40話 温もり
「――はぁ、はぁ、はぁ……」
ひたすら呼吸する。体がまともに動かない。意識もはっきりしない。そんな状況でも俺は徐々に落ち着いてきて、自分がやつらに突っ込んだときの記憶が少しずつ蘇ってきた。
俺はコレットを守るべく、ヨークとラシムに対して必死に食い下がり続けたんだ。それでもさすがに二人を相手にするのは厳しくて、何発か殴られるうちに力も衰えていき倒れたのでもうダメかと思ったとき、ほかの冒険者が何人か現れたおかげで暴力の嵐はひとまず収まったというわけだ……。
「ヨーク、大丈夫?」
「大丈夫だよ、ラシム。何発か殴られたけど、【弱体化】が効きまくってて全然痛くなかったし……」
「でも服とかボロボロ……。こんなの殺しちゃえばよかったのに……」
「……さすがに何人かに見られちゃってるしなあ。ヤバイやつらだって思われるかもだし」
「それもそっか。てか、こいつダサすぎだよね。女の子に守ってもらって……」
「……」
そうだ、倒れてから体中に激痛が走っていたとき、誰かが俺に覆い被ってきて痛みが和らいだことがわかったんだ。意識に続いて視界が回復し始めた頃、コレットが身を挺して俺を庇ってくれていたことに気付いた。
彼女が包み込んでくれたことによる温かさというものが、これほど辛く感じることになるとは思わなかった。全部……俺が悪いんだ。無力なのに喧嘩したら災いしか起こらないってわかってるのに、我慢できずに舌でやつらに応戦したことで、コレットをこんなに悲しませるような結果になってしまったんだ……。
「こんな酷いことをして……無事で済むと思ってるんですか……?」
「「は?」」
まずい。このままではまたやつらの敵意がコレットに向かってしまう……。
「……コレット……や、やめるんだ……」
「カレルさん……でも、こんなの悔しすぎます……」
「……もう、もういいんだ……」
「相方さんはもういいみたいだよ?」
「うんうん。これ以上ボコられたら死んじゃうかもだしねえ」
「……死ぬ可能性があるのはあなたたちのほうです……」
「何言ってんの、こいつ。なんで僕たちが死ぬ可能性があるんだよ」
「そうよ、言ってみなさいよ。亜人奴隷さん」
「……リーダーのジラルドさんとか、絶対怒ると思います……」
「「プッ……」」
やつらの笑い声がとても不快だった。一体何がおかしいっていうんだ……。
「お前たちみたいな無能のために報復してくれるって、それ本気で思ってる? もし思ってるなら本気で頭おかしいよ」
「実際頭おかしいんじゃない? どうせペット感覚で飼われてるだけのくせして図に乗っちゃって……。二人だけでこんなところに来てるのがいい証拠でしょ?」
「あ、あなたたち――」
「――もういいんだ……やめてくれ、コレット……お願いだ……」
「……カレルさん……」
「帰ろっか、ラシム。こんなのと関わってもしょうがないし」
「そうね。無能と接するだけ時間の無駄だし……」
「無能同士さ、仲良くやったらいいんだよ。辛くても挫けたらダメだよ? 僕たちが応援してあげるから」
「頑張ってねぇ!」
「「あははっ……」」
やつらの勝ち誇ったような笑い声が遠くに感じられるようになって心底ほっとする。どれだけバカにされてもいい。これ以上俺たちから大事なものを奪わないでくれたら、それだけでいいんだ……。
「……だ、大丈夫か? コレット……」
「なんで……なんで私なんかの心配をするんですか……。カレルさんのほうがよっぽど酷い状態なのに……」
「……コレット……よかった……」
「え?」
「……なんともないんだな……よかった……コレット……」
「カ、カレルさん……?」
コレットが無事だったことで安心したせいか、温もりの中で俺の意識が底のほうに滑り落ちるかのように、急激になくなっていくのがわかった……。




