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今日は治癒施設がお休み。
ジュライト様は今日も王宮へ出かけている。
ファルアーヌ家にいたころは、家の掃除や洗濯をして、両親からの嫌がらせに耐える毎日だった。
しかし今は、ジュライト様や公爵邸に仕えている全員から甘やかされ、自由な時間を与えられている。
私は公爵邸内の敷地を散歩しながら日光浴をしていた。
花壇の奥側は草が生え茂っていて、それを引っこ抜いている庭師のトーマスさんを発見。
声をかけて挨拶した。
「あぁ奥様。いつも治癒魔法ありがとうございます。虫刺されの痒みもなくなったし腰痛も回復して調子も良いです」
「無理しないでくださいね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
トーマスさんは年齢が四十過ぎだと言っていたが、見た目はもっと若い。
とにかく身体を動かすのが好きで自然が大好きだから庭師になったのだとか。
彼のおかげで綺麗な庭を散歩できているわけだから、一緒に作業をしようと思った。
「こちらの草、私も引っこ抜いてみてよろしいですか?」
私の提案を聞いた庭師は慌てて止めようとしてくる。
「いけません。奥様はジュライトおぼっちゃまの婚約者様なのですから。ご自覚をしっかりお持ちになって雑用はお任せください」
「こういった作業、好きですよ?」
「草むしりがお好き……?」
「んー……、草抜きが好きというよりも、掃除をして綺麗になるという感覚が好きと言いますか。今回は草抜きして綺麗な庭になったら気持ち良いなぁと」
ファルアーヌ家では散々雑用を強要されていた。その中でも楽しみを見つけなければと思い、達成したあとの気持ち良さ、爽快さが嬉しく感じるようになったのだ。
その感覚を最近味わっていなかったため、これは私のただの好奇心である。
「お仕事ではなく、好きだからやりたいなって」
「ふ、はははははっ! そのお気持ちは俺と同じってことなんですね。くれぐれも旦那様にバレないようにしてくださいよ。奥様が注意されてしまいますからね」
「ありがとうございます」
さすがにミニスカートの白ワンピースで草むしりは色々と問題がありそうだし、一度屋敷に戻って動きやすい格好に着替えた。
ひたすら引っこ抜いて引っこ抜いて引っこ抜く。
この感覚、とても懐かしい。
実家では強制労働だったから気が乗らないことも多かったが、今回はやっていて楽しい。
感覚も思い出して、楽な体勢でどんどん引っこ抜いた。
「奥様は多才なんですね。しっかりと根っこから引っこ抜いて効率が良く、力の使い方も器用に見えますし」
「長年やってきた賜物ですよ」
「はい……?」
「あ、いえ! なんでもありません」
小さいころからやっていただなんてとても言えなかった。
雑用令嬢と婚約しているのかだなんて知られてしまったら、ジュライト様の顔に泥を塗ってしまうだろうし。
トーマスさんの疑問をさらっと流し、草むしりを夢中で続けた。
♢♢♢
『治癒したまえ、ヒール』
草むしりをしていると、虫に刺されたり切り傷をつくってしまったりとダメージも多い。
まずはトーマスさんに魔法をかけて治療した。
「ありがとうございます。虫刺されも気にせず作業ができるだなんて本当にありがたい限りですよ」
「私も綺麗な庭を眺めていられるので嬉しいです」
私が草むしりをしたのはほんの一部だけ。
その何倍も何十倍もトーマスさんが毎日作業している。
私は治癒魔法で回復させることしかできないから、せめて感謝の気持ちだけは伝えておきたかった。
そして……。
「草むしり楽しかったです。ありがとうございました」
「こちらこそ手伝ってくださり、ありがとうございます」
さて、ジュライト様が帰ってくる前にお風呂に浸かって綺麗にしておかなきゃ。
雑草の匂いが身体中にまとわりついている状態だとバレてしまいかねない。
早足で屋敷へ戻ったのだが、すでにジュライト様が馬車で帰ってきたタイミングだった。
急いで先行して裏から屋敷内へ突入しようと思ったのだがそれができない。
馬車から降りた女性が見覚えのあるお方なのだから。




