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33話 自然体


「ふう……」


 周囲が大分明るくなってきて朝らしさを取り戻し始めたとき、ようやく町の一部が見えてきた。あれが山麓の町グレルリンだ。コレットを負ぶってきた分長く感じたが、下り道が多かったし低地になるにつれて呼吸が安定してきたこともあり、割とスムーズに進むことができていた。


「――あっ……」


 どうやらお嬢様がお目覚めのようだ。


「おはよう、コレットお嬢様」

「……お、おはようございますですわ。ホホホ……」

「よく眠れたか?」

「はい、おかげさまで! ご、ごめんなさいぃっ……」


 コレットが慌てた様子で俺の背中から下りたと思ったら、町のほうを見てがっくりとその場にうずくまってしまった。


「もしかして、あれからかなり歩いたんですか?」

「ああ、もう町が見えてきてるくらいだしな」

「……うぅ……使用人失格ですね……」

「いいよ、別に。仕方ない」

「仕方なくないです! ただでさえきついのに、私を背負わせてしまうなんて……」

「でも、寝てないならしょうがないだろ?」

「……バレてたんですね」

「あぁ、バレバレだよ。あんなにぐっすり寝てたら」

「うぅ……カレルさん、私を殴ってください……」

「あぁ……え?」


 俺はコレットの発言に耳を疑った。


「殴れって……どうかしてるぞ……」

「自分が許せないっていうのもありますが、それで気合を入れるためです……!」

「いやいや……」

「お願いします!」

「……はあ。じゃあ、どうしても納得できないなら……」

「……はい。ガツンとやっちゃってください……」


 俺はコレットの頬を軽くつねってやった。


「あうぅ……?」

「殴ったら気絶しちゃうかもだろ。また俺に背負わせる気か? その代わり、今度俺が寝ちゃったら負ぶってくれよ」

「えぇっ……」

「それでイーブンだろ?」

「……は、はい。ますます好きになっちゃいました……」

「……バ、バカか」

「うふふ……」


 コレットはいい子すぎて俺にはもったいない。それでも、彼女がもしいなかったらと考えると想像もできなかった。やっぱり依存しちゃってるな……。


「さ、そろそろ行きますよー!」

「お、おお、おいっ!」


 コレットに手を引っ張られて、勢いよく緑に囲まれた坂道を駆け下りていく。


 ……そうだな、今は考えないでおこう。いつか彼女が俺の前からいなくなるとしても、それまで楽しくやれれば……それでいいじゃないか。彼女だって俺がいなくなる不安を抱えてるかもしれない。実際、冒険者ギルドで彼女は俺が遠くへ行っちゃうような気がしたと言っていた。未来がどうなるかなんて誰にもわからない。だから……今を一生懸命に生きようと思う。コレットといると、自然にそう思える自分がいた。


「「――はぁ、はぁ……」」


 町の入り口で、俺とコレットはしばらく荒い息を重ねるだけで立ち上がることさえもできなかった。


「……は……はりきりすぎだ……」

「……ふ、ふふ……ぜぇ、ぜぇ……」

「……コレット」

「はい?」

「……ず、ずっと……」

「……ずっと……?」

「俺の側に――」

「――今日何食べてく?」

「そりゃ、グレルリン特産の赤目鳥の串焼きだろ!」

「……」


 俺が意を決して言い放った言葉が、通りすがりの者たちの会話であっさりと流されてしまった……。


「カレルさん、今何か言いましたよね? ずっと……なんですか? もう一度お願いします……!」

「……な、なんでもない」

「あー、聞きたいです! 愛の告白かもしれませんし……!」

「……かっ、勘違いするなって。そんなんじゃないし……」

「うぅ……じゃあ、なんだったんですか?」

「……ずっと俺たち何も食ってないし、飯にしようって」

「あ、そうだったんですね! はいっ、ご飯にしましょう!」


 言葉になんかしなくても、コレットの元気な姿がすぐ側で見られるならそれでよかった。

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