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公爵邸での順風満開な婚約生活。
治癒魔法を発動して、私もみんなも気分爽快。
ほっぺがとろけ落ちてしまいそうなほどおいしいごはん。
身体中の汚れを全部落としてくれる温かいお風呂。
一度横になったら一気に眠気に襲われ、快適な睡眠ができるベッド。
それらを準備してくれる優しい使用人たち。
庭を毎日綺麗に整え、外でのティータイムで大変リラックスできる空間を提供してくれる庭師のトーマスさん。
そんな幸せな時間を共有してくれ、いつも優しく接してくださるジュライト様。
幸せすぎて、過去の苦労話が嘘だったかのように思えてしまう。
しかし、私にも試練がやってきたのだった。
ゆったりとした昼のひととき。自分の部屋でいつものように魔法書を読んでいると、ココが心配そうに声をかけてきた。
「大変失礼ですが奥様は、社交ダンスのご経験はおありでしょうか?」
「アルミアに教えてもらっているけれど、夜会などでの実体験はないかな」
「あぁ……それは大変ですわ……」
ココが、かつてないほどの焦りを見せてきた。横でシーツ交換をしているネネの作業も止まる。
もしかしてこれはマズいのではないだろうか。
アルミアは社交ダンスは天才的に上手いと自負していた。
しかし、アルミアとしか経験がない私にとって、ココの表情を見ていたら一気に不安になった。
「緊急事態かもしれませんね~。夜会での社交ダンスは必須であり、特に貴族社会では評価ポイントが高いですから~」
「よろしければ、お手並み拝見してもよろしいですか?」
「ええ。お願いします」
今はお気に入りの白いワンピースを着ている状態だが、ココとネネしかいないためこのまま踊ることにした。
アルミア以外の人と手をとって踊るのが始めて。
久しぶりの社交ダンスだから少々緊張している。
「えい、えいやーこらーさっ!」
「はい!? 奥様! ストップですわ!!」
「ふ……ふっふふふふふぅ~」
「な……なにか問題が……?」
業務を中断して社交ダンスを見ていたネネが、クスクスと笑っている。すぐに彼女はそっぽを向き、笑っていたことをなかったかのようにしていた。
なにかがおかしいに違いない。
アルミアからは、リズムをとることが大事だから、掛け声が必須だと教えられていた。このような掛け声もアルミアから教わったものだ。
テンポに合わせてえいっえいっと叫ぶものだと思っていたのだが……。
アルミアから教わったことをそのまま説明した。
「淑女たるもの、このような掛け声は不要です。むしろ静かにおしとやかに……ですわ」
「あぁ……、最初から間違えていたのね」
「一歩譲ってリズムを取ることが大事だという点については正しいです。別の方法でリズムを取る癖を身につけましょう」
「ココは社交ダンスになるととんでもなくスパルタですが、奥様なら無事に克服できると信じてます~」
どういうことか聞いてみたら、ココは社交ダンスのスペシャリストなのだそう。出身は民衆でありながら、時々貴族令嬢に社交ダンスの指導をしているそうだ。
それが理由でとある貴族からの縁談話もあったらしい。ココは断ったそうだが。
とてつもなく厳しくたって、絶対にうまくならなければならない。
最低でもジュライト様に泥を塗らない程度に上達しなければ……。
私も気合を入れてココの指導に挑む。
しかし……。
「なにをやっているのですか。がに股は禁止です」
「す、すみません」
「ではもう一度。……なぜそこで飛び跳ねるのです!? これは厄介ですわね……」
「す……すみません。返す言葉もございません……」
アルミアから教わった作法を全て指摘され、改善を要求された。
教える雰囲気が、普段とはまるで別人のココ。
ネネが言っていた以上に厳しい。
それだけ心配してくれているのだろう。
汗は滝のように流れ、身体もヘトヘトだが、何度も服を着替えて社交ダンスの特訓を続けさせてもらった。
『治癒したまえ、ヒール』
ココに治癒魔法をかけて、彼女の疲れを癒させた。
「ありがとうございます。厳しくしてしまい申し訳ありません」
「むしろいっぱい教えてくれてありがとう。少しは……できるようになったかな」
「それはもう。奥様は上達が早いですから、あと何日か特訓すれば問題ないと思いますわ」
「あらあら~ココが社交ダンスで褒めるなんてね~」
「奥様の素質は素晴らしいものかと思ったまでです。教えがいがあって私も楽しめましたわ」
ココがいてくれて本当に助かった。
アルミアから教わっていた社交ダンスとはまるで違うし、なにも知らずに夜会へ行っていたら本当に笑い物にされていたことだろう。
納得がいくまで毎日社交ダンスを練習するようになった。




