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「レイナ!」

「あ、あああ……火が……」


 私はジュライト様にギュッと抱きしめられた。ただただ恐く、ジュライト様にしがみつくことしかできない。

 彼の片方の腕に魔力が集まっていくのが見える。


『水よ放て!!』


 炎に勝ちもせず負けもしない程度の力で鎮火した。

 水の残骸もなければ、火事になったことがまるでなかったかのような厨房である。

 さすがに火元の油や料理はダメになってしまっているようだが。


「みなさん怪我はありませんか!?」

「ジュライト様……。救ってくださりなんとお礼を言ったら良いか……」

「無事で良かったです」

「久しぶりにジュライトさんの魔法を見ました。加減が本当に上手ですね」

「この時のために訓練していますから……」


 私もようやく正気を取り戻した。

 そしてすぐに正気でなくなる。


「ジュ……ジュライト様……?」

「大丈夫ですか?」


 優しくもしっかりと私の身体が支えられている。

 ジュライト様の体温が伝わってくるほどの至近距離。

 気が抜けてしまった直後だから、思うように力が入らない。


「まさか、治癒魔法で!?」

「いえ、そうではなくてですね、あの……」

「ひとまず向こうへ連れていきましょう。よっこらせと」

「あ、あわわわわ!」


 お姫様抱っこされてしまった。

 軽々と私を持ち上げるジュライト様。


「ん? どこか痛みますか?」

「い、いえ。大丈夫です」

「そうですか。ご無理はなさらずですよ」


 今は力が入らない。いや、頑張ればなんとかなりそうだが、そうしなかった。

 ジュライト様に対して、私の身体をすべて預けた。

 このままジュライト様に支えられていたい、守ってもらいたいと思っていたのだ。





 しばらくして私は起き上がる。

 すっかりと元どおりになったため、すぐに後始末をした。


『治癒したまえ、ヒール』

『治癒したまえ、ヒール』

『治癒したまえ、ヒール』


 厨房で燃えて黒こげになってしまった食材、マリア王女殿下や私たちの服へのダメージを修復、そして、念のためにベットムさんにもう一度治癒魔法をかけておいた。


「すごい……。レイナ様の治癒魔法で厨房まで直してしまうだなんて。何事もなかったかのようだ……」

「お気に入りの服が綺麗になっています……すごいですレイナ様! ありがとうございます!」

「ふう……ベットムさんも無理しないでくださいね」

「肝に命じておきます。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした」


 ベットムさんが深々と全員に謝ってくる。

 マリア王女殿下がベットムさんの肩にそっと手をあてた。


「ベットムさんのお身体はもう大丈夫なのですか?」

「はい。むしろ今までより元気になった感覚です! すぐに料理を作り直します!」

「ぜんっぜん反省していませんね」


 ベットムさんはマリア王女殿下の注意にも全く引こうとせず、むしろやる気に満ち溢れているよう。


「いえ、本当にこれくらいのことはさせてください。それに……作らないと悔いが残ってしまいます!」

「まぁ……確かにレイナ様の治癒魔法を受けた直後ですからお気持ちは分かりますね……」

「今度は絶対に倒れません! しばしお待ちを!」


 そう言って、ベットムさんは再び厨房へ戻った。

 なにか手伝えることもあるわけではないし、私たちは再び元の席へと戻る。

 厨房からは料理をしている物音が凄まじい。

 これなら大丈夫だろうとひと安心。


「申し訳ありません。実はレイナ様がレレレ様であり、ジュライトさんがジュジュさんであることを知っていました」

「どうして私がレレレだとわかったのですか?」


 ジュライト様もこれには驚いているようだ。

 治癒施設でなにかヘマでもやらかしていたのかもしれない。

 そう思うと、原因がなんなのかどうしても知っておきたかった。


「実は私、無属性魔法を使えます」

「なんと! 私も知りませんでしたよ」

「このことはお父様しか知りませんもの。ジュライトさんが知らなくて当然です」


 マリア王女殿下が自らの鼻に手をあてる。


「私の無属性魔法は長時間嗅覚を、動物以上に高めることができるのです」

「あぁなるほど……あの時の動作は匂いを嗅いでいたのですね」

「勝手ながら……。どうしてもレレレ様にお礼がしたかったもので。あのときジュジュさんがジュライトさんだということだけは確信しました。そこで、ジュライトさんがどうして変装しているのかを知ろうと思って公爵邸へ……」


 私と会ったとき、レレレだと分かったらしい。

 どうして最初から積極的かつ好印象だったのかが理解できた。


「お二人を見ていたら、秘密にしなければならない理由は聞かなくともわかりました。それに、レイナ様が光属性だから近づいたつもりはありません。あなたの優しさと腰の低さ、そのお人柄に惚れて……その……」

「は、はい?」

「レイナ様に仲良くしてほしいなって思っていたからなんです! 権力や力で近づく輩なんて大勢いますがそうではなく、純粋にあなたと仲良くなりたかった。お礼が言いたかった。それだけなんです」


 なにか権力関係に恨みでもあるかのような言い方だった。

 なんとなく、マリア王女殿下が男性を極端に苦手にしていたことと関係があるんじゃないかと思ってしまう。

 本人に直接聞くつもりはないし、あまり詮索はしないでおこう。


「私も、マリア様と仲良くなれたら嬉しいなと治癒施設に来てくださった時からずっと思っていました」

「そうなのですか!?」

「レレレではなく、レイナとして仲良くできたら嬉しいとずっと思っていました。苦手分野を克服しようと一生懸命頑張ろうとしている姿も、とても好きですよ」

「レイナ様……」


 マリア王女殿下が椅子から立ち上がり、私にギュッと抱きついてきた。


「とても嬉しいです。もっと仲良くしてほしいです! レイナさんと婚約だなんて、ジュライトさんがずるいと思ってしまうくらい」

「マリアはレイナのことを本気で好きになりそうな気がしてなりませんね」

「もうなっていますよ」

「一線は越えないように」


 マリア王女殿下もとい、マリア様がふふっと笑い、再びギュッと抱きしめてきた。


 治癒魔法が部外者に知れ渡ると面倒ごとが多くなるから黙っていた方が良い。

 ジュライト様だけでなくベルフレッド国王陛下やサンアディム第一王子からも、そのように忠告されていた。

 マリア様は第一王女だから、権力や地位が高い。

 おそらく面倒ごとがあったのだろう。


 私にとって、すでにマリア様はとても大事な存在だ。

 少しでも彼女が笑えるよう、寄り添っていきたい。


「大変お待たせしました。魚の煮付け……、この状況はなんでしょうか……」


 マリア様が私に抱きついている状態を目撃された。

 この反応は当然だろう。

 マリア様はそっと私から離れる。


「ベットムさん、お手伝いしますよ」

「いえいえ、王女殿下にそのようなことをさせるわけには……」

「ここではそういうことは気にしないでくださいね」

「は……はぁ、ありがとうございます」


 私も手伝おうかと思ったが、ここは二人に任せようと思った。

 その方が、マリア様とベットムさんとの関係性が深まりそうだと思ったから。

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