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32話 隠し事


「……きて……」

「……うっ……」

「……ください……」

「……も、もう少し……」

「起きてくださいっ!」

「……ね、眠い……まだ……」

「いい加減、起きないとチューしますよ?」

「……え?」


 目を開けると、コレットの紅潮した顔がすぐ近くにあった。


「ちゅうぅ――」

「――ちょっ!」

「わっ!?」


 俺は咄嗟に上体を起こし、コレットを突き倒す格好になってしまう。


「だ、大丈夫か……?」

「へ、平気ですっ! おはようです、カレルさん!」

「おはよう……っていうか、まだ窓の外が真っ暗なんだが……?」

「こ、これくらい早く行かないとすぐ明るくなっちゃいますよ!」

「時計塔だとどれくらい?」


 コレットは視力が抜群だから、これくらい暗くても見えるはず。


「確か、三時半くらいでした」

「……早すぎだろ……」

「うぅ……ごめんなさい。でも、遅れたらどうしようって、いてもたってもいられなくて起こしちゃいました! うふふ……」

「……はあ」


 まあいいや。びっくりしたせいかすっかり目が覚めちゃったしな。


「もうちょっとだけ寝かせてほしかったけど、それでもこんなに早く起きて俺を起こしてくれたんだしな。ありがとう」

「どういたしましてっ!」




「「……」」


 既に準備自体はしていたこともあって、俺たちはみんなを起こさないよう廊下を歩き、玄関の扉をそっと開け閉めした。


 昨日リーダーから貰った簡単な地図を片手に、時折欠伸しながら前へと進んでいく。月明かりで周囲の様子はわかるし、遠くで時計塔がぼんやりと光っているので、時間や方角も大まかだが判断することができた。


「――疲れたな」

「ですね……」


 あれから大分歩いて、周囲も少し明るくなってきたものの会話が続かない。ダンジョンのある麓の町まではまだかなりの距離がありそうだ。そのせいかお喋りなコレットも気分が重いらしく口を閉ざすことが多かった。


「【投影】だっけ? リーダーのスキルがあれば楽なんだろうな。それじゃ鍛錬にはならないだろうけど」

「……ですねぇ……」

「……」


 コレットのやつ、何か様子が変だな。声にも力がない。


「きついなら負ぶってやろうか?」

「い、いえ! そんな、とんでもないです。ちょっと考え事をしていたので、誤解したんだと思います!」

「……そうだったのか。コレットが考え事なんて珍しいな」

「あー! 私だって鳥人間とはいえ、うら若き乙女ですから、秘密や悩みの一つくらいはありますよー」

「そ、そうなんだな」

「はいっ!」

「……」


 ほっとしたものの、コレットの悩みがなんなのか気になるな。能天気な彼女のことだからそんなに深刻なことじゃないとは思うし、興味深いのでこっちから切り出してみるか。


「鳥の血が混じってて翼もあるのに空を飛べないなんておかしい……とか?」

「あ、それも考えてました。カレルさんと一緒に空を飛べていけたら楽なのになあって……」

「だよなあ。やっぱり負ぶってやろうか?」

「いえ! むしろ逆に私がカレルさんを負ぶっていきます!」

「おいおい、無理するなって……」

「大丈夫です! ほら見てください、この元気をっ! ファイヤー!」

「……」


 コレットがどんどん先に走っていった。確かに凄い元気だ。じゃあ俺の勘違いだったのかな? 相当に疲れてるように見えたのは……って、このままじゃ置いていかれてしまう。地図を持ってるのはあいつだからな。


「おーい! 待てって!」

「待ちませんよー!」


 俺は必死にコレットの背中を目がけて走っていったんだが、途中で急に消えて呆然となった。


「あれ……? コレット……?」

「……くー……」

「……あ……」


 コレットの声がしたので周りを見渡すと、彼女は地べたにうつ伏せに倒れて寝ていた。なるほど、コレットは早く起きたわけじゃなくてずっと寝てなかったんだな。まったく、こんなところで気持ちよさそうに眠りやがって……。


「バカ……」


 俺は起こさないようにそっとコレットを背負い、ゆっくりと歩き始めた。

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