34話 想起
「ごちそうさまー、美味しかったです!」
「本当に旨そうに共食いしてたな」
「うう……」
グレルリンの飯屋で俺は一足先に食べ終わり、コレットの食事風景を近くで見てたんだが、彼女は本当に美味しそうに赤目鳥の串焼きを頬張っていた。
「覗きだなんて趣味が悪いですよ! ぷんぷん……」
「コレットだって、俺が【釣り】スキル使ってるときとか側でジロジロ見てただろ?」
「……や、やり返されちゃいましたか……。では次も覗かせていただきます!」
「おいおい、報復の連鎖か……」
「ふふ……」
食事を終えた俺たちは早速ダンジョンへ行くべく準備に取り掛かる。まずは武器屋だ。なんせスケジュールはぎっしり詰まってるから急がないとな。
「――こんなもんでいいか」
「いいですね、私はこれを選びます!」
俺は敵を釣るのに適しているであろう弓と矢筒、コレットは釣ってきたモンスターの群れにとどめを刺すため、特に長さのある槍を選んだ。彼女は串焼きが好物なだけにぴったりかもしれない。
次に向かった防具屋では、一度は生活苦で売り払った革の胸当てや肩当て等を二人分購入した。それから道具屋で回復ポーションを少々買っておく。リーダーからある程度まとまったお金を貰ってるから、よほど無駄遣いしない限り金に困ることはないだろう。
「私、絶対にご主人様をお守りします!」
「あぁ、頼むよ俺だけの下僕」
「うふふ……」
コレットのやつ、いつになく張り切ってるな。彼女も《ゼロスターズ》の一員ではあるが、本来ならダンジョンに入る予定なんてなかったわけだから当然か。冒険者っていえばやっぱりダンジョンだからな。
最後に、パーティーリングがあればダンジョンの攻略記録を刻むことができるとのことで、一応ここのギルドで購入することにした。まだ名前もリーダーも決まっていないまっさらなリングだし、パーティーに所属している間は結成できないものの、いつか必要になるときが来るかもしれない。もし仮に今のパーティーを追い出されても、初級ダンジョンを突破したパーティーを作れるというだけで充分アドバンテージになるはずだ。
「そろそろ行こうか?」
「ですね!」
準備万端ってことで、早速町の北部にある洞窟へと向かうことにする。大きく聳える岩壁には洞穴が幾つも見えるわけだが、その一つが洞窟ダンジョン『嘆きの壁』らしい。
昔元冒険者だったという教師から聞いた話を俺は思い出していた。このグレルリンの町はかつて住民の数が三桁を切ってしまうほど過疎っていたというが、ダンジョンが近くで発見されたことで町おこしとなり、毎日多くの冒険者で賑わいを見せるほど発展したのだそうだ。今や『嘆きの壁』を知らない冒険者はほとんどいないとされている。
ただ、初級とはいえ命を落とす冒険者も稀にいるということで、ダンジョンに潜ること自体初めてなこともあっていやおうなしに緊張感も高まっていた。岩壁のほうに近付くにつれて冒険者らしき者の姿も多くなってきて、それでよりダンジョンを意識するせいか洞穴の迫力が徐々に増してくるかのようだ。どこに本物のダンジョンがあるのかはわからないが、彼らのあとを追っていけば迷うことはないだろう。
「……あ……」
俺はふと、重要なことを思い出して立ち止まった。
「どうしました? カレルさん」
「……いや、なんでもない」
「……さては、私の顔に見惚れてましたね……!?」
「バカ」
「うぅ……」
そうだ、きっとなんでもないと思いたい。初級ダンジョンってことで、一応俺と同時期に冒険者になったやつらがいることを思い出してしまったわけだが、そもそも初級ダンジョンはここだけじゃないし、そう都合よく遭遇するようなことはないはずだ。それに、あいつらにやり返そうとかそんなことはまったく思ってないから、もしぱったり再会してしまったとしても無関係を装うか気付かない振りをするだけだ。
「……」
俺は自分が少し動揺していることに気付いた。まだ引き摺ってるのか。いい加減に忘れろよ、俺……。




