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青いドレス Side:ルーンオード


 平民の男の願いを叶え、娘に祝福を与えたレティシアは、パーティー会場にたどり着いた。ルーンオードが疲れからため息を吐くと、レティシアに心配そうに見られたので、表情を繕って無表情になった。


「ルーン。折角のパーティーなのだから、貴方も楽しんだら?」

「……今回のパーティーの主役は新入生ですから、私が楽しむのはお門違いかと思います。レティシア様は、存分に楽しんでください」


 ルーンオードの言葉にレティシアは苦笑したが、すぐに柔らかな微笑に変わった。ルーンオードはざわついている会場に目を向け、小さく呟く。


「ヴィセリオ殿の出し物はもう終わったのでしょうか」

「ヴィセリオ様が何かなさっていたのですか?」


 ルーンオードの呟きを聞き、彼の腕に手を添えながら歩くレティシアは首を傾げた。ルーンオードは彼女に一度視線を向け、頷く。


「はい。今年は彼が新入生に祝いの魔法を見せたはずです。フィーリア嬢がいらっしゃるからと、事前の打ち合わせの段階で随分と気合が入っていましたよ。察するに、格が違う魔法を見せられたのではないでしょうか」

「ヴィセリオ様の魔法ですか。是非見たかったです」


 見たかったというレティシアだが、分かっていても彼女はあの男を優先しただろう。ルーンオードはそんな彼女の志を素晴らしいと思うと同時に、自分には絶対に持てないものだと諦めた。

 二人が会場に姿を見せると、入り口付近の生徒達は騒ぎ出す。ルーンオードはヴィセリオのような笑みを意識して口角を上げ、会場を見渡しレティシアの友人達がどこにいるのかを探した。


「あ、フィーリア様がいらっしゃるわ。ルーン、行ってもいい?」


 レティシアは顔を輝かせてルーンオードを見る。彼が頷くと、レティシアは彼の腕から手を放してフィーリアの元に近づいて行った。ルーンオードは少し離れ、彼女の後に続く。人込みで彼にはフィーリアの姿は見えていなかったが、白い髪が見えると彼は思わず足を止めた。


 深い蒼いリボンがあしらわれている青いドレスを身にまとったフィーリアを見て、ルーンオードはリボンと同じ瞳を大きく見開いた。


 色んな思いが胸の中で錯綜する。ルーンオードは一度気持ちを落ち着け、レティシアの後を追った。レティシアはフィーリアと楽しそうに話しており、フィーリアも笑みを浮かべている。

 彼女はやって来たルーンオードに気が付いたのか、エメラルドの瞳を揺らした。そして、そっと目が伏せられる。ルーンオードはフィーリアとソフィアに一礼し、社交辞令としての言葉を述べる。フィーリアの耳元が赤らんでいるのを見て、ルーンオードは目元をふっと和らげた。


 ——ああ、なんて愛らしいのだろう。そのエメラルドの瞳に映すのは、私だけであってほしい。


 暗い気持ちがルーンオードを支配しそうになったが、その気持ちを抑えて笑みを浮かべる。


「その青いドレス、とてもお似合いです」

「そ、そうですか? お兄様から頂いたこの髪飾りに合わせたのです」


 恥ずかしそうに髪飾りに手を触れるフィーリアは大変可愛らしかったが、彼女がこのドレスを選んだ理由がヴィセリオの髪飾りだと知って、面白くない心地になる。彼女が一番に考えるのは、やはりヴィセリオのことなのだろうか。

 その後もレティシアとフィーリアが話すのを聞いていて、ますます面白くない気分になる。フィーリアとファーストダンスを踊ると、ヴィセリオが嬉しそうに話していたが、前もって知っていても気分は良くない。


 ——彼女は私のものだ。私が彼女のことを、一番に想っているというのに。


 胸の内をずぶずぶと闇が侵食してくるが、ルーンオードは深く息を吐いて心を落ち着かせた。その時、レティシアはいい案を思いついたと両手を合わせた。


「フィーリア様とルーンが一緒に踊るのはどうですか?」


 その言葉にフィーリアが動揺して目をさ迷わせるのを見て、ルーンオードは彼女が逃げる気がした。逃げようとされたら追いたくなる。レティシアに感謝しながら、ルーンオードは笑みを浮かべた。フィーリアは辞退しようとしていたらしいが、そうはさせない。


「フィーリア嬢。私と踊っていただけますか?」


 フィーリアに手を差し伸べたら、彼女は頬を赤らめて上目でルーンオードを見た。本能が昂るのを感じながら、ルーンオードは冷静さを保つために微笑みを浮かべる。

 温かくて柔らかい手が重ねられた時は、彼女をそのまま抱き寄せてしまいそうになった。


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