39話 絆
「――がはっ! うごおぉっ!」
「いやあぁぁっ! やめてくださいっ!」
コレットの悲鳴と水飛沫が上がる中、俺はヨークから【弱体化】スキルを使われ、水場の中で一方的に暴行を受けていた。
「笑えるよ! こんな雑魚があの《ゼロスターズ》の正式な一員なわけないだろっ! 冷やかされてるだけっていうのがわからないのかな!? おらっ、目を覚ませ!」
「がふっ……! ぐごぇっ……」
ヨークに頭を掴まれ、何度も何度も水溜まりの中に叩き込まれる。呼吸が苦しくて意識が朦朧とするが、ここで終わるわけにはいかないと必死で堪えるしかなかった。
「お願い……お願いです! カレルさんの代わりに私を甚振ってください! お願いしますから!」
「……あはっ。ラシム、聞いた? 今の……」
「うんっ。健気え……。ねぇねぇ、一体どうやって洗脳したの? ストーカーのアレルさん?」
「……う、ぐ……」
「喋る余裕なさそうだよ、こいつ」
「「ププッ……」」
声がまともに出ない。どうすれば……一体どうすればこの絶望的な状況を乗り越えられるんだ……。
「カレルさんはストーカーなんかじゃありません! むしろ私が彼のことが大好きで勝手に付き纏ってるだけなんです!」
「「ヒュー……」」
……コレット、やめろ、やめるんだ……。俺は彼女に言葉を伝えるべく、力を振り絞った。
「……よせ……コ、コレット……ぐふっ、早く……逃げ、ろ……」
「ほらぁ、コレットっていう亜人さん。カレルもそう言ってるんだし、早く逃げたら?」
「そうそう。こんな無能について回るくらいならさ、新しいご主人様を見つけたほうが身のためだと僕は思うけどなあ……?」
「嫌です! この人をここに置いて私だけ逃げるくらいなら、いっそここで死にます!」
「……コレット……」
「うわー、凄い忠誠心だ。僕も亜人の奴隷ちゃん欲しくなってきたなあ……」
「もー、ヨークのバカッ。この子だって本音としては離れたいけど、奴隷の制約みたいなのがあるんでしょ!」
「あ、そうか。なるほどね。この無能に人を惹きつけるような魅力なんてあるわけないし……ねえ、聞いてる? おい、何寝そうになってんだよ!」
「うぐっ……ごぽっ……!」
水場でヨークに頭を踏みつけられ、朦朧としていた意識が表に引き摺り出される。
「……お願いです……ひっく……やめてください……えぐっ……なんでも……なんでもしますから……」
「……」
あんなに泣くことを嫌がっていたコレットが声を上げて泣いている。そのことが何より辛かった……。
「……はあ。なんかあたし、この奴隷の子もいい加減うざくなってきちゃった。ヨーク、お望み通りボコっちゃえば?」
「いいね。なんかくっさい絆みたいなの見せつけてきていい加減不快だったし、こいつの目の前で殺すのも面白そう……」
「や……やめろ……。やるなら……やるなら俺をやれ……。コレットには手を……手を出すなぁ……」
「ウッザ……。なんで僕らがお前なんかの命令を聞かなきゃいけないわけ? とっととやっちまおう」
「うんっ。ねえヨーク……誰も来ないしあたしも一発くらい殴っていい?」
「どうせ死ぬんだし何発でも」
「もーヤダー、人殺しになっちゃうぅー……」
「「あははっ!」」
「……やめろ……」
俺は気付けば立ち上がっていた。
「「……へ?」」
コレットのほうに向かっていたヨークとラシムが驚いた様子で振り返ってくる。不思議なことに、ボロボロだったはずの俺の体には熱が籠り、異常なほどの力で溢れ返っていた。
やれる。これなら戦える。あそこにいるのは幼馴染じゃない。ただのモンスターだ……。
「やめろおおおおおおぉぉっ!」
コレットに危害を加えようとするモンスターをこの手で駆逐する。俺はただその一心でやつらに向かって走った。見える、見えるぞ。やつら、モンスターどもの動きが、まるでスローモーションであるかのように。
「カレルさあぁぁん!」
コレットの悲痛な叫び声を最後に、まもなく俺は何も見えなくなり、音も拾えなくなった……。




