようだ。彼の目に映る彼女は、己への迷いが消えているようにも見える。


 詩喜は、人差し指だけでなく、親指も立て、指で銃の形を作る。

 怪は、自身の安全を最優先するかのように、目の前の邪魔な「人」を排除しようと、手に力を籠め、その締め付ける痛みが詩喜を襲う。だが、彼女にその痛みは伝わっていないのだろうか、冷静に親指で狙いを定めるように怪の胸元を狙う。


 その光線は的確に弱点を穿った。怪の体が黒い砂粒へと溶けるように変化していき、詩喜を握る力も段々と弱くなっていく。怪も最後まで足掻こうと力を籠めていたが、足をついて姿勢が低くなると、胴体と詩喜を掴む腕の間が黒い砂粒に変わり、離されてしまう。詩喜は怪の手がクッションとなり、先程のように少し高い場所から着地するなんてことは無かったようだ。


「……私は、お母さんを……守る。彩人、決めたよ私。藤山除霊に入る。……まだ決定じゃないけども」

「……まぁ、入る入らないにしろ、その意気があればいいんじゃないか?」

「そうかな?入らなければあなたたちは私を殺すって言ったくせに。」

「よく言うよ」


 尻もちをつき、床に座ったままの詩喜の手を引きながら彩人は、そんな会話を交わす。

 怪が黒い砂粒を出して消えていくと同時に、壁も同じように黒い砂粒のようなものを出すと、元のマンションの一室へと戻っていく。


「そうだ、お前のさっき言っていた石みたいなやつ、それは結局何なんだ?」

「とりあえず、今日は疲れたからまた今度でもいい?今の怪からもそんなのあったんだから、そっち見て満足して。お母さんに聞いて取り出してもらうから、明日また来て。」

「……はいはい。ま、お前の言う通り今は今回の石で満足しておくよ。」


 彩人はそう言いながら塵になって消えていく怪の方を凝視し、早速石を見つけると、手に取って観察する。詩喜も興味津々に彩人の方へと寄り、近くで石を見る。

 拳大の大きさをした石には、長縄のような太さの、うねうねとした模様の線が一本だけ描かれていた。


「ううわ、蛇だ。」


 彩人が声を上げたのは、よく見ると先の方は、角の丸い、四角の形をした頭部と思える体に、目を凝らせば、鱗と思われるような細かな模様。だが、蛇と決めつけるには、あまりにも形が抽象的すぎるし、蛇の頭部周辺しか石に描かれていない。


「私が見た物はアンモナイト?みたいな模様の石だった。」

「偶像で呪いをかけるタイプか?にしても今回は蛇らしくなかったし、前回祓ったのもアンモナイトみたいな要素はなかったぞ?」

「この石を作った人の趣味とか?」

「あり得るかもな。分かりやすいものなんて作ってたらこの石の制作の意図がバレる可能性があるし、撹乱目的で彫っているって考えた方がいいかもな。」


 彩人はそう言うと、石を透明な袋の中に入れ、袋の口を縛ると、ポケットの中に入れる。


「出るぞ。終わったからな。後で懐中電灯と塩を返してくれ。」


 彩人がドアを開け、外へと出る。現在時刻は十七時四十分。夕日が山に隠れ始め、辺りの電灯が一部点き始める。


「終わったから、規制解除していいよ。それと、後処理は必要ないって言っておいて。」

「了解しました。」

「それと、怪の”異常”がある場合は、駆除後、残った部分を確認するよう、全体へ通達しておいて。」

「了解しました。」


 彼は、一人の警察官へいくつか報告を行ったが、警察官はロボットにでもなったかのように気を付けの姿勢で固まったまま同じ言葉を返す。詩喜は、このタイミングで彩人に懐中電灯と塩を返す。


「さてと、もう帰っていいぞ……と言いたいところだが、まずはすまない。君を会社に入れるためとはいえ、少し荒療治が過ぎた。」

「はぁ……?……えっと、よく分からないんだけど……何について謝ってるの?」

「怪に掴まれた後、能力が出ただろ?本来なら本人の意思で能力を解放させた方が自信も湧きやすいから様子見として手を出していなかったんだ。もう少し気配りしていれば掴まれることは無かったはずだしな。」

「いや、まあ、あれは私のミスだと思っていたけど……そうだよね。何もできないまま会社に入れられても迷惑だものね。強制的に入れるつもりなのに。」

「心変わりしたか?今から準備して会社から逃げて───」


「でも。……でもやっぱり、お母さんを守りたい。この気持ちだけだとは思っていないけど、ここから逃げるのは違うと思い始めてるの。それに、会社に入るってことは、危険と隣り合わせって事でしょ?今回痛い目見て逆に良かったでしょ。」

「しかし……いやいい。お前がその意気なら曲げなくていいか。いいぞ、帰っても。明日、お前の家に行くからな。」

「分かった。会社に入るって決めたから、まだ一週間経ってないけど、頑張ってみるよ。私なりに。」


 そう言って詩喜は、彩人に背を向け、帰路へと就いたのだった。

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