訪れた客 Side:ルーンオード
ルーンオードは聖教会の広く荘厳な廊下を急ぎ足で歩いていた。突き当りを曲がると、パーティーのために桃色のドレスを着たレティシアが一人の神官と話をしていた。彼女はルーンオードに気が付くと、こちらに手を振る。
「ルーン、準備ができたのね」
「はい。お待たせして申し訳ありません」
ルーンオードがレティシアの前に立つと、神官は一礼して去っていった。その神官の姿を横目で見ながら、ルーンオードはレティシアに頭を下げる。
「レティシア様。とてもお綺麗です」
「ふふ、無理してお世辞は言わなくてもいいのよ」
レティシアは口元に手を添えながら微笑んだ。ルーンオードはもう一度頭を下げ、申し訳なさそうに目じりを下げる。しかし、すぐに元の表情に戻ると、彼女に手を差し伸べた。
「参りましょう」
「ええ。歓迎パーティー、楽しみだわ」
レティシアはにこりと明るく笑う。そして、ルーンオードの手に彼女の手を重ねた。
ルーンオードがレティシアをエスコートしながら歩いている途中、彼らに話しかけてきた人物がいた。
「聖女様! どうか、どうか貴女様の祝福を私奴の娘に授けて下さいませんか!」
「ここは立ち入り禁止の場所です! 早く立ち去ってください」
怪しい男がレティシアに近づいてきたので、ルーンオードは彼女の前に立って男を睨んだ。その男の後ろから、慌てた様子で神官達が追いかけてくる。
「聖女様の前で無礼を働くなど、許されざることだ。加え、ここは聖教会。女神様の御前でもあるのだぞ」
ルーンオードが圧をかけるために魔力を出し、男は顔を青くする。しかし、男は立ち去ろうとせずに、レティシアの前に跪いて両手を合わせた。
「私の娘は重い病気を抱えており、もう長くは生きられないのです。娘は聖女様に強く憧れており、貴女様から祝福を受けたいと常に申しております。どうか、御慈悲を頂けないでしょうか?」
「聖女様からの祝福を受けたいのなら、受付を通してください」
「何度もお話ししました! ですが、私はお金を持っていなくて、このように汚い服を着ています。相手にもされず、帰されました」
男はルーンオードの圧に屈することなく、汗をかきながらも話を続ける。途中で口を挟んだ神官は、男の必死さに多少引いているようだ。ルーンオードは対応が面倒に感じて、どうこの問題を収束させるかを考え始めた。
無表情で男を見下ろすルーンオードの隣で、レティシアは淡く微笑んだ。そして、彼女は膝をかがめて男の手に触れる。ルーンオードが止めようとしたが、彼女は気にせず男の手を包み込む。
「貴方の娘さんを想う気持ちはよく分かりました。娘さんはどちらにいらっしゃるのですか?」
「……レティシア様?」
ルーンオードは怪訝な顔でレティシアを見る。彼女は慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、ルーンオードを見返した。
「わたくしは、救いを求めている方を放っておくことはできません。少しならいいでしょう、ルーン?」
小首を傾げてルーンオードを見上げるレティシアは、そこらの男であれば一瞬で恋に落ちるであろう可愛らしさで溢れていた。ルーンオードは仕事が増えることを内心では面倒だと感じながらも、主である彼女の言うことには基本的に従わなければいけないので、仕方なく一礼する。
こうやって人から救いを求められると、レティシアは必ず救おうとする。彼女は、一度やると決めたことは絶対に最後まで完遂しようとする、芯の強い女性だ。口にしたことは滅多に曲げない。ルーンオードが口を出しても、聞き入れてはもらえないだろう。
「ああ……本当にありがとうございます、聖女様!」
涙を流す男を温かい眼差しで見るレティシアは、本物の聖女だと改めて実感した。




