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「本日の治癒魔法はこれにて終了です」
「レレレ様、お疲れ様でした」
無事に治癒魔法を発動することができた。
先日魔法を発動したあとに体調が悪くなったし、その時よりも魔法発動回数が何倍もあったため、少々心配していた。
しかし、なんの違和感もなく元気に終わらせることができたのだ。
「今日はいつもよりも元気がありませんでしたが、どうされました?」
「ちょっと心配していたことがあったのですが、もう大丈夫です。ご心配おかけしました」
「そうですか……」
それでも心配そうにしているジュライト様もといジュジュ。
考えすぎだったようだし、心配させてしまって申し訳なく思う。
しかし、先日魔法を発動して体調に変化があったなどと話せば、治癒施設存続の問題に関わってきてしまうだろう。
特にジュライト様は私のことを大変心配してくれている。
「そうだ。明日からはまた治癒施設はお休みですから、どこかにお出かけしましょうか」
「お、お出かけ……ですか?」
「婚約してから一度も出かけていませんからね。どこかへ連れて行きたいなと前々から思っていたのですよ」
ジュライト様は忙しいお方だ。
ただでさえ治癒施設に時間を使ってくださっている。
心配になってしまうが、一緒に外へ行けるのは嬉しい。
「お出かけしたいです! でもお時間はあるのですか? 無理していませんか?」
「ははは、レイ……レレレ様と一緒にいられるならばと思い、仕事も一気に終わらせます」
変装したジュジュのお顔のまま、私をじっと見つめられる。
今の私はレレレであって、男の姿なのにだ。
「どこか行きたいところはありますか?」
すでにジュライト様の中では決定事項らしい。
引っ張ってくれるところも嬉しいし、甘えさせてもらう。
行きたい場所と言われても、私は王都内を出歩いたことがほとんどないためわからないのだ。
「タコさんウインナー……」
「は、はい?」
「あ……」
うっかりしていた。
私の欲望丸出しで口ずさんでしまった。
「タコさんウインナーが食べたいのですか?」
「は……はい。実は大好きなんです……」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!
公爵夫人として、もっと大人な食べ物を好きと言わなければと思いつつも、欲望には勝てなかった。
私もまた、ワガママなのである。
ところが……。
「そうだったのですね。もっと早く言ってくだされば良いのに」
「へ? タコさんウインナーが好きでも良いのですか……?」
「当たり前ですよ。さっそく明日より夕食のメニューに追加するよう頼んでおきましょう」
「うわぁぁぁぁああああっありがとうございます!!!!」
嬉しすぎて、感情のままお礼を言う。
ジュライト様はニコリと微笑んでくれた。
「ははは、素直なレレレ様も可愛いですね」
「あ、あわわわわ……申し訳ございません」
レレレの姿の私の耳元に、ジュライト様の顔が触れるかどうかの至近距離に。
そしてジュライト様が小声でささやく。
「私はもっとレイナのことを知りたいのですよ。遠慮せずあなたのことを教えてくださいね」
「は……はひ」
私の身体ごとジュライト様に溶かされてしまいそう……。
今日も寝つけなさそうだ。
♢♢♢
ジュライト様からの極度な溺愛甘々モードな日々。おまけに今日はジュライト様と王都の街へお出かけというワクワクでなかなか寝付けなかった。
睡眠不足。
せめて今日の夜までしっかりと起きていられるように頑張らなければ。
「大丈夫ですか? ずいぶんと眠そうな表情ですが」
「……今日が楽しみで眠れなかったので……」
寝ぼけながら朝食を嗜む。
あまりにも眠い。つまり、ジュライト様の質問に対してなんのためらいもなく、ただ思ったことを無自覚に喋ってしまったのだ。
紅茶を口に入れたときに、ようやく私がなにを喋ったのか理解した。
「あ……あわわわわ……私はなんということを……!」
「ボーッとした姿も可愛いですね」
「か、可愛いって……これは失礼なことでしょう! 申し訳ございません!」
「良いのですよ。私の前では自然でいてくれて」
限度というものがある。
ファルアーヌ家では何年も気持ちを押し殺して我慢する生活を余儀なくしてきた。今は公爵邸のみんなが優しすぎて、つい甘えてしまい本音も漏らしてしまうことがある。
気持ちを引き締めなければ私もワガママまっしぐらだ。
一気に紅茶を飲み込み目を覚ました。
「ふう……、今日はどちらへ行く予定ですか?」
「そうですね。私の友人が料理店を営んでいまして。そこで食事でもどうでしょう?」
「お腹空かせておきますね」
「食事の前に連れていきたい場所がありますが、そこは着いてからのお楽しみということで」
「楽しみにしていますね」
朝食後、出かける準備を整え庭へと向かう。
すでにジュライト様が馬車の前で待機していた。
「遅くなってしまい申し訳ございません」
「良いのですよ。こうして日光浴をしながらのんびりするのも好きですから。さぁどうぞ」
「なんという至れり尽くせり……」
手を差し伸べられ、私は手を握る。
馬車へ乗り込む際も、怪我をしないようにと丁寧に誘導してくれた。
馬車の中は広いのに、ジュライト様が私のすぐ隣でほぼ密接状態。
目的地到着までに、私の心臓が壊れないことを願う。