29話 因縁
「「……解散……!?」」
「うん、そうなんだ……」
俺たちが所属する《ゼロスターズ》のリーダー、ジラルドから聞かされたのはあまりにも衝撃的な事実だった。
彼は三日前にとあるパーティーと解散権を賭けて勝負していて、十五日という期間内に上級ダンジョン『勇壮の谷』の人類未到達階層である二一階層以降、一つでも多く階層を攻略したパーティーが勝利し、敗北したパーティーは解散するというのだ。
勝負の結果は、約束した日から十五日後の夜十二時を回ったところで、王都の冒険者ギルドで発表があるという。受付に両パーティーのリーダーがパーティーリングを提出し、係員がどこまで攻略したかを細かく見るのだそうだ。両パーティーとも同じ階層であればB面にいる側が勝利し、面も被った場合はその階層でのモンスターの討伐数で勝敗が決するとのこと。
もし解散したら、パーティーリングに残された攻略記録も全てリセットされるそうで、文字通り最初からやり直しになってしまうという。つまり、解散してしまうと初級ダンジョンからのスタートになってしまうんだそうだ。上級ダンジョンの一階から二十階層まで行くにも八六日間を要したというから、解散したら大変なロスになってしまうことがわかる。
「なんでまた、そんなとんでもないリスクを背負ってまで賭けを……」
「ですよねぇ。気になります……」
「……当然だけど、これは僕だけの判断じゃなくてね。賭けをした相手は因縁の深いパーティーなんだ……」
ジラルドは釣り餌つけた針を湖の中に投げ入れると、しみじみと語り始めた。
「元々、このパーティーのリーダーは僕じゃなかったんだ」
「「ええっ?」
「……エニスティっていう僕の幼馴染の男と一緒にパーティーを結成して、昔からリーダーシップのある彼がリーダーになったってわけ。パーティー名は僕が決めたんだけどね。二人とも外れスキル判定されたから、皮肉を込めて《ゼロスターズ》にしたんだ。ところが……間違いだった」
「「間違い……?」」
「そう。あとでわかったことなんだけど、エニスティのスキルはCランクじゃなくてSランクだった。それでも、最初は外れ認定されたからってことでしばらく二人でやっていくことになったんだけど……」
ジラルドの口元が真一文字に結ばれるのがわかる。初めてだ。彼が明らかに怒ったような顔を俺たちに見せたのは……。
「当時、最強パーティーと呼ばれていた《シューティングスター》にスカウトされて、その誘いに乗ってしまったんだ。あいつは……」
「「……」」
「悔しかったけど、しょうがないと思って涙ながらに送り出したよ。彼もこのパーティーを惜しんでたし、仲の良さも初めの頃は変わらなかったけど……やっぱりパーティーが違うと段々疎遠になってきて、ろくに会話もしなくなった。エニスティも新しいパーティーに馴染もうと必死だったんだろうし、僕もメンバー集めとかに奔走してたからね……」
「「なるほど……」」
「やっぱり、《ゼロスターズ》の新リーダーになった身としては強いスキル持ちには絶対に負けたくないっていう気持ちがあるし、幼馴染のライバルもいるしで当時の僕は滅茶苦茶気合が入ってて、メンバーを集めるだけじゃなくて色んなスキルを研究することでダンジョンを一気に攻略することに成功して、《シューティングスター》さえも追い抜いてしまった」
「「おおっ!」」
「とても快感だったよ。外れスキルの所有者の集まりがここまでできるんだってね。……でも、それから僕とエニスティの関係は最悪になった……」
「一体何が……?」
「気になります……」
「……彼は、『シューティングスター』の中でもリーダーになるほど上り詰めていた。だからこそ余計に僕のパーティーに負けたことが悔しかったんだろうね。メンバー同士でもいざこざや揉めごとが多くなって、僕自身エニスティの見下したような態度に激昂して殴りかかろうとしたこともあった。所詮外れスキル持ちの下種のくせにって言われたから……」
「「酷い……」」
「メンバーもカンカンに怒って、そんなに言うなら賭けをしようっていう流れになって、二十階層攻略済みで覇権を争ってる《ゼロスターズ》と《シューティングスター》の二つのパーティーのうち、解散権を賭けて期限以内にどっちが人類未到達階層をどこまで攻略できるかってことになったってわけさ……」
「「なるほど……」」
「それでも、簡単に攻略できる場所じゃないし、時間をかけてでも凄い可能性を持ってる外れスキル所有者を育てて、連携を大事にしながら攻略するつもりなんだ……おっ、今度は結構でかいのが釣れた!」
「「あっ……」」
リーダーの話はよくわかったが、自分にかかるプレッシャーもさらに大きくなったと感じた……。




