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46話 罠


「今です……わっ――」

「――バカッ……」


 初級ダンジョンの『嘆きの壁』にて、コレットがブラッディハンター――罠を抱えたゾンビ――を俺の元まで連れてきたまではよかったが、足元に置かれたスキッドトラップに引っ掛かって勢いよく滑り、派手に転んでしまった。


「いたた……」


 その先に障害物とかモンスターがいなかったのが幸いして無事だったが、一歩間違っていたら大変なことになるところだった。もしバインドトラップを使われていたら、動けなくされた上に噛みつかれて血を吸われていただろう……。


「はああっ!」

『ウゴォォッ……』


 俺はブラッディハンターの背中に回り込み、槍で急所の背中を突いて倒した。やつは普段きょろきょろと周囲を見回しながらゆっくり歩いていて、人間が近寄るとダッシュしてきて罠を置こうとするが、そうでない場合は常に罠を置く場所を探しており、仕掛ける寸前に一度棒立ちになるのでその隙に倒すのがセオリーなんだ。


 危なかったがとにかくこれでノルマの五匹を倒した。その前にフェイクバット――たまに襲い掛かってくる幻覚を見せてくる蝙蝠――も十匹倒してるので、あと一種のモンスター、ロッテンオーガを一匹倒せば『嘆きの壁』を攻略したことになる。


「いくらここのモンスターが弱いからって油断しすぎだぞ、コレット……」

「ごめんなさーい……」


 彼女は舌を出しながら気まずそうに起き上がるも、すぐ表情がパッと明るくなる。


「でも、これで四種のモンスターを倒したのであと一種ですね!」

「ああ……。でもかなり数が少ないみたいだよな。実際、体が大きいっていう割にまだ見かけたことないし、倒すことよりも広大なマップの中を探す苦労のほうが大きいらしい……」

「頑張って探索しましょう!」

「……次はああいう失敗をしないようにな」

「もちろんですよっ!」

「絶対だぞ?」

「はいっ!」


 この念押しにはちゃんとした理由がある。ほかのモンスターなら捕まっても即死ということはないが、ロッテンオーガだけは違う。巨躯なだけでなく怪力で、捕まえた獲物の体をあっという間に両手でねじ切ってしまうほどなんだそうだ。その分ほかのモンスターより動きは相当鈍いらしいが、捕まれば命はないと思っていい。


「今度からはちゃんと気をつけますね」

「ああ。コレットが危ない目に遭うのは見たくないからさ……」

「……はぁい。お嫁前の体ですから……!」

「……ったく。すぐ調子に乗るんだからな」

「うひひ……」


 それでも気分は悪くなかった。コレットは元気そうだし、初級ダンジョン攻略まであと一匹のモンスターを倒すだけでいいんだからな。さらにヨークやラシムの姿も今のところ見られないし順調そのものだった。もし仮に見つかってもいつでも逃げられるようにと、なるべく広いところでモンスターを倒すようにしてるし、移動しながら狩るわけじゃないからお目当てのモンスターが出現するまで辛抱しなきゃいけないが、このやり方ならいずれ攻略するのも時間の問題に思えた。


「……」


 ただ、心なしか人が周りに増えてきた気がするな。俺たちみたいに固定狩りするつもりなんだろうけど……なんか妙だ。ちらちらと見られてるような気がする。


「コレット、なんか視線を感じないか……?」

「……ですねぇ。私が亜人さんだから珍しいんでしょうか……?」

「んー……確かに亜人の姿はほかのパーティーには今のところまだ見られないけど、あそこにいる馬面の獣人のほうが目立ってると思うし……」

「そうですねぇ……はっ、もしや、私の美しさに見惚れたとか……」

「バカ……」

「はうぅ……」

「……」


 やはりおかしい。みんなジロジロ見てくる。それも、睨むような目線だ。どういうことだ? 釣りイベントの客? いや、そうだとしても恨まれる覚えはないはずなのに、一体何故……。


「――おい、ちょっといいか!」


 訝しがってると、ついにとあるパーティーから声をかけられた。こいつらの目を見ればわかるが、どう考えても友好的な空気じゃなかった。


「喧嘩売ってるんだってな? 俺たちが買うぜ」

「「……えっ?」」


 俺とコレットの素っ頓狂な声が被った。

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