32 アルミア視点
ここ最近、お父様とお母様の機嫌が悪すぎます。
大金持ちになったのに、なぜストレスが溜まっているのかが不思議でたまりません。
「アルミアよ、ひとつ確認したいことがあるのだが」
「はい、なんでしょうか」
「先日男爵との縁談で外へ行っただろう? リッチとメイキングの店へ行ったか?」
リッチとメイキングってなんですの?
わたくしは宝石店と服飾店へは行きましたが、そのような名前の店は知りませんわ。
「行っていませんよ」
「そうか。ではやはりあれは買ってもらったのだよな……」
あれ? あれとは宝石とアクセサリーのことで間違いありませんね。
買ってもらった? えぇお父様に買っていただいたようなものですから、私は頷きました。
「疑ってすまぬな。ここ最近よからぬことが多く、つい……」
「いったいなにがあったというのです?」
「多すぎてなにから話せば良いのやら……。まず、金がない」
そういえば、お母様が着ている服が全部ダサいものに変わっていましたね。
なにか心変わりでもあったのでしょうか。
それにしてもおかしいですね。結納金がたっぷりと入っているはずなんですが。
「ゆいのう――」
「続いて騙された。使用人が配属されていただろう? あれは全て調査のための者たちだった」
お父様は自分の話に夢中のようで、わたくしの発言は聞ける状況じゃないみたいです。まぁわかりきったことを聞くまでもありませんわね。
「わたくしとしてはいなくなって助かりましたわ。毎日毎日勉強勉強うるさすぎて」
「奴らは私の本来の任務の邪魔をする連中だったのだよ。幸いバレる前に追放できたから大丈夫だとは思うが……」
「本来の任務?」
「それはアルミアには教えられぬことだ。だが、将来的にアルミアの生活が豊かになるようなことをしているのだよ」
「そうでしたか。なら使用人さんたちいなくなって良かったですわね」
でもそれって良いことのはずですよね。
お父様はどうしてこんなに悩んでいるのかがわかりませんでした。
「これは言いづらいことなのだが、最後に悩んでいるのはアルミアのことだよ……」
「へ?」
「縁談の話を持ちかけているのだが、どこの家も断ってくる」
「そんな……」
「アルミアのレベルが高すぎるからだろう……」
あぁ、確かにそうですわね。
わたくし、顔も可愛いほうですし、良く街中で男たちから声をかけられるのですよね。
もちろん誘いには全部断っていますが、貴族の人たちはわたくしがかわいすぎてごめんと思っているのですかねぇ。
ふふ、みなさま遠慮深いこと。
「残念ながら魔力だけは少ない。だが、それ以外のポテンシャルが高すぎるのだよ。アルミアも、他の人間を見ていてバカだ、などと思っていることも多いだろう?」
「そう言われてみれば……」
「アルミアと釣り合うほど出来た人間を探すのは難しいかもしれぬ……」
困りましたわ。わたくしとしましても、大金持ちの家に嫁いで生涯自堕落な生活を送りたいと思っていますのに。
わたくしのようなできた人間にはそれくらいの権利があっても良いでしょう。
「わたくし……どうしたら良いのでしょう……」
「アルミアも病気なのかもしれんな……」
「え、びょ、病気!?」
「そう、心の病気だ。アルミアのように人として完成度が高い者ほど起こりやすいのだよ。周りのレベルが低く見えてしまい、自分自身が孤独になってしまうというものだ」
言われてみれば心当たりもありますわ。
レベルが低い人間にも勝てないこともありましたし、わたくしは何度も何度もエスプレッソを飲めるよう努力しました。
最低な男でしたが、ベラードに教わりましたからね……。エスプレッソくらい飲めないと、婚約すらしようとしないのだと。
きっと高級なエスプレッソならわたくしの舌にも合うのでしょうが、なかなかそういったものに巡り合っていませんので……。
「はぁ……。庶民や底辺貴族に合わせるというのも大変ですわね」
わたくし自身がバカになれば良いとでも言うのでしょうか。
そうではなく、周りの人間としてのレベルが上がってくだされば、こんなことにはならないですみますのに。
どうしてわたくしばかりが散々な目にあわなければいけないのでしょうか。
お父様はポンっと手を叩きました。
「最近治癒施設というものができたことは知っているだろう?」
「えぇ、知っていますわ。治癒魔法を使える他国のレレレとかいうお方がこの国に長期滞在していると。グレスグレイス王国の病人や怪我人を救い、讃えられているのだとか。でも治癒魔法を使うレレレ先生は全くその恩恵を受けず、ただひたすら魔法を使うだけでだと。よくわからない人ですよね」
そんなにすごい人ならば、もっと報酬や褒美を請求して良いと思いますけれどね。
欲がないのか、元々大金持ちだから気にしていないのか……。
「アルミアの心の病気を治してもらったらどうだ? 心が晴れれば、底辺の人間と心を合わせられるようになり、縁談もうまくいくかもしれぬぞ」
「そうかもしれませんけれども……」
「なにか問題があるのか?」
私ともあろうできる人間が、他人の力を借りなければならなくなったことにストレスを感じますわ。
もちろん、お父様やレイナお姉様のような家族には頼りたいですしお願いはしますけれども……。
「わたくしがそんなところで治癒されたことなど知られたら……」
「そこは問題ないだろう。実名で予約する必要がないと言われている」
「なるほど。でしたら行ってみましょうか」
「それが良い! では予約と支払いは私がしておこう」
「ありがとうございます。さすがお父様ですわー!」
♢♢♢
治癒施設の予約した日に寝坊しました。
とは言っても、たったの二時間だけです。
焦らずに治癒施設へと向かい、受付を済ませました。
治癒魔法の使い手がいるという奥の部屋へ向かって早速謝罪しましょうか。
「ちょっとだけ遅れちゃって、すみませんですわ。でも誰も起こしてくれなかった両親がいけませんの!」
あれ、なぜかレレレ先生と、もう一人の男が放心状態になっていますわね。
どうしたのでしょうか。
さっさと治癒魔法かけてくださりませんか?




