今よりずっと攻撃的だった私
そう言えば、あの森にはあちこちに、古い争いの跡があった。
あれは、王政派と反乱貴族の戦いが大地に刻みつけた傷跡だったのね。
「当時の私は、今よりずっと攻撃的で、気も短かったですから、毎日、朝から晩まで怒っていました。『何故、あんな俗物どものせいで、私の暮らしが脅かされなければならないのだろう』と。……そして、怒りが頂点に達したある日、私は森の中を進軍していた王政派の一団に、攻撃を仕掛けました」
「ええっ!? 軍隊に攻撃を仕掛けたの!? いくらなんでも無茶じゃない!?」
「まったくもってその通りですが、怒りのあまり、理性が消し飛んでいた私には、まともな判断力が残っていなかったのです。正直、ほとんどヤケクソでしたから、住み慣れた土地で、自然と共に暮らせないのなら、このまま悪辣な人間どもを殺せるだけ殺し、玉砕して死ぬのも悪くないと思っていました」
「き、気持ちはわかるけど、ヤケクソにもほどがあるでしょ……あなた、昔はけっこう滅茶苦茶だったのね。ちょっと親近感が湧くわ」
「しかし、玉砕どころか、かすり傷ひとつつけることすらできずに、私の体は魔法で拘束されました。王政派の強力な魔法使いたちの前では、森の民の優れた身体能力と戦闘能力も、まったくの無力だったのです。私は『魔法使いとはこれほど恐ろしい存在だったのか』と痛感し、生まれて初めて震えあがりましたよ。もう、煮るのも焼くのも、相手の自由ですからね」
「そ、それで、どうなったの? 今ここに、こうしてあなたがいる以上、命を奪われはしなかったのだろうけど……」
「ええ、その通りです。ここでやっと、ローゼン家と話がつながるのですよ。なんと、私が襲撃した一団のリーダーは、ウィリアム・ローゼン公爵閣下だったのです。ふふ、私は無知かつ命知らずにも、この国で最強の魔法使いに戦いを挑んだというわけですね」
「お父様が……」
「今と違い、スマートな体型だったローゼン公爵閣下は、思慮深い瞳を私に向け、こう尋ねました。『お嬢さん、どうして我々を襲ったのかな。こんなことをしてはいけないよ』と。その言葉で、私はキレました。凄まじい怒りで全身の血が逆流し、恐怖が吹っ飛んだのを今でも覚えていますよ。その後、閣下に叫んだ言葉も、一言一句、完全に覚えています」
ヒルデガードは、どこか自嘲するように微笑むと、一段階声のトーンを上げ、小さく叫んだ。
以後、不定期更新となります。




