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「このあとはベットムさんの店でお食事でもいかがでしょうか?」
「はい! お腹も空いていましたのでありがたいです。今日は私が出します」
先日、国王陛下から報酬をいただいてしまった。
治癒施設は無料でやっていて、お金目的ではない。
しかし、治癒して元気になった人たちが増えて国が活性化してきたそうだ。
それだけで、貴族一年分の給金相当の謝礼を受け取ってしまった。
家一軒なら買えてしまえる額を……。
「あの報酬はレイナ個人のものですよ。ともかく急ぎましょう」
私の居場所を作ってくれたジュライト様にお礼をしたい。
そして治癒施設で元気になった患者さんたちの頑張りがあってこそのお金だ。できる限り治癒施設に来てくれた人たちのお店や関与する場所でお金を落としたいと思っている。
なにに使おう。
治癒施設の後片付けをして、すぐに馬車へ乗り込んだ。
ベットムさんのお店に到着すると、すでに馬車が一台停留している。
私たちの乗っている馬車もスペースはあるため、横に止めた。
馬同士で仲良くジャレついているのが可愛い。
店に入ると、お客さんは二人だけだ。
しかも、よく知っている人たちだった。
「ジュライトさんにレイナ様!?」
「やはりマリアでしたか」
マリア王女殿下が笑みを浮かべながら挨拶してきた。
一人で来店しているようだ。
「おおこれはジュライト様とレイナ様まで。これはもう貸切にしましょう」
有無を言わさずベットムさんは店の外の看板を下げ、ドアの鍵をかけた。
「これで心置きなく」
「良いのですか?」
何度も貸し切りにしてもらっているため、心配になって聞いてしまった。
「はい。これ以降の時間は、常連含め滅多に来店がありませんからね」
「ベットムさん、顔色が悪そうですが大丈夫ですか? 体調崩していませんか?」
治癒施設で患者さんと接していることが多いからか、顔色で体調の良し悪しの確認ができるようになってきた。
心配でベットムさんに聞いてみたものの、ニコリと微笑む。
「ご心配ありがとうございます! 昨日少々モラルのない団体客を相手にしていて忙しかったので少々睡眠が……まぁ大丈夫ですよ」
「さっきから元気ありませんでしたからね。今日はお休みしても良いのでは?」
「ならば私たちもおいとましますよ」
「いえいえ、そこまでしなくとも。貸し切りにしましたし知人なので心強いですよ。料理はお待ちくださいね」
治癒魔法は発動時に輝いてしまうため、コッソリと発動することができない。
ベットムさんは真面目だから、睡眠不足という理由だけで治癒施設に来てくれることがなさそう。
大丈夫かな……。
普段は注文が入ってから作り始めるそうで、ベットムさんは一人厨房で作業をしている。
私たちは客席で飲み物を飲みながら雑談中。もちろんベットムさんを気にしながらだ。
「ベットムさんの料理をお父様にも紹介したら、ここに食べに来たのですよ」
「伯父様の病が治り、元気になられてから本当に活発ですね」
「全てはレレレ様のおかげです。本当に感謝しかありません」
優しい人たちばかりで、やたらと褒めてくれる。
私はあくまで治癒しただけ。その後の功績や実績は、それぞれ個人が成し遂げたもの。
それだけグレスグレイス王国の人たちが活発になってきているのは嬉しいなと思っている。
この調子で治癒魔法をたくさんかけてみんなを元気にさせていこう。
「今度ベットムさんを王宮へ招待する計画も立てています」
王族の中では、ベットムさんの料理の腕が高く評価されているそう。
だが、ベットムさんはあくまで趣味の範囲でやっていると聞いていたが、忙しくなってしまって大丈夫なのだろうかと心配にはなる。
「和食の作り方や仕入れる方法を王宮専属の料理人たちに教えるそうです。これで王宮でも和食が楽しめますの」
「公爵邸でも、和食の作り方は伝授してもらいましたよ。料理長も苦戦していて、今度習いに行くといっていましたね」
「ベットムさん……身体壊さないように気を付けてもらいたいです」
マリア王女殿下はとても心配しているように見える。
ところで、肝心のベットムさんなのだが、先ほどから厨房が静かな気がする。
火属性魔法でぐつぐつ煮込んでいる音と良い香りはしてくるものの、ベットムさんの足音や物音が聞こえてこなくなった。
そう思ったら、急にバタンと大きな音が厨房から聞こえてきた。
「まさか……ベットムさん!?」
真っ先にマリア王女殿下が顔を真っ青にしながら厨房へと向かう。
外出用とはいえとても高そうで高級感あふれる服装だ。
厨房へ入ればどうなるかだなんて百も承知なのだろう。
私とジュライト様も、マリア王女殿下に続き厨房へ向かう。
「きゃああああああっ! ベットムさん!!!!」
マリアの悲鳴が聞こえた時は、すでに私たちも同じ場所にいた。
油や細かな食べ物の残骸がある地面に倒れているベットムさん。
彼を必死に起こそうとしているマリア王女殿下。
「マリア様、少々失礼します」
「レイナ様……」
すぐにマリア王女殿下の横で、ベットムさんの脈があるかどうかを確認した。
動いているため、命が失われたわけではないことだけは判明した。
ならば治癒魔法を発動すればなんとかなるかもしれない。
治癒魔法は公爵邸や特定の人以外が見ている場所では極力使わないようにしているが、今回は緊急事態だ。
構うものか。
そう思っていたのだが……。
「お願いします。レイナ様。いえ、レレレ様! ベットムさんを助けてください」
「「えっ!?」」
「秘密にしていたことは重々承知です。でも、どうか……」
前に国王陛下から報酬を受け取った時に、マリア王女殿下のことを聞いたことがあった。
私がレレレだと話してはいないと言っていたし、どこで知られたのか。
不思議だったが、今はまずは治癒することを優先した。
「もちろんですよ」
「ありがとうございます!!」
『治癒したまえ、ヒール』
ベットムさんの胸あたりに手を添えて治癒魔法を発動させた。
すると彼の頭部に光が集まったのだ。
これは脳が原因の可能性が高かったのかもしれない。
「う……」
「良かった……。良かったです!」
マリアが涙を零しながらベットムさんに抱きつく。
自慢の服も汚れてしまっている。
よほど心配していたのだろう。
「身体の怠さがなくなっている……どうしてだろう」
ベットムさんが不思議そうにしながら起きあがった。
隠していても疑問を残してしまうだろうし、このあと心配が続いてしまうかもしれない。
「よろしいですか……?」
「構わないと思いますよ。彼なら信頼できますから」
ジュライト様もそう言ってくれたため、正直に話した。
「治癒魔法を使いました」
「え!? もしかして、治癒施設で活躍されているのはレイナ様ということですか?」
「黙っていて申し訳ございません。身の安全を守るために正体を隠しています」
「そうでしたか。治してくださりありがとうございます! もちろんこのことは絶対に黙っています」
ホッとしたのも束の間、今度は隣の厨房から焦げ臭さが漂ってきた。
「大変だ。火がついたままで……」
一瞬のできごとだった。
火が燃え出したと思ったら一瞬にして炎が渦巻く。
油に引火してしまったのだろう。
私は炎を見て、身体中が震えてしまった。
火だけならともかくとして、火災や勢いのある炎はとても恐い。
過去のトラウマが蘇り、全く動けず、力も抜けた。




